トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.37

航空機の道先案内人。空の安全を守る航空管制官

1日数千機の航空機が飛び交い、「過密」と言われて久しい日本の空。航空管制官は、地上からいわばその交通整理をし、パイロットと共に安全なフライトを実現する“空の番人”です。2022年7月放送開始のドラマ『NICE FLIGHT!』では、そんな航空管制官とパイロットの恋愛模様とともに、プロフェッショナリズムや仕事の醍醐味が描写されています。今回はドラマの視点を借りて航空管制官の仕事に迫るとともに、現職の方からよりリアルなお話についてうかがいます。

Angle C

前編

空の旅がさらに面白くなる「航空管制官」の基礎知識

公開日:2022/8/26

航空管制調査官
航空管制官

北角 信彦(前編)
岡田 崇太郎、梅原 菜帆(後編)

航空機の安全な離着陸のためにパイロットにさまざまな指示を出す航空管制官。具体的にはどんな業務をしている? 航空管制官になるには? どんなスキルや能力が求められる?……などなど、航空管制官に関する基礎知識を、ドラマ『NICE FLIGHT!』の取材にも協力した国土交通省航空局の北角信彦さんに教えてもらいました。

航空管制官の業務内容について教えてください。

 ひと言で言えば、「空の交通整理」をする仕事です。飛行中の航空機だけではなく、地上を走行する航空機にも、出発機は滑走路まで、到着機は駐機場までの経路を指示します。
 たとえば、飛行場においては滑走路を使用する時に、地上に出発機があれば、出発機を離陸させたあと到着機を着陸させるのか、それとも先に到着機を着陸させてから出発機を離陸させるのか、優先順位を判断します。1本の滑走路で離陸、着陸できるのは1機だけですから、状況に応じて順番やタイミングを適切に判断し、航空機が安全かつ効率的に離着陸できるよう指示を与える仕事です。

ほかには、どんな業務があるのでしょうか。

 航空管制官の業務は、いくつかに分かれています。いま説明した空港に離着陸する航空機に対して、管制塔から見える範囲内の交通整理を行うのは「飛行場管制業務」となります。離陸後は、レーダーで空港周辺の管制業務を行う「ターミナル・レーダー管制業務」の担当管制官が、航空機を航空路まで誘導します。到着する航空機を航空路から空港上空まで誘導するのも、この担当の業務です。航空路とは、航空機が安全に航行できるように上空に定められている「空の道」です。
 これら航空路を含めた日本上空の広い空域を担当するのが、「航空路管制業務」です。上空にはたくさんの航空機がさまざまな方向・高さで飛んでいますから、それらが互いに接近しないように、飛行経路や上昇・降下等の指示を行います。日本の空は広いので、「航空路管制業務」を実施する空域を細分化しています。その細分化した空域を「セクター」と呼び、セクターごとに担当管制官を配置し、管制業務を実施しています。目的地空港が遠い場合は、いくつかの航空路管制業務の担当管制官にバトンタッチ。担当空域内に目的地がある場合は、空港が近づいてきたら到着地のターミナル・レーダー管制業務の担当管制官に引き継ぎます。

出発から到着まで、何人もの航空管制官が関わっているんですね。

 そうなんです。
 ほかに「航空交通管理管制業務」という業務もあります。これは交通量の調整等により円滑な航空交通を形成する業務です。広い空といっても空域には限りがあり、交通需要と空域容量とのバランスを図るために飛行経路に係る調整や交通流制御を実施しています。
 交通流制御の一例を説明すると、たとえば、夕方などラッシュアワーには多くの航空機が空港へ集中して到着するので、いくつかの便は順番待ちのために空中待機をするなどして遅延が生じます。それを予防するために、ある時間帯や特定の空域に航空機が集中しないよう、当日の交通状況や気象条件を考慮して、出発機が離陸する前に出発時刻を調整しているのです。

まさに「空の道先案内人」という印象の航空管制官ですが、どうすればなれるのでしょう。

 航空管制官は国家公務員ですので、まずは公務員採用試験を受けて頂く必要がありますが、その中でも専門職となる「航空管制官」採用試験の受験が必要となります。
 採用試験に合格したら、航空保安大学校へ入校して、8ヶ月間の研修期間で各業務の基本的な知識や技量を身につけます。航空保安大学校は、航空管制シミュレータ設備を備えた我が国唯一の航空保安職員養成機関です。ここで基礎研修を履修し、基礎試験に合格すると全国の管制機関(33の空港と4カ所の航空交通管制部)に配属となります。
 配属先の管制機関では引き続き専門研修が行われ、座学およびOJT(実地訓練:On the Job Training)が実施されます。空港に配属された場合は「飛行場管制業務」または「ターミナル・レーダー管制業務」、もしくはその両方の資格取得を、航空交通管制部に配属された場合は「航空路管制業務」の資格取得を目指します。これらの資格を取得することで、晴れて管制官となるわけです。

一度資格を取得すれば、どの空港に行っても通用するのでしょうか。

 いいえ、空港ごとの資格が必要となります。そのため、転勤すると必ず訓練をして資格を取得しなければなりません。というのは、空港によって周辺の地形や気候の特徴がまったく異なるからです。各空港や官署の特性を踏まえた技量を身につけて、はじめて、そこで一人前の仕事ができるのです。管制官は、訓練と資格取得が常に必須となります。

航空管制官に求められる資質や、必要なスキルは何ですか。

 航空機は自動車と違って高度差により経路が交差するので、三次元空間をイメージできる力が必要です。複数の航空機を同時にコントロールするため、一点に集中することなくあちこちに気配りできることも重要です。それ以外にも、航空機の便名や通報事項を聞いてすぐに記憶できる短期記憶能力や、同時に複数の仕事をバランスよくこなす要領の良さもあると良いと思います。先ほど触れたように、継続的な訓練と資格取得が必要なので、常に学び続ける姿勢も大切です。

チームワーク力が欠かせない仕事だとも聞きます。

 高速で飛行するたくさんの航空機を安全に処理するには、個人の能力では限界があるため、管制業務にはチームワークが不可欠です。資格を取得すれば、ベテランも新人も管制官としては対等の立場です。間違いがあれば指摘しなければなりませんし、指摘されればそれを受け入れることが求められます。
 管制官にとって何が一番大事なのかと言えば、「航空の安全を守ること」です。年齢や経歴に関係なく、物事を冷静に分析する力や自分を客観的に見つめる姿勢はこの仕事の重要な要素です。

北角さんは、TVドラマ『NICE FLIGHT!』の制作にも協力されたとうかがいました。

 管制業務の概要説明を行った上で、管制用語の使い方、セリフのチェック、管制官の所作や視線などをアドバイスさせていただきました。管制業務では、基本は英語を使用しますが、聞き間違いを防ぐために独特の用語を使用したりします。例えば、高さを「維持する」という用語の場合、一般的には英語では「keep」を使うと思いますが、管制では「maintain」。発音も数字の「9」は通常「nine」ですが、管制業務では「niner(ナイナー)」と言います。ドラマでも登場するかもしれませんので、注意して聞いてみてください。

そういうお話をうかがうと、ドラマを見る楽しみが増えますね。

 管制官は空の安全を守るため、使命感、責任感を持って日々業務にあたっています。ドラマ『NICE FLIGHT!』を通じて、管制官について興味を持っていただけたら嬉しいです。空港を利用した際には管制塔を見上げて、管制官が管制塔から指示を出して航空機が離着陸していく流れをイメージしていただければと思います。管制塔を見上げる澄んだ眼差しを持ったお子さまや若い方が、将来管制官を目指すようになり、いつの日か空の安全を守る仲間として一緒に働けることを楽しみにしています。

航空管制官公式ホームページ<https://www.mlit.go.jp/koku/atc/

(向かって右から)

きたかど・のぶひこ 1974年生まれ、愛媛県出身、1994年4月に航空保安大学校へ入学。1996年4月に東京航空交通管制部へ配属、以後、青森空港出張所等の配属を経て2021年から現職。人事企画担当として、航空管制官の情報を発信・広報する業務を行っている。

うめはら・なほ 1991年生まれ、神奈川県出身、2018年12月に航空保安大学校へ入学。2019年8月より東京空港事務所航空管制官として配属し、現在に至る。

おかだ・そうたろう 1996年生まれ、愛知県出身、2018年4月に航空保安大学校へ入学。2018年12月より東京空港事務所航空管制官として配属し、現在に至る。
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