トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.15

狙うは、ナイトタイムエコノミー!

夜の時間帯に観劇、観光などのレジャーを楽しむ「ナイトタイムエコノミー」。訪日外国人客の増加が続く中、「日本の街には、夜間遅くまで楽しめる場所がない」という声が聞かれるようになった。受け入れ側の日本でも、夜を楽しもうとする観光客を受け入れれば、更に消費は拡大するのでは、との狙いから、経済政策としても注目されるようになっている。これまで規制一辺倒だった夜の街に、「楽しんで遊んでもらえるように」という発想が生まれ、新風が吹き始めている。

Angle A

前編

24時間「どの時間帯も楽しい街」へ

公開日:2020/2/14

「タイムアウト東京」

代表

伏谷 博之

近年の外国人観光客の増加は、観光業を中心に商機を生み出し、経済の活性化への期待を高めている。中でも開拓の余地が大きいとされるのが、夜の消費だ。日本の観光地は、他の観光先進国と比べて、夜間消費の選択肢が少ないと指摘されているが、裏を返せばその分伸びしろは大きいと言える。この潜在力に注目し、経済活性化を図ろうとしているのが「ナイトタイムエコノミー」の動きだ。東京を中心に、観光情報を収集・発信しているフリーマガジン「タイムアウト東京」の代表・伏谷博之氏にナイトタイムエコノミーの可能性について話を聞いた。

「タイムアウト東京」では東京の有名スポットや飲食店の情報発信をされていますね。

 私はオリジナル株式会社という会社を経営しているのですが、そのメディア事業として「タイムアウト東京」を、紙とウェブで情報発信しています。地元の「目利き」によって選び抜かれた情報を発信する点が特徴です。タイムアウトはもともとロンドンで1968年に創刊されたシティガイドなのですが、そのライセンスを私が2009年に取得し、日本での発行を始めました。タイムアウトは地域密着型のシティガイドでありながら、世界108都市で展開するグローバルメディアブランドで、外国人旅行者にとっては定番のガイドとなっています。東京の高級ホテルでも各部屋に配布するなどして利用してもらっています。

タイムアウト東京は外国人向けに英語で発行しているのでしょうか。

 英語版でも発信していますが、ウェブでは日本語版も出していて、外国風のテイストが好きな日本人も多く利用してくれています。
 外国人からすれば、やっぱり「地元で人気のレストランはどこだろう」「滞在中にどんなライブを楽しめるのだろう」という、最新の情報に触れたいという欲求があります。もちろん、旅行ガイドも便利なのですが、彼らは最新情報を「タイムアウト東京」で入手することができるわけです。社内には、日本人と外国人のスタッフを抱えて、食やエンタメなどの注目スポット情報の収集や取材活動を展開しています。

ナイトタイムエコノミーという言葉の普及前から、東京の夜の消費情報を発信していたのでしょうか。

 ナイトタイムエコノミーの先進都市と言えば、ロンドンです。私も情報収集のためにロンドンへ行ってきましたが、ロンドンでは市長選で「ナイトタイムエコノミーを推進する」という公約を掲げた市長が当選するなど、かなり積極的に取り組んでいます。ロンドンでも生活や労働の多様化が進んでおり、夜型生活をする人たちも増えています。そんな市民のために「24時間動く街」を整備するという考え方が、背景にはあるようです。
 もし、夜型人間が、昼型人間の8割しか人生を楽しめていないとしたら、それは良くないという発想です。例えば病院ではたくさんの人が夜間に働いていますが、そういう人たちが仕事をしつつ、人生も豊かに過ごせるようにするというのが大きな狙いの一つです。そこで夜間も交通機関を動かし、店舗の営業環境を整えるという動きが始まっています。
 米ニューヨークでも、ナイトタイムエコノミーへの関心の高まりから、メディアで多くの特集記事が組まれていますが、やはり夜型人間の生活スタイル重視の傾向がみられます。具体的には救急病院で夜勤をする人、午前4時に教会の鐘を鳴らすシスター、24時間営業のランドリー、フィットネスジムで働く人たちなどです。午前9時から午後5時までの働き方は20世紀のもので、21世紀からはその枠を壊して、多様化したスタイルが許容され24時間動く街で暮らすという文脈で紹介されることが多いようです。

【ナイトタイムエコノミーとは?】

※タイムアウト東京は24時間楽しめる東京を提唱している(画像はオリジナル社提供)

観光客のニーズに応えるという狙いもありますよね。

 もちろんあります。今や世界では14億人が海外へ旅行に出かける時代で、特にアジア圏からの旅行者が急増しています。そこで生み出される夜の消費を世界の主要各都市が、成長市場として狙っています。一般的に、観光客は限られた日程で海外を旅します。時には深夜や未明に飛行機が現地に到着します。中には時差で頭がさえている人もいるわけで、ホテルでゆっくり休息するよりも、時間を活用したいという気持ちもあるのに、街が静まりかえっていたら、がっかりしますよね。観光客に対し、「24時間どの時間帯も楽しい街だった」と評価されれば、そうした情報は瞬時に拡散されます。インバウンドは、「最後の成長領域」とも言われていて、ロンドンなど各都市が夜の市場拡大に取り組んでいます。また、起業などの形で様々なビジネスチャンスを生み出すことにつながることも期待されています。観光客が楽しめ、新たな雇用が生まれ、経済が活性化するというポジティブな流れが作られていくことが理想です。

潜在的な消費がある時間帯は。

 一般的にナイトタイムエコノミーは、午後6時から午前6時までの時間帯を対象にしています。日本国内で注目されているのは、「終電時間前後」の時間帯で、午後11時から午前2時ぐらいまでです。電車を利用できるうちに帰宅しようと、皆が消費をストップさせる時間帯ですよね。ここに消費機会のロスがあると思われます。国土交通省では大阪で、Osaka Metroの協力の下、御堂筋線の終電時間を午前2時台まで延長して地下鉄の利用状況や沿線の店舗での消費動向を調査する実証実験を始めました。どのくらい消費が伸びるかということですが、ナイトタイムエコノミーは午前6時までなので、私はもう少し遅くまで延長した方が、効果が期待できるかなと思っています。
※後編は2月18日(火)に公開予定です。

ふしたに・ひろゆき ORIGINAL Inc. 代表取締役、タイムアウト東京代表。島根県生まれ。関西外国語大学卒。大学在学中にタワーレコード株式会社に入社し、2005年代表取締役社長に就任。 同年ナップスタージャパン株式会社を設立し、代表取締役を兼務。タワーレコード最高顧問を経て、2007年ORIGINAL Inc.を設立し、代表取締役に就任。2009年にタイムアウト東京を開設し、代表に就任。観光庁、農林水産省、東京都などの専門委員を務める。観光庁アドバイザリーボード委員、観光庁最先端観光コンテンツ ・インキュベーター事業「地域活性化に向けた観光コンテンツ拡充推進会議」委員、「夜間の観光資源活性化に関する協議会」委員。自民党時間市場創出推進(ナイトタイムエコノミー)議連アドバイザリーボードなどを務める。
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