トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.19

離島は日本のサテライト拠点?

6800を超える島々で構成される島国の日本では、その領域、排他的経済水域の保全や、多様な歴史や文化の継承といった様々な重要な役割を担う離島。豊かな海洋資源に囲まれ、その魅力に引かれて定住する流れが生まれつつある。国は有人島のうち沖縄、奄美、小笠原などを除く78地域255島を離島振興法の対象とし、近年では離島と企業をつなぐ「しまっちんぐ」の開催やICT等の新たな技術を離島に導入を推進する「スマートアイランド」などの振興策に取り組んでいる。また、働き方改革などでリモートワークが広がるなか、ワーク・ライフ・バランスを実現する環境を持つ離島の多様な魅力に迫る。

Angle A

前編

何もない島で育ったからこそ今がある

公開日:2020/7/14

タレント

千鳥

大悟

離島では、本土にはないような豊かな自然環境や昔ながらの文化が守られている。人気お笑いコンビ、千鳥の大悟さんが育った北木島(岡山県笠岡市)もそのひとつ。大悟さんは、島には信号機がなく、学校で横断歩道の渡り方を習った…などと、島での暮らしぶりをネタにしたり、離島を特集するテレビ番組でMCを担当するなど、離島の魅力を発信し続ける。そんな大悟さんに、離島ならではのエピソードとともにその魅力を語ってもらった。

北木島とは、どんなところなのでしょうか?

 瀬戸内海の中心にある約30の島々からなる笠岡諸島のひとつで、もっとも大きな島です。大きいとはいっても人口は1000人弱。近所の人は家族というか、周りの大人が全員、親のような存在でした。近所に「何かやらかしたら、このおっちゃんに怒られる」という「怖いおやじ」がいたり、逆に優しいおっちゃんもいて、色々なジャンルのお父さんとお母さんがいるという感じでした。
 ワシ自身、幼稚園のころから、朝ごはんは隣のおばちゃんの家で食べていました。今、考えると不思議ですが、そのおばちゃんの家には、ほかにもカレーライス目当てに土曜日だけ食べに来るお兄ちゃんとかもいました。そんな付き合いが普通でしたから、ワシは通知表も両親よりも先に、そのおばちゃんに見せていたのです。そんなことが何の違和感もなく、当たり前でした。

離島ならではのエピソードを教えてください。

 北木島にはバスやタクシーはおろか信号機もありません。だから小学校では信号を渡る授業がありました。店なんてほとんどないし、もちろんコンビニもありません。自動販売機が置かれたときには行列ができたほどです。だから、自分の晩ごはんは自分で魚を取ってきて食べるのが普通でした。まさに自給自足ですね。小学5年か6年の時の誕生日プレゼントは、当時の子供なら普通はファミコンとかだったのでしょうが、ワシの場合は胸まである長靴(ウエーダー)でした。それを履いて、朝から魚介類を取りに行っていました。
 そんな生活ですから、島に住んでいる子供達は泳ぎがみんなうまかったです。岡山市内とかの水泳大会に出ても、島民は圧倒的に速い。でも、プールで泳いだことがないのでターンができなくて…(笑)。あと、これも本土での思い出ですが、修学旅行の宿泊先のホテルで、エレベーターを初めて見たとき、それが珍しくて外にもいかず、ずっとエレベーターに乗っていました。

島の思い出の場所や景色を教えてください。

 昼寝するのに気持ちのいい岩場がいっぱいあったのですが、これは説明しにくいし、伝わりにくいですよね(笑)。
 北木島の近くに通称・亀島という無人島があって、小学5年の時だったか、夏休みの1カ月間、朝から夕方まで毎日行きました。そこでは晩ごはん用の魚を取って、疲れたら岩の上で昼寝していました。都会の人とは時間の感覚が違うので、皆さんにとっては不思議に思うかもしれませんが、「いかに何もしないで飯を食べるか」が島の過ごし方でした。それを退屈とも、長いとも思わなかったです。また、その島にはなぜかヤギが1匹いて、最初は「見たこともない少年が来たぞ」と警戒していたようでしたけど、最後の方はワシが寝ている横で一緒に寝ていました。
 あるとき、その島を外国人の大富豪が買うという噂が立って、「何もない島を買うということは、何か宝が埋まっているに違いない」と盛り上がって、みんなで掘りに行ったことがあります。大きい蛤が出てきて終わりました(笑)。

【北木島の採石場は日本遺産にも認定されており、高さ60m迫力ある石切り場の絶景を楽しむことができる】

※笠岡市観光連盟提供

そんな島の生活が芸人を志すきっかけにも?

 そうですね。小学6年の時に文集で「吉本」と書きました。島には年1回、夏祭りがありました。その日だけは出店も出ました。その祭りでトラックの荷台を舞台に出し物をするのですが、そこに毎回、本物の芸人さんが来てくれたのです。遠くから見ていて、すごいなぁーと思った。だって、わざわざ集まってまで、その人たちを見に行くわけですから。何もない島で育ったからこそ、そのすごさを感じた。それで自分自身が頑張って、そういう存在になりたいと思いました。

観光スポットや地元のグルメを紹介してください。

 カフェとかレストランといった、おしゃれなお店はないですが、ラーメン店が2軒ほどあって、そこはおススメです。子供のころからある店と、港に最近できたお店。どっちもおいしいです。子供のころからの店は、鳥ガラベースに「カメノテ」という瀬戸内海などの岩場で取れる甲殻類のだしを使ったラーメンで、ここでしか食べられないという味です。港近くの店の方も、普通においしいです。ウチの島はラーメンのポイントは高いですね。
 それと、瀬戸内の三大銘石の産地として、花崗(かこう)岩の採石と加工が有名なので、その採石場は、都会では見られないスポットですね。山にでっかい穴を掘っていて、そのスケールは圧巻です。南国リゾートとかではなく、リアルな生活感のある島を体験するには、ウチのような島はおススメです。
※後編は7月17日(金)に公開予定です。

だいご 1980年3月25日生まれ。岡山県笠岡市(北木島)出身。2000年、高校時代の同級生のノブとお笑いコンビ「千鳥」を結成。2004年に「ABCお笑い新人グランプリ」で最優秀新人賞を受賞。2011年に「上方漫才大賞」で奨励賞、「THE MANZAI 2011」決勝3位、「同2012」「同2013」で、ともに決勝2位。自らを「ワシ」と呼び、岡山弁と大阪弁が混在した訛(なま)りと独特のボケが特徴。これにノブが「クセがすごい」「イカ2貫!」などと突っ込む絶妙のコンビネーションでブレイク。現在、バラエティー番組のMCやCM出演など幅広く活躍している。趣味はお酒、競艇。特技は島で鍛えた素潜り、野球の送球フォーム、たこ焼きをおいしく焼くこと。
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