トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.31

ビジネスマン必携!?進化する白書

各省庁の取り組みや、その背景となる社会の実態などをとりまとめて発行している白書。変化の激しい時代の流れや、日本という国がどこに向かっているかを知る手がかりが凝縮されているのだ。質の高い情報を活用して新たな価値を想像することが求められているビジネスマンたちとって、白書はどんな利用価値があるのか。そのヒントを探る。

Angle A

前編

一つのことを深く知って広がった世界

公開日:2021/7/27

女子鉄アナウンサー

久野 知美

中央省庁をはじめとする行政機関が発行する「白書」は、日本の政治・経済・社会の現状や施策の進捗などを国民に報告するものだ。近年は図表や写真の見やすさ・美しさを工夫し、事例やコラムも豊富に取り入れた編纂でとっつきにくいイメージを払拭しつつある。「女子鉄アナウンサー」として鉄道会社への取材や執筆も手掛ける久野知美さんは、白書にも目を通すという。鉄道との出会いや鉄道好きのアナウンサーとなった経緯、白書に持つイメージなどを聞いた。

久野さんが鉄道ファンになったきっかけは?

 乗り物は小さい頃から好きで、小2のクラスでバスごっこが流行った時はお客さん役でなく率先して運転手役をしていました。遊園地のジェットコースターも大好き。鉄道の魅力に目覚めたのは、高校時代に通学で京阪電車(京阪電気鉄道)を使うようになってからです。実家(寝屋川市)の最寄り駅から高校のある京都府宇治市の駅まで毎日乗るうちに、当時現役だった旧3000系電車の魅力にハマり、「京阪愛」が高まりました。
 高校生の私は、当時珍しかったカラーテレビがついた席や2階建て車両がある高級車を普段使いできることに興奮したんだと思います。なんと京阪電車は、特急に特急料金なしで乗車できるんです。特急ならではの、窓と隣り合うように座れる背面の高いクロスシートや、京都の西の山並みがきれいな2階席が定期券でOK。「階下席にするか、2階席か、それともテレビを観ようか」と思案するところからワクワクしたものです。ホームを低い視点で眺められる階下席も面白かったです。3種類の席を楽しめることをひそかに「鉄のトライアングル」と名付けていたのですから、もう鉄道ファンですね。休みの日に定期の圏外の大阪や京都の繁華街へ遊びに行くのも、京阪電車に乗る楽しみが大きかった。高校時代のバイト代は結果的に京阪電車につぎ込んでいたと言ってもいいかもしれませんね(笑)。ちなみに京阪電車は、現在「プレミアムカー」など座席指定の特急だけ追加料金がかかるようになりましたが、特急の自由席は運賃のみのままです。
 2013年の旧3000系引退は感慨深かったですね。もちろん、ラストラン(特別運転)には駆けつけて、テレビカーに乗車しました。

【引退後の旧3000系車両が活躍する富山地方鉄道にて】

※久野さんのブログから

高校卒業後はどのように鉄道と関わっていったのですか。

 大学時代は海外や国内を旅しました。国内旅行では東北から九州まで「青春18きっぷ」をフル活用です。JR全線の普通列車の普通車自由席が5回乗り放題という「青春18きっぷ」は、春季用、夏季用、冬季用と3つあって、まさに大学の休みの期間と重なっているんです。次はどこに行こうか、どの列車に乗ろうか、計画するのも楽しかった。気ままに一人で旅したり、友人と出かけたりしていましたね。
 私はたとえば各駅停車で40分かかると言われても「えーっ(遠い)」なんて思うことはなく、コトコト乗り続けるのは好き。知らない路線だったら、どんなふうに景色が移り変わるんだろうと期待するほどです。今でも「青春18きっぷ」を愛用していますが、大学時代の普通列車の旅が、各駅停車もいいなと思える自分をつくってくれたのかもしれません。それに、アナウンサーを目指して全国の放送局に就職試験を受けに行く時も「青春18きっぷ」を使ったんです。新幹線に乗る発想がないというよりお得が好きな大阪人気質から、「青春18きっぷ」の魅力にハマっていきました(笑)。新幹線ももちろん活用しましたが、1カ月に何度も使うなら学生のお財布にも優しくて最高でした。
 就職活動の思い出も鉄道にあります。岐阜県の大垣駅から東京に向かう夜行快速「ムーンライトながら」に揺られながらエントリーシートを書きました。2002年頃のことですが、「ムーンライトながら」にはセミコンパートメントと呼ばれる個室があり、大きなテーブルがあって書きものがしやすく、私はお気に入りでした。この席は通常の指定席と別の扱いだったため、予約システム上はその列車が満席でも、駅の窓口で「セミコンパートメントありませんか」と聞いてみると残っていることがありました。そうやってセミコンパートメントを確保することはテクニックならぬ「鉄ニック」と個人的に呼んでいました(笑)。「鉄ニック」が使えるとうれしかったですね。

知る人ぞ知る知識が役に立ったんですね。久野さんは鉄道の知識が豊富で、著書出版されていますが、情報収集のときに、省庁が発行する白書に活用されることはありますか。

 私は2019年から「日本鉄道賞」の表彰選考委員を務めているので、国土交通省の白書は読んでいます。選考委員の大学の先生や交通関係の組織の方々とともに、応募者のプレゼンを聞き、応募書類をもとに評価・議論する選考には責任を感じます。選考委員として、鉄道をはじめとする交通機関を取り巻く現状は理解しておきたいと思っています。白書は、そうした最近の動向について近年の社会的背景を踏まえてまとめられており、概略を把握するのに役に立ちます。

実は、白書を多くの方に読んでいただこうと、各省庁で毎年いろいろな工夫がされています。久野さんが実際に読まれてみて、印象に残ったことはありますか。

 国土交通白書はとても読みやすいと思いました。特にインタビューやコラムが興味深かったです。大学の先生など専門家の方のインタビューはよくまとめられていて、すんなりと読むことができました。また、コラムでは「こんな取り組みもあるんだ」といった発見があったり、若い年齢層の方のコメントにも共感できたりと楽しく読み進められました。私は取材する立場でもあるので、地道な積み重ねが実ったコラムに感動を覚えることもあります。そうした生きた情報から視野を広げることができたのは、私にとって収穫です。一般の方にとっても、私のように鉄道や交通など興味のあるテーマから入って、知らないうちにそれ以外の分野へ興味を広げてくれる資料になっていると思いますよ。

【資料で得た知識は現場取材でも生かされます】

※久野さんのブログから

鉄道を軸に幅広いお仕事をされていますね。

 アナウンサーになりたかったのは、世の中で人知れず輝いている人やモノ、コトにスポットを当てる仕事がしたい、その近くに行けるのがアナウンサーだと思ったからです。でも、テレビ局のアナウンサー試験はすべて敗退。自分を見失い、自分探しも兼ねてインドネシアのある島へと旅に出ました。この旅での出会いやフリーランスで活躍する先輩の存在に励まされ、私もアナウンサーの夢をあきらめずフリーで頑張ることに決めました。そして地元の大阪を中心に2年間前の事務所に所属してフリーで活動し、2008年に東京に出てきました。
 ただ、アナウンサー試験の時もフリーアナウンサーとして働き始めた当初は、自分が鉄道ファンであることをアピールしていなかったんです。大阪時代の自分の周りには京阪愛のある人が多く、自分の鉄道愛が特別強いとか人より知識が多いとは思っていなかったんですね。
 それが今の事務所に入って南田裕介さん(現 ホリプロ スポーツ文化部チーフマネージャー)にマネージャーを担当していただくことになって運命が動き出しました。南田さんは、タレントさんのマネジメントをしながらも鉄道大好きマネージャーとしてタモリさんの番組に出演してしまうなど、鉄道ファンの間ではすでに有名人でした。彼が担当だと聞いた当初は「私とは違う『鉄』の世界の人だ」とよぎりましたが、一緒に話したらすぐ、「私も同じ世界の人だった」と気づかされました。それは新鮮な衝撃でしたね。そこから、南田さんが鉄道のテレビやラジオなどの仕事につなげてくれ、鉄道ファンとしてアナウンサーやイベント司会の仕事をいただくようになりました。オーディションでも鉄道好きをアピールするようになりました。
 旧3000系に魅せられて「鉄」に目覚めたのは高校時代、自身の「鉄」に気づいたのは社会人になってからです。好きになって、知りたくなって、知るともっと好きになる。その繰り返しが強みになり、強みだと気づいたことでもっと知りたくなります。それがたくさんの出会いにもつながり、女子鉄アナウンサー久野知美になれたんだと思います。
※後編は8月3日(火)公開予定です。

くの・ともみ 1982年7月21日生まれ、大阪府寝屋川市出身。立命館大学文学部心理学科在学時代は国内・海外の各地を旅した。関西でフリーアナウンサー、レポーターの活動を経て上京し、2008年よりホリプロのアナウンス室に所属。鉄道への愛と知識あふれる「女子鉄アナウンサー」として、テレビ朝日「タモリ倶楽部」、BS日テレ「友近・礼二の妄想トレイン」、NHKラジオ第1「鉄旅・音旅 出発進行!」など鉄道に関する多くのテレビ、ラジオ、イベントへのレギュラー・ゲスト出演多数。そのほか、Webサイトで鉄道の連載記事を担当するなど活躍中。著書も多く今春発行の『東京メトロとファン大研究読本』が最新刊。国土交通省の「日本鉄道賞」表彰選考委員も務める。
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