トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.10

旅行しない若者たち

2018年、訪日外国人観光客(インバウンド)数はビザ緩和などの効果により3,000万人を突破したが、日本人の海外旅行客(アウトバウンド)数は1,895万人と過去最高を記録したものの、訪日外国人観光客数と比較すると、まだまだ少ないと言える。特に若者の出国者数は人口そのものの減少に伴って、ここ20年で33%減少している。若者たちはなぜ外国へ行かなくなったのだろうか。この問題の背景と解決に向けた方策について探る。

Angle B

後編

好きなこと × 旅、接点をみつけよう

公開日:2019/9/13

ダイヤモンド・ビッグ社「地球の歩き方」事業本部

部長

奥 健

旅にも色々なタイプがある。一人旅、友人との旅行、団体旅行など。人間形成に役立つ旅行となると、どんな旅が良いのか。奥健さんは、旅のタイプを問わず、まずは、本やネット情報の空間から一歩、前に出て出かけることの重要性を訴える。

心に残る旅行をするためには、その旅行形態も大切ですよね。

 以前とは異なり、旅行者に最初からバックパック旅行を求めることは、今はできないでしょう。だから私は旅の形態はあまり問いません。一度外に出てみれば、日本との違いが分かるから、とりあえず旅立ってほしい。飛行機に乗って空港に着けば体感できる現地の風や、においなどユーチューブでは伝わらないものがあるわけで、実際に目で見て足で立つことが大事です。旅慣れてきたら、一人旅を考えてみればいいのです。食事や添乗員が付いたフルコースのパックから、ホテルと航空券だけがセットされたフリーに近いパックなど、自身の経験にあわせて選べば良いと思います。

ネットが発達したことで、旅情報は変化しているのでしょうか。

 便利になったということに尽きます。行きたい旅行先の情報は何でも調べられます。旅先でも以前は現地のネットカフェなどで情報収集していましたが、今は、手元のスマホで調べることができます。多くの宿でWi-Fiが利用でき、最新情報が得られます。旅行しようとする人にとって、ネット上には無尽蔵に情報が用意されていますが、一方で中身は玉石混交です。情報を書いている人の背景をチェックすることも必要です。
 ガイド本「地球の歩き方」も時代に合わせて変化してきました。40年前に初めて出版した時は若者向けで、安宿情報などが中心でした。しかし日本人の海外旅行が、全世代で拡大していく中で、すべての世代に対応したガイドへと変化しました。その後、2010年には20~30代女性を主な読者層とした「aruco」を出しました。また現地滞在72時間以内の人向けに、短時間で目いっぱい遊ぶことを目指した「Plat(ぷらっと)」を2015年に出すなど、トレンドに合わせて出版をしています。もちろんネットやSNSでの情報発信もしています。

良い旅をする「コツ」があれば教えてください。

 まずは自分の好きなことを旅と結びつければいいのではないでしょうか。私は洋楽が好きだったので、かつて数々の大ヒットアルバムを出したことで知られる「キャピトル・レコードの本社に行きたい」という動機でアメリカに行きました。
今なら、大谷選手の活躍を見にメジャーリーグを見に行くような、自分の好きなことと海外をつなげる旅をおすすめします。例えば、スポーツ観戦や音楽、映画、小説、時計などをきっかけに、動機付けしてくれればと思います。

観光庁では「観光立国推進計画」の中で日本人の海外旅行者数を年間2000万人とする目標を掲げています。

 インバウンドの盛り上がりに刺激されて、コミュニケーションが始まるきっかけが増えてくれればいいですね。簡単なところだと、迷っている人に道を教えてあげたついでに、少し話してみるとか。結局は、自分で接点を持とうとするかどうかなのですが、その話がきっかけでその人の国を知ったりと、何かが海外へとつながればいいのではないでしょうか。
 普段の生活でも、海外の人と話をし、友達になることは楽しいですよね。特に学生であれば、大学生同士の共通な感覚を生かし、海外の学生と交流してみてはどうでしょうか。多くの大学ではたくさん留学生がいるはずです。たとえばドイツからの留学生と仲良くなったりもできますよね。それをきっかけに、ドイツの実家に遊びに行く旅とか、大学生にはぜひしてもらいたいですね。大学側も人的交流を活性化させたいと思っているはずです。
 「海外の友達100人つくろう」など、そういう動機から始めてもいいのではないでしょうか。そのように意識を高めていかないと、ただ街を歩いているだけだと「外国人が増えてるなあ」「銀座線が混んでいるなあ」で終わってしまいます。

【訪日外国人の急増に比べ、出国日本人数は横ばい状態が続く】

出典:観光庁

海外旅行に消極的なのは、言葉の面が大きいのでしょうか。

 今の若い人は私たちの世代よりも英語ができますよ。また、通訳機やグーグルによる翻訳機能など以前より更に便利なツールがたくさんあります。若い人たちはそういうツールの恩恵を受けている世代です。
ただ、安全面を重視して海外旅行を敬遠する人はいます。東京は便利で安心安全だし、インフラが整っていて、水も飲め、トイレもキレイで、高い水準のホテルもある。海外に出たくないというのはあるでしょう。でも、日本の良さを伝えに行ったり、日本にはないものを見つけたり、日本との違いはどこにあるのだろう、という視点で好奇心旺盛な旅をもっとしてほしいですね。
旅の情報を集めるツールはそろっています。行こうという気持ちになれば、かなり便利な時代になっていますよ。(了)

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