トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.15

狙うは、ナイトタイムエコノミー!

夜の時間帯に観劇、観光などのレジャーを楽しむ「ナイトタイムエコノミー」。訪日外国人客の増加が続く中、「日本の街には、夜間遅くまで楽しめる場所がない」という声が聞かれるようになった。受け入れ側の日本でも、夜を楽しもうとする観光客を受け入れれば、更に消費は拡大するのでは、との狙いから、経済政策としても注目されるようになっている。これまで規制一辺倒だった夜の街に、「楽しんで遊んでもらえるように」という発想が生まれ、新風が吹き始めている。

Angle B

前編

夜のBEPPU 湯煙ライトアップ!

公開日:2020/2/21

B-biz LINK

マネジャー

堀 景

前回登場の伏谷博之氏はナイトタイムエコノミーを考えるときに、夜の楽しみ方の選択肢を増やすことで新たな商機を生み出せると語ったが、地方都市でも期待が高まっている。これまで昼間の目線で考えていた観光資源に新たな付加価値を見いだそうとする試みが始まっているが、国内人口の減少や海外旅行ブーム等の影響で長期間低迷した地方観光にいきなり高い成果を求めることは難しい。温泉を中心とした観光地の大分県別府市は、観光入込客数のピークが昭和30~40年代だったがその後は低迷が続いた。別府市でナイトタイムエコノミーはどんな変化をもたらすか。現地で観光振興に取り組む「B-biz LINK」の堀景マネジャーに話を聞いた。

昨年、ナイトタイムエコノミー事業として温泉を利用したイベントを開催されたそうですね。

 別府市には熱水がわき出る「地獄」と呼ばれる観光名所があります。そこで8月10日から10月20日まで「地獄の夜祭」と銘打って、数か所の「地獄」に立ちのぼる湯煙をライトアップする事業に取り組みました。この事業は観光庁に選定された「最先端観光コンテンツ インキュベーター事業」のモデル事業(夜の地獄めぐりと地獄の夜市)の一環なのですが、それまで一部の「地獄」の運営事業者が年に1週間程度開催していた「夜の○○地獄」にヒントを得て、期間も2か月余りに延長し、午後6時~10時の間、数か所の「地獄」で同時開催としました。 通常、「地獄」は午後5時で閉園していたので、夜の姿を皆さんは知らなかったわけです。写真映えもするように演出しました。もうもうと動く湯煙に照明も連動して動かすと迫力のある姿が浮かび上がります。

「地獄の夜祭」はどのようなコンセプトで企画されたのでしょうか。

 同時期にラグビーのW杯が、別府市からバスで1時間足らずの大分市の競技場で開催されていました。競技場から別府市に来てもらいたいという狙いもありましたが、そこに過度の期待は抱いていませんでした。まずは、観光シーズンだったこの時期に、こういうことができるという実績を作りたかったというのが正直なところです。
 別府市の「地獄」とは一言で言うと「見る温泉」です。源泉温度が98度程度もあるので、そのまま入浴することはできません。
 また、各「地獄」は、温泉がポツンとあるわけではなく、日本庭園に溶け込む形であります。日本庭園には春夏秋冬、そして夜に美しい姿がありますが、別府市の「地獄」も昼の姿だけではなく、美しい夜の姿を見せたいと考えました。観光入込客数が最盛期だった昭和30~40年代にかけての時代から、ずっと朝8時から午後5時までの営業時間だったので、違う姿をご覧に入れたかったのです。

【2019年8~10月に展開された別府市の「白池地獄」のライトアップ】

一般社団法人B-biz LINK提供

取り組んでみての手応えはいかがですか。

 一定の経済効果はあったと思います。開催期間中、週末ごとに台風や大雨があったりしたので、予想を下回りましたが、それでも期間内に約3万人が来場し、入場料で約2300万円、その他お土産品の購入などで約700万円の売り上げがありました。それまで売上額がゼロだった時間帯にそれだけ生み出したということで、一定の成果を上げることができたと思います。

外国人のお客さんも大勢来場されましたか?

 いえいえ。来場者の大半は国内からの、そして近隣の人たちで、自家用車などで来場される方が多かったです。インバウンド(訪日外国人旅行客)の割合は8%くらいでした。今回が初めての試みだったので、こうしたイベントがあるということをインバウンドに伝えるのは正直なところ難しかったです。別府市は、福岡県から多くの人が訪れるという土地柄なのですが、福岡県の人が日帰りで温泉を楽しむことが多いのです。日帰りで訪れる人には、夜のイベントは時間的に厳しいですよね。実はインバウンドも別府市内に宿泊せずに、福岡県内に宿泊する人が多いんです。そうなると、夜のイベントは宿泊客をターゲットにしているので、日帰り客ばかりだと来場者増につながらないという構造があるのです。今回は一定の需要を掘り起こしましたが、これからは、「この夜のイベントが見たい」という目的で訪れる宿泊客が増えるという好循環につながっていけば良いですね。
 また、地元の人が多かったというのは、地方ならではの特徴ではないでしょうか。それまで夜の時間帯には、カラオケかパチンコ、居酒屋といったところにしか出かけるところがなかったのが、今回のイベントを通して新しい楽しみ方が加わったので、評判になったようです。今後、来場者を地元から九州全体へ、そして日本、海外へと広げていきたいです。

地元の旅館やホテルの協力は得られましたか。

 一定の理解は得られました。ただ、宿泊業は夜の時間って結構忙しいんですよね。別府市の観光振興のために人的協力も期待したのですが、各旅館やホテルとも夕食の準備などで忙しく、期間中は会場スタッフの人繰りが大変でした。しかも、旅館やホテルからしてみれば、夜の時間は、宿で出す食事や温泉を楽しんでもらいたい時間帯でもあるわけです。夜の屋外消費とでは利害がぶつかります。最近は素泊まり志向も強まって変化もしてきているのですが、その辺の調整も今後の課題です。

新たな観光資源としての可能性が見えてきましたか。

 まずは「地獄の夜祭」を定番化させられたらと考えています。別府市は基本的に、昭和30~40年代までに形づくられた温泉地という遺産で生き抜いてきた観光地ですので、観光戦略の最先端を走っているわけではありません。課題は山積みです。外国人の割合は年々伸びていますが、まだ全体の1~2割程度であり、大部分は国内のお客さんですので、まずは国内のお客さんを大事にしていきたいです。特に若い人たちに関心をもってもらえるように、ウェブなどでの情報発信に努力しています。これまでも、遊園地を温泉のお湯で満たす「湯~園地」というプロジェクトや、源泉そのものを50℃前後でご自宅のお風呂にお届けするプロモーションなどで話題を作ってきましたが、国内のお客さんの反響は大きいと感じています。
 課題はインバウンドの取り込みですが、国内の人気スポットとして、外国人に評判が伝わるような仕掛けを作りたいと思っています。2019年はこれまで別府市を訪れていた多くの韓国人旅行客が急減したので、今後は東南アジア、オセアニアや温泉と親和性の高い欧州諸国などの旅行者へのPRを強めていきたいと思っています。
※後編は2月25日(火)に公開予定です。

ほり・ひかる 2000年から4年間、別府市観光課にてまつりイベント及び宣伝業務に携わる。04年から10年間、人事担当部局に在籍。14年に再び観光課配属、16年に同課誘致宣伝係長、17年に同課長補佐兼別府ブランド推進係長として「遊べる温泉都市構想・湯~園地計画」、「別府温泉の恩返し」事業等を手掛け、18年4月から別府市版DMO(観光地域づくり法人)機能を構築すべく観光マーケティングチームマネジャーとして現法人へ出向。
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