トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.31

ビジネスマン必携!?進化する白書

各省庁の取り組みや、その背景となる社会の実態などをとりまとめて発行している白書。変化の激しい時代の流れや、日本という国がどこに向かっているかを知る手がかりが凝縮されているのだ。質の高い情報を活用して新たな価値を想像することが求められているビジネスマンたちとって、白書はどんな利用価値があるのか。そのヒントを探る。

Angle B

後編

議論を重ね、方向性を一つに

公開日:2021/8/17

防衛省

企画評価課
白書作成事務室

毎年編纂を担当するメンバーが入れ替わる防衛白書。若い世代をはじめ、さまざまな世代の人に関心を持ってもらいたいと取り組んだ編纂過程では、強いやりがいとともに苦労もあったようだ。困難な場面に遭遇したときには、「読者に何を伝えたいのか、伝えるべきなのか」という原点に立ち戻ったうえで、自分たちの方向性を確認し、チームワークを発揮して乗り越えていったという。

防衛省大臣官房企画評価課白書作成事務室
(※取材当時)
室  長 柳田 夏実
1等陸佐 林 豊
2等空佐 秋葉 和明
2等海佐 清 香織

『防衛白書』の編纂にはどのような方が関わり、どういった手順で進めているのでしょうか。

(柳田) 防衛省本省内部部局から1名、陸・海・空から幹部自衛官がそれぞれ1名ずつ集められ、この4名が中心メンバーとなって編纂作業に取り組んでいます。そのほかに曹士自衛官1名、事務官1名がサポート業務に携わっています。
 『防衛白書』の編纂担当者は1年ごとに交替します。令和3年版を担当するチームが発足したのは昨年の8月のことで、今年の8月には令和4年版の編纂チームに引き継ぐ予定です。
 他省庁の白書と大きく違うのは、執筆も基本的にこの4名で行っていることです。私たちが執筆したものに対して、省内外の関係部署に確認してもらったうえで、原稿を完成させていくという流れになります。
(林) チームが発足したあと、まず最初の半年間は様々な方々からご意見を伺ったり、企画や構成や練ったりする期間に充てました。そして残りの半年間で執筆や編集作業を行いました。

【令和3年版防衛白書の編纂】

※編集会議の様子

みなさん、編集や執筆の経験は豊富なのですか。

(柳田) いえいえ、まったく(笑)。私はこれまでは本省内部部局で政策立案に携わってきました。
(清) 私は前の配属先では、海上自衛隊で護衛艦の副長を務めていました。
(秋葉) 私は航空自衛隊で、移動式のレーダーを運用する部隊の隊長を務めていました。
(林) 私は陸上自衛隊の施設科部隊で指揮官職に就いていました。

どんなところにやりがいや魅力を感じながら、編纂作業に携わっておられましたか。

(柳田) 『防衛白書』は各省庁が刊行している白書の中でも、販売部数がもっとも多い白書です。数多くの方に読んでいただけるということに、重い責務を感じつつも、それがやりがいにもなっていました。
(清) 自衛隊の中で編集関係の業務に携われる機会は、広報部門に配属にならない限りはまずありません。自衛官人生の中でも貴重な経験を積むことができたと思います。
(林) 『防衛白書』は日本のみなさまだけではなく、海外の政府関係者や有識者・専門家も読者対象となります。そんな中でどんなテーマを取り上げ、それをどのように表現すれば、こちらが伝えたい情報を誤解がないように相手に伝えられるかを、常に考えながら執筆に携わっていました。これは非常に勉強になりました。
(秋葉) 今回集まったメンバーは、本省内部部局や陸海空のそれぞれのフィールドで豊富な経験を積んできたプロフェッショナルです。みなさん尊敬できる方ばかりでした。それぞれの出身母体を超えて、横のつながりができたことは大変貴重な機会になりました。またこの仕事を通じて、幅広い視点から、自分自身が所属している組織を客観的に見つめ直すこともできました。

逆に大変だったことは何でしょうか。

(柳田) もっとも苦労したのは、省内外の関係部署との調整でした。同じ箇所を複数の部署に確認してもらうことになるわけですが、部署によって「こういうふうに直してほしい」という要望の方向性が、正反対であることもしばしば起きました。
 そうした中で関係部署と粘り強く交渉を重ねながら、一致点を見つけ出す作業には相当な労力がかかりました。特に今年度は新型コロナウィルス感染症の影響で、各部署の勤務態勢が通常とは異なっていましたので、スピード感を持って作業を進めていくのは大変でした。
(清) 関係部署のみなさんは、その部署の立場から修正の要望を出してこられます。その要望をすべて受け入れて内容に反映させていると、1冊の書物としての記述や視点の一貫性がなくなり、構成的にもバランスを欠いたものになるため、読者の方に誤解を与えることになりかねません。
 ですから私たちが大切にしたのは、より大局的な視点から、何をどこまでどのように記述すれば、国内外の読者のみなさまに防衛省・自衛隊について適切に理解していただくことができるかを考えたうえで、関係部署に対して修正内容についての提案をしていくことでした。
(秋葉) 白書の編纂に携わる人間は、読者のみなさまに何を伝えたいのか、伝えるべきなのかについての編集方針を明確に持っておくことが必要です。迷ったときほど、編集方針という原点に戻ることを大切にしてきました。それができたから、関係部署との調整にも粘り強く取り組むことができたのではないかと思います。
(林) あとは白書の作成にあたっては、一つひとつの文章の言い回しや、写真や図の用い方などの細部にまでこだわりました。例えばある部隊の同じ活動の様子を撮影した写真でも、どの写真を選ぶかによって読者に与える印象は大きく違ってきます。中には現場の隊員にお願いして、写真を撮り直してもらったこともありました。

編纂作業を円滑に進めるために工夫されたことはありますか。

(柳田) いちばん大切にしたのは、メンバー間のコミュニケーションです。白書の編纂作業は、中心メンバーの4人とサポートメンバーの2人の計6名が、一つの小さな部屋に集まって、常にいろいろと話し合いながら進めていきました。小さな部屋だったらからこそ、チームとして一つになることができ、同じ方向を向いて作業を進めることができたのかもしれません。
(秋葉) 私も同感です。メンバーはそれぞれ出身母体も違うわけですから、最初のうちは考え方に違いがあるのは当然のことです。そんな中でお互いに忌憚なく意見交換を行う中で、少しずつ方向性を一つにしていきました。そのプロセスがあったからこそ、編纂の過程で難所に遭遇したときでも、みんなで協力しながら作業に取り組むことができました。

読者のみなさま、特に一般のみなさまに対して、『防衛白書』をこんなふうに活用してほしいという提案がありましたら教えてください。

(林) 『防衛白書』は、単に防衛省・自衛隊の取組について紹介するだけでなく、その前提となる我が国を取り巻く安全保障環境についても、本文の3分の1以上のページ数を割いてくわしく解説しています。各国がどのような意図と能力を持ち、どういった軍事活動を行っているかを把握することができます。国際情勢についての理解を深めたいという方にも、役立つ一冊になっていると思います。
(柳田) 安全保障や防衛に関する新聞記事やテレビのニュース番組などを見ていて、「この問題の背景がよくわからないな」と思ったときには、ぜひ『防衛白書』を読んでいただければと思います。「今、どんな問題が起きているか」だけではなく、「なぜ、どのような経緯で起きているのか」という背景を知るうえで、『防衛白書』は最適な一冊であると自負しています。

最後に読者のみなさまへのメッセージをお願いします。

(柳田) 安全保障や防衛問題というと、取っつきにくいイメージがあるかもしれません。けれども『防衛白書』は写真や図などを数多く用いており、こうした問題に普段馴染みがない方でも入りやすく、読みやすい内容になっています。白書の内容は、防衛省のホームページでも公開しておりますし、電子書籍版は無料で読むことができますので、ぜひご覧いただければと思います。白書を読んでくださることで、防衛省・自衛隊の多様な取組を知っていただければ、編纂に携わった者としてうれしい限りです。

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