トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.19

離島は日本のサテライト拠点?

6800を超える島々で構成される島国の日本では、その領域、排他的経済水域の保全や、多様な歴史や文化の継承といった様々な重要な役割を担う離島。豊かな海洋資源に囲まれ、その魅力に引かれて定住する流れが生まれつつある。国は有人島のうち沖縄、奄美、小笠原などを除く78地域255島を離島振興法の対象とし、近年では離島と企業をつなぐ「しまっちんぐ」の開催やICT等の新たな技術を離島に導入を推進する「スマートアイランド」などの振興策に取り組んでいる。また、働き方改革などでリモートワークが広がるなか、ワーク・ライフ・バランスを実現する環境を持つ離島の多様な魅力に迫る。

Angle C

後編

離島の暮らしの情報を横串で伝える

公開日:2020/7/31

NPO法人離島経済新聞社

統括編集長

鯨本 あつこ

ウェブサイトや季刊誌で離島の価値と課題を伝え続ける鯨本あつこさん。その原動力になっているのは、島の営みや文化が健やかに持続し、いつまでもその魅力を保ち続けてほしいという思いだ。ICT(情報通信技術)の発展により、離島経済の先行きに明るい兆しが見え始めた今、「離島は本当に宝島なのか」という自らに問いかけた疑問の答えを日々探している。

プラスチックごみによる海洋汚染が世界的な問題となっていますが、島のごみ問題について教えてください。

 どの離島も海に面していますが、島の方に話を聞くと、特に、ここ10年で島に流れ着く海ごみが増えていると感じられているようでした。もし、世界が将来、持続可能な社会に移行できたとしても、この先10年近くは海ごみが増え続けると言われています。どうしたら解決できるのかわかりませんが、多くの島が独自に海ごみ対策に動いています。例えば、沖縄の西表島では、観光客がペットボトルを持ち込まなくてもいいように、島に給水所を置いて、マイボトルで補充してもらう活動に取り組んでいます。
 でも、海ごみの問題は島の自助努力だけでは解決できません。ボランティアがごみを拾い集め、市町村が回収しても、膨大な処理費用がかかるため、国の補助金だけではとても足りません。国を挙げての海ごみ対策ができるといいなと思っています。
 私たちメディアでできることは、島の取り組みを広報することと、これ以上、海ごみを増やさないようにするために啓蒙(けいもう)することです。流れ着いてくるごみをいくら拾っても、新たな海ごみが流れ着く状況や、島で必死に取り組む人々の想いを伝えることで。記事を読んだ人たちに持続可能な暮らしに転換するきっかけを提供できたらと考えています。

UIターンで子育て世代に人気がある島もあると聞きますが、何が要因だと思いますか?

 人口が社会増(転入と転出の差によって生じる人口の増加)につながっているのは、受け入れ側の離島自治体の努力の成果だと思います。例えば、長崎県五島市は、2019年に市内へ転入した人数が転出者数を上回り、社会増を達成しました。五島市役所の動きは柔軟で、通信アプリを使って島暮らしに興味のある移住希望者の相談に乗り、新型コロナウイルスの感染拡大で移住定住相談会が開けなくなると、いち早くオンライン相談を始められました。柔軟性や機動力、そして行動力のある人材がそろっているということも、社会増につながっていると思います。

離島は観光資源が豊富で、最近ではテレワークの普及で移住先としても注目を集めていますね。

 ICTをうまく使えば、本土とのコミュニケーションの格差は少なくなると思いますし、実際、業種によっては、本土と同じように仕事ができるケースも増えてきます。東日本大震災後に地方へ移住する人が増えたように、コロナ禍後も、離島に移住する人が増えるのではないかと思います。そこで、住まい、子供の教育、医療などの受け入れ態勢を備えることで、子育て世代の心を動かすことができるのではないかと期待しています。現在、コロナ禍の影響で観光産業が苦戦していますが、これを契機に観光へ対する考え方も変わり、欧州の旅行者のような1週間以上の長期滞在型が主流になれば、離島観光にも追い風になるはずです。

国もさまざまな離島振興策に取り組んでいますが、どのように受け止めていますか?

 島によって対象となる振興法や振興策は異なりますが、島が属する自治体の財政基盤が弱い場合、島の振興は簡単ではありません。ですので「しまっちんぐ」のように、島と企業がつながることで、農作物や海産物のブランディングや販路拡大が進められるなど、島だけではクリアしにくい課題解決が図られることに期待しています。

【「しまっちんぐ」では、定期的に島の関係者と本土の企業関係者との交流会を開催】

取材を通して、印象に残る離島経済活性化の事例はありましたか。

 教育目的の民泊などに力をいれていた沖縄県の伊江島で、将来的に民泊が先細りする可能性を視野に、麦生産に力をいれ、新たな基幹産業を立ち上げたという記事が印象に残っています。伊江島には小麦の生産に適した気候や土壌があり、琉球王朝時代から小麦の生産地だったとされていますが、島在来の小麦「江島神力」はこれまで商用ベースでは生産されていませんでした。そこで2011年に生産者組合が結成され、商用生産に乗り出し、伊江島小麦でつくられたスナック菓子がヒットするという、新しい産業が育っている事例をみるとうれしくなります。

【伊江島小麦「江島神力」でつくったスナック菓子「ケックン」は、沖縄本土はもとより県外でも評判の商品だ】

※株式会社いえじま家族提供

こうした取り組みが他の離島でも広がると良いですね。

 離島地域の産業活性化に寄与する取り組みは、もっと増えたらいいなと期待せずにはいられません。島に住む人の力だけで活性化できない場合、島外企業の進出にも期待しますが、経営事情によって急に撤退されてしまうリスクが残ります。島の持続可能性を展望してくださる企業には、島内の人々と連携している間に、島側が知識やノウハウを蓄積できるような配慮をしていただきたいです。そうすることで、島の産業の持続的な発展につながると思います。

これからの離島振興に貢献するために、離島経済新聞社としてどんな情報を発信したいですか?

 離島経済新聞社が発行するメディアの中心読者は、島に住んでいる人、仕事で関係している人、島のファンや島に関心のある人など、島にゆかりのある人ばかりです。島に住んでいる人たちの悩みや困りごとを解決するには、東京でうまくいっている事例をそのまま持ち込んでもダメです。この課題解決のヒントは、違う島に住んでいる人の先進的な取り組みなどの情報から得ることができます。そこで、島に暮らしていくうえで役に立つ情報を横串で届ける役割を果たしたいです。日本で失われつつある「人と人とのつながり」や「人と自然が共生する暮らし」「伝統文化を継承する心」など、日本の原初的な価値が残っている離島地域の営みから日本の未来のヒントを示すことができればと考えています。

これまでの活動を通じて、どんなことに「やりがい」を感じていますか。

 読者からの反響がとてもうれしく、励みになります。他の島で何が起きているのか、どこの島のどの事例が先進的なのか、島に住んでいる人が自分たちの暮らしをどうすれば持続可能にできるかという情報を共有し、喜んでいただけることを実感できたときにやりがいを感じます。
 社会が変わり、インターネット上のコミュニケーションが誰でもできるようになりました。島の人たちも、会員制交流サイト(SNS)を通じて、島内外のたくさんの読者とつながっています。私たちが届けた情報が、SNSなどを通じて日本中に広がり、双方向のコミュニケーションが生まれ、島に関する情報や理解がもっと進んでいくことも可能だと思いますので、私たちのやりがいや意欲も高まっています。

最後に読者へのメッセージをお願いします。

 私が離島経済新聞社を立ち上げたきっかけは、初めて訪れた瀬戸内海の島で出会った農家のおじさんの言葉です。おじさんは島のことを「この島は宝島だから」と自慢してくれました。あれから、10年。おじさんの言葉が本当なのかどうか確かめたくて、島の情報を追いかけています。今は「離島は宝島」と感じることができます。国家にとっては、島は国の領海を守る拠点でもありますが、島の人たちにとっては大事なふるさとです。島が好きな人たちにとっては大切な場所です。これからも島にかかわる一人ひとりにとっての「宝島」の情報を掘り起こしていきたいと思います。今後も注目してもらえたら嬉しいです。(了)

お笑い芸人の千鳥・大悟さんは離島の魅力を「何もないこと」と独特の言い回しで表現してくれました。だからこそ、人の優しさを実感できるといった、「都会にないもの」があると語り、〝芸人・大悟〟を育んだ離島のライフスタイルがもたらす豊かさを語ってくれました。KDDIサステナビリティ推進室の鳥光健太郎室長は、先端通信技術を活用した地域おこしの活動を通じて、「仕事のオンライン化が進めば、離島でも働ける環境になる」としています。また、NPO法人離島経済新聞社の鯨本あつこ統括編集長は、高齢化・人口減少が顕著な離島が抱える最大の課題として教育を挙げて、遠隔教育の充実の必要性などを指摘しています。
次号のテーマは「みんなで守ろう!命の水」です。地球は水の惑星と言われていますが、ほとんどの水は海水であり、人が使える水の量はわずかしかありません。しかし、近年の気候変動の影響でこの水の確保が危機に瀕しています。そこで、この限りある水の貴重さ、水資源の有限性などについて識者へ話を伺います。(Grasp編集部)

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