トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.2

シェアリングは、経済成長の切り札か?

民泊、カーシェア、空き駐車場時間貸し、等、スマートフォンやインターネットのマッチングサービスの進展でシェアリング経済が進展している。カーシェアで車を所有する必要がなくなり、消費者の保有・利用コストは大幅に低下する。駐車場を使わない時間をタイムシェアできれば、収益改善に役立つし、都心の駐車場スペースは劇的に不要になるかもしれない。このようにシェア経済は、総資産回転率を高め、いままで無駄になっていたものから、付加価値を生む「打ち出の小槌」となり得る。他方、モノの生産と消費を通じた経済成長を抑制する可能性もはらむ。我々は、シェアリングビジネスにどう向き合っていくべきなのか。

Angle C

後編

シェア経済の発展に行政はいかに向き合うか

公開日:2019/1/11

国土交通審議官

藤田 耕三

シェアリングエコノミーの健全な発展には、規制緩和だけでなく一定のルールが必要だというのが藤田耕三国土交通審議官の見解だ。シェアリングの普及と一定の秩序を、どのようなバランスで進めていくのか。

海外では、すでにライドシェアや民泊の先進的な事例があります。どうみていますか。

 「シェアリングエコノミーをよく考えると、最初は『自家用車の空いた時間をうまく使えないか』とか『自宅に空き部屋があるから、うまく利用できないか』というところからスタートしたものであっても、その後の発展の中で『ライドシェアの事業に参加するために車を買う』『ライドシェアの運転を生業(なりわい)とする』とか『民泊ビジネスのための家を用意する』という形になってきている事例があります」
 「どのような形をとるかによって、社会的な影響や利用者の受け止めは大きく変わってきます」

なるほど大変、重要な指摘です。シェアリングといっても、ひとつではないということですね。

 「既存のタクシーサービスを見ても、国や地域によってサービスの水準はずいぶん違い、利用者のニーズも異なっています。だから『海外にこんなサービスがあるから日本でも・・・』という単純な議論は成り立ちません。シェアリングエコノミーの発展を促すにしても、状況に応じたルール作りが必要だと考えています」
 「たとえば6月に施行された民泊新法(住宅宿泊事業法)は、現在の日本に適したルールをキチンと決めたものです。旅館業とは別のくくりで、事業者に事前の登録・届け出をしてもらう。民泊の対象となる住宅を定義し、安全面・衛生面の確保や、騒音・ゴミ出しなどの管理責任を決めました。新たなルールには賛否両論あるでしょうが、そうした秩序がなければ利用者に安全性や快適性を提供できず、シェアリングエコノミーも発展しないと思います」

【利用者の選択が重要】

「健全な発展のための環境整備をすることは、行政の大きな役割」

ライドシェアでも、そうしたルールは必要ですか。

 「自家用車で有料の運送をするようなサービスは、海外でも、社会としてどのように受け止めるのか、方針が定まっていない国や地域が多いように感じています。それぞれの行政当局が、地域の状況を見ながら対応を模索している段階ではないでしょうか」
 「日本では、安全・安心の確保のため、白タク行為は認めていません。一方で、過疎地域でタクシーもない、もちろんバスも走っていないようなモビリティーサービスが提供されていない地域があります。そうした地域にも自分で車を持たない人がいます。そんなケースでは、自家用車を活用する工夫はあり得ます。これは将来ではなく現時点での課題と認識しています。必要に応じて対応を決めていくことになると思います」
 「もうひとつ、別の点から言っておきたいのは、海外で広まった配車サービスのようなものは日本でも使えるようにしたいということです。これだけ外国人観光客が日本に来る時代です。慣れた配車アプリを日本でも使えるようにする。そうなれば観光客の利便性も高まります。ただし実際に乗るのは日本のルールにのっとった車です」

カーシェアリングが広がれば、利便性は高まるでしょうか。

 「モビリティーサービスを考える時には、カーシェアリングだけでなく自動運転の実用化とか、MaaS(Mobility as a Service)のようなスムーズな移動とか、さまざまな技術要素がどう発展していくかという目でとらえていく必要があります。情報通信技術の発展はめざましく、今後モビリティーの在り方は大きく変わっていくのだろうと思います」

行政としてのシェアリング支援という考えはありますか。

 「基本的には、利用者が何を選択するかが最も大事だと思います。必ずしも行政が特定の方向に誘導する話ではないでしょう。他方で、利用者が不便や不安を感じたり困っていたりすることがあれば、それを解消するなど、健全な発展のための環境整備をすることは、行政の大きな役割です」
 「シェアリングエコノミーはビジネスとしてもいろいろな可能性を秘めており、利用者にも多様な選択肢を与えてくれます。発展のスピードや方向性にも様々な可能性があるので、ある意味、行政としてもワクワクしながら、その状況を楽しみながら、しっかりと対応したいですね」(了)

 「経済成長しなくとも生活者の利便性が高まる」という中村伊知哉氏の分析は、シェアリングエコノミーの本質を見事に突いている。公共交通に新たな仕組みを取り入れようという松原仁氏の提案は、現行制度の中で利用者・事業者それぞれのメリットを高める手法だ。また藤田耕三氏は行政の立場から、健全な発展には秩序が必要だと指摘する。シェアリングによって新サービスの機会は増えるが、生き残るにはきちんとした仕組みが必要だと考えて良さそうだ。その上で、シェアリングエコノミーが経済を活性化することを期待したい。

 次のシリーズは、実用化が目前に迫る自動運転によって、移動のあり方がどう変わるかを3人の識者が考察します。

(Grasp編集部)

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