トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.5

"データ大流通時代"、オープンデータは起爆剤となるか?

官公庁が保有する気象や地理空間データなどのビッグデータをオープン化する動きがある。こうした動きは、新たなビジネスの創出や人々のくらしの快適性や経済活動、社会活動を飛躍的に向上させる起爆剤となるか。自動運転、MaaS、建設分野のIT化、物流革命などへの活用等、オープンデータの促進が社会、経済、産業にもたらすインパクトやビジネスチャンスについて識者に聞く。

Angle C

前編

オープンデータは新たな社会資本

公開日:2019/4/16

国土交通審議官

由木 文彦

政府はオープンデータ政策を推進し、イノベーションの起爆剤とするデータ駆動社会の実現を目指している。しかし実際に、役所の意識は変わったのだろうか。民間がデータを利用することに対して、どんな考え方を持っているのか。由木文彦国土交通審議官に、私見を交えた将来のあり方を聞いた。

オープンデータに対するご自身の基本的な認識から聞かせ下さい。

 「公的なデータを単に開示するだけではなく、ビックデータ、つまり、大量で多様なデータを迅速に提供することが、インターネットや人工知能(AI)のような新しい技術と組み合わさって可能性を広げるということだと考えています。そうした全体像を念頭に置いた上で、個人的な考えを交えて話をしたいと思います。ビッグデータの活用は、これまでにない新しい価値を生み出すものだと考えます。同時に、国交省の行政としても、自らオープンデータ化を進めることは大変重要な政策ツールになると認識しています」
 「交通を例にすれば、従来のようなタイムテーブル情報だけでなく、今、運行が遅れているのかどうか、天候はどうかなど複数の情報と組み合わさってリアルタイムにデータが更新される時代になってきました。これから東京の国交省を出て博多の親戚の家に行く場合に、最も早く着く最適解や、安い値段で行く最適解がすぐに示される。そのスピード感が重要です。今までの統計の報告書というデータとは完全に、質的に変わっていくと思います」
 「国交省との関係では、これまで構築した社会資本のストックをどう再生していくか、スマートシティを実現して都市をどう過ごしやすく、かつ生産性を上げる場として活用していくかなど、行政としての課題があるわけですが、それと親和性が高い。ビッグデータと、それを利用する環境自体が、新たな社会資本になっていくように感じています」

これまでの行政経験で、データ利用の新しい形に気付いたことはありますか。

 「総合政策局長の時にバリアフリーに取り組み、思ったことがあります。車椅子の方が街に出た時にどこに障害があるかという情報は、実際に車椅子で移動した方たちが積み上げていくアプリデータがあります。別の例では、オストメイト(人工肛門等保有者)の方はどこで利用できるかとか、子供と一緒の時に入れるレストランや一緒に使えるトイレがどこにあるかとか。そうした情報が一人の経験のみでは不可能なレベルで集まっていて、しかも日進月歩で良くなっています」
 「行政の側でも、駅にはどういう施設があるかとか、どこの歩道なら段差がないかといったデータは結構、持っているんです。そういうものと組み合わせればより便利になる。これは期待できるなと感じました」

【マインドセットの過渡期】

公共交通分野におけるオープンデータ化が進んでいる(国土交通省提供)

ただ省庁はあまり熱心ではないという批判もあります。車いすのデータだって民間団体などが自分で集めて蓄積したもので、行政のデータを利用したものではありません。

 「厳しい指摘ですね。残念ですが行政の側も、情報公開という従来の枠組みをひきずっている部分があります。オープンデータの世界は、『つべこべ言わずに(データを)出すべし』ということだと思うんです。役人も、そういうふうにマインドセットを変えないといけない。今はその途上にあると思います」
 「もう一つ、理解していただきたいのはコストの問題があることです。すでに持っているデータにせよ、これから集めるデータにせよ、デジタル化しなければ利用しにくい。それにはコストがかかります。出したデータが間違っていないかどうかメンテナンスしないといけないし、もし間違ったことが起きたらその処理も必要です。役所も、これからの施策は最初からデータを出すことが前提に変わってきています。マインドセットとコストの両方で過渡期だと思っています」
 「行政の立場でいえば、役人は基本的に自分で行政をしたいんです。自分のデータも自分で使いたい。社会に問題があると現状を自分で把握して、処方箋まで書くという癖がついているんです。データについては、これを超えて、政府全体が新しい法律で、原則外に出すこと、出せない場合はその理由を明示することをルール化しました。それを役所に浸透させていくことが必要です」
 「今までは、行政が集めたデータを出して特定の個人や企業が金儲けする、ということでいいのかという批判もありました。それを、基本的にはどんどん使ってもらって、儲かった分は税金で返していただくという考え方に立てば、データをオープンにする意味が納得できると思います」

一方で、個人情報保護のようにデータ利用を制限する要素もありますね。

 「出せる情報は全部、出すべきです。しかしながら個人情報のように出せない情報もあります。役所として一番、難しいのは両者の中間にあたる情報の扱いです」
 「例えば高齢者や障害者がどこに住んでいらっしゃるか。災害時には極めて重要な情報です。それを普通の時に出せと言われれば『待ってくれ』という話になる。災害が来れば間違いなく必要です。そんなグレー領域がどうしてもあって、そこはルールを作らなければいけません。ある情報を出したら、それが別の情報と結びついて個人情報が分かってしまうようなリスクもあるでしょう。そういう技術的な問題も含めて、まだ試行錯誤の状態にあります」

※後編は4月23日公開予定です。

ゆき・ふみひこ 1960年島根県生まれ。83年建設省入省。国土交通省都市・地域整備局都市計画課長、京都市副市長、内閣官房行政改革推進室参事官、内閣官房審議官、国土交通省大臣官房総括審議官、住宅局長、総合政策局長を経て、2018年7月より現職。執務室には、出向経験がある福島県と、故郷、島根県のポスターを飾る。紙の本のページをめくる感覚が名残惜しく、ほぼ毎週末図書館に通う。幅広く手に取るが、特にミステリーや時代小説を愛読。
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