トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.35-2

ワーケーション&ブレジャーで発見!私のワークスタイル

働き方改革や新しい生活様式に対応した、柔軟な働き方として注目される「ワーケーション&ブレジャー」。新たな旅のスタイルとしても、地方創生の一助としても、普及への期待が高まっています。オフィスを離れ、旅先で働くことで得られるものとは。実践者たちの声を通して、働き方や旅との付き合い方のヒントを探ります。

Angle A

前編

働く環境がモチベーションに直結する

公開日:2022/6/29

株式会社野村総合研究所

働き方改革に加え、コロナ禍での大きな生活の変化を経て、「ワーケーション」に注目が集まっています。まだ導入を検討している企業が多い中、野村総合研究所では、2017年からワーケーション・トライアルを実施し、既に100名以上の社員が参加しています。同社が取り入れた「業務型ワーケーション」とはどのようなものなのでしょうか。そして、その成果は? 前編では、「働き方改革委員会」として同社のワーケーションのトライアル活動を統括する福元修さん(写真右)に、後編では人材開発部の池上英次さん(写真左)も交え、お話を伺います。

ワーケーションの仕組みについて教えてください。

 私たちが実施しているのは中期滞在型のワーケーションで、通称「三好キャンプ」です。ワーケーションというと、保養や旅行を目的とした「バケーション」のイメージが強いかもしれませんが、私たちの目的はあくまで業務です。通常と同じ業務を、場所を変えて行うものなので、「休暇型」ではなく「業務型」のワーケーションです。
 「三好キャンプ」は、徳島県三好市で夏・秋・冬と年に3回実施しています。1シーズンを1ヶ月とし、前半と後半とで2週間ずつ区切ります。1人あたり2週間滞在し、平日は通常業務、週末は休暇を取る仕組みで、出張扱いです。参加は立候補制で、一度に15人ほどが参加しています。コロナ禍の現在は活動を自粛していますが、2017年から2019年にかけて8回開催してきました。
 もちろん目的は通常業務ですが、余暇にはアクティビティや地域活動に参加することを推奨しています。三好市はおよそ9割が山林という自然豊かな場所です。一級河川の吉野川では、ラフティングやウェイクボードの世界大会が開かれているほどです。水辺でのアクティビティや狩猟体験に参加したり、地元の方々との食事会を開催したり…。また、NRI独自の教育プログラムを使い、学校での出前授業も行っています。

2017年とかなり速い段階からワーケーションを始めています。なぜ、ワーケーションを取り入れようと考えたのですか。

 私はデータセンターサービス本部の「働き方改革委員会」に所属しており、ワーケーションはこの委員会の取り組みのひとつとして始まりました。データセンターサービス本部は、4つのデータセンターを統括しています。センターの建物や設備の管理から、システムの運用管理も担当しています。データセンターは24時間止まることがありませんから、シフト勤務の社員もおり、基本的にはずっとオフィスで仕事をしています。どうしても日々同じ環境で仕事をすることになるので、社員のモチベーションを保ち、向上させることは常々課題に感じています。「働き方改革」に注目が集まるようにもなっており、より良い職場環境を考えるために立ち上げたのが「働き方改革委員会」です。
 2017年当時、「ワーケーション」という言葉は日本ではまだあまり知られていませんでした。ただ、サテライトオフィスに関する講演を聞く機会があり、社員の集中力・モチベーション・生産性の向上に効果的なのではないかと考えるようになりました。そして、2017年11月に三好市を視察したことからワーケーションの取り組みが始まりました。

ワーケーションの場所として、徳島県三好市を選んだ理由を教えてください。

 きっかけは、社員が三好市の市役所に出向していたことです。前述したサテライトオフィスに関する講演は、彼がNRIで行ったものなのです。彼がいなければ、こんなにスムーズにワーケーションを始めることはできなかったと思います。市役所への出向ですから、行政をはじめ、地元企業ともつながりがありました。NRIのことをよく知る人が現地にいるのといないのとでは、町への溶け込み方が全く違ったでしょう。三好市のほかにも候補地を見て回ったことがありますが、なかなかこれ以上の環境は見つかりません。
 また、あくまで業務の一環ですから、交通アクセスも考慮しました。横浜のオフィスから三好市までは、飛行機で4時間半、鉄道で5時間半ほどです。決して近いとは言えませんが、飛行機と鉄道のみの半日ほどの移動ならば、少しずつ景色が変わっていくのを見ながら、良いリフレッシュになるのではないかと考えています。他の交通機関が必要だったり、移動だけで1日がかりとなってしまうと、少し躊躇してしまいます。近すぎず遠すぎず、ちょうど良い距離感です。

三好市はどのような場所ですか。

 改めて振り返ってみると、私たちにとって三好市はベストな場所だったと思います。①回線環境が整っている、②都会すぎず田舎すぎない立地、③企業の受け入れに積極的、という3点が大きなポイントでした。
 ①の回線環境は、業務を目的としている以上、必須条件です。三好市に限らず、徳島県は県内全域に光ファイバーが張り巡らされており、オフィスを構えるにはかなり恵まれています。三好市は特に注目されているエリアで、8社がサテライトオフィスを置いています。私たちが拠点としているのは町のレンタルオフィスなのですが、通信回線や家具が整っていること、また人通りの少ない静かな場所だというのもありがたいところです。
 ②の立地については、「働く環境を変える」ということが目的ですから、都会とは全く違う雰囲気を味わえる場所を探していました。山と川に囲まれた三好市は、その点でも条件を満たしています。オフィスを構えているエリアは官公庁があるオフィス街で、徒歩圏内に飲食店やコンビニがあり、生活には困りません。観光地ではないのでチェーンの飲食店はありませんが、個人経営の飲食店があり、地元の方と交流するにはうってつけです。都会とは異なる不便さを味わいながらも、暮らすことには不自由しないという、バランスがとても良い町だと思っています。
 ③の受け入れですが、出向社員がコーディネーターとなってくれたことが大きかったです。私たちと三好市、双方をよく知る人物が橋渡しをしてくれたことで、スムーズに地元の方々と人間関係を築くことができました。また、三好市は移住者の受け入れも積極的に行っており、もともと外から来た人に対してオープンなのだと思います。レンタルオフィスで地元の方や移住者の方と交流する機会も多く、刺激になっています。

ワーケーションの成果をどのように見ていますか。

 「三好キャンプ」を体験した社員の変化は明らかでした。個人的に一番感じるのは、コミュニケーションの取り方の変化です。通常業務の中では、決まった相手と、決まった内容のコミュニケーションに終始しがちです。しかし「三好キャンプ」では、普段関わらない年代や職業の方々と接することになります。レンタルオフィスで移住者の方と話したり、アクティビティで子どもと接したり…。そこでする会話は、普段の業務中とは全く別のものでしょう。そうした経験をしてオフィスに戻ってくると、「オープンになったな」と感じることが多かったです。人と人が関わる以上、業務のベースはコミュニケーションですから、そこが磨かれたというのは大きな変化だと思います。
 参加者へのアンケートでは、「視野が広がった」「時間の使い方を考え直すきっかけになった」「地元の人とのコミュニケーションが本当に楽しかった」などという感想が寄せられています。やはり人と接することで学ぶことが多いのだと実感しています。一度参加した社員は、リピートすることも多いです。これまで縁のなかった町に、知り合いが増えていくのが面白いのでしょう。私自身も、何度も三好市に通うことで、「あの人にまた会いたい」という気持ちが芽生えました。
 もともとはモチベーション向上のために始まった「三好キャンプ」ですが、それだけではもったいないと考えるようになりました。会社の外に出て、多様な人と関わることで生まれるサービスもあるのではないでしょうか。「三好キャンプ」で得た新たな気付きや発見から、イノベーションが生まれるのではないかという期待をしているところです。

福元修 株式会社野村総合研究所データサービス本部業務管理室

池上英次 株式会社野村総合研究所人材開発部 キャリア自律推進グループ
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