トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.34

持続可能な社会へ!建物の木造化がもたらすもの

近年、国産木材を建築物などに活用する動きが広がっています。大気中の二酸化炭素を取り込んだ樹木を木材として固定することで、大気中の二酸化炭素量の削減につながります。また、森林の有効活用は、山や森の機能を回復し、土砂災害防止や洪水の緩和などが期待できます。そして木材がもつあたたかさは、利用する私たちに癒やしや安らぎを与えます。住宅から公共建築物、中高層ビルまで、木造の魅力と可能性について考えます。

Angle A

前編

木々のある景色が一つの原点

公開日:2022/2/22

女優

田中 道子

日本の国土は約3分の2が森林で、山並みや木々の眺めは日本人の原風景と言えます。知的な美貌と長身で都会的なイメージを放つ女優の田中道子さんも、「山育ち」と語るほど、故郷の山と町が今の自分の根っこにあるそうです。ファンタジーの世界に浸れる本やゲームが好きな少女が、建築士の資格を取るに至った青春時代について聞きました。

山で遊ぶような自然に恵まれた環境で育ったそうですね。

 故郷は浜松市でも山に近いところで、子どもの頃は木登りもしました。もともとの山林を生かした広大な公園が近くで、シンボルツリーと言える木があって、友達と木の上に集合!と約束した思い出があります。木々を縫って少し登ると人気の少ない展望台もあり、そこでは親に叱られた時に泣いたり、つらいことや悩んだ時に物思いにふけったりしました。
 東京に出てからも、自然に還りたいという思いにかられることはよくあって、度々帰省しています。私にとっての田舎とは海ではなく山。木々や川の流れの風景が心の拠り所です。今は休日に自然の中のパワースポットや神社を訪れることもあります。神社にひかれるのは木造建築だからかも。家の近くの神社にも行きますし、広々した境内の鹿島神宮や雪の日に行った日光東照宮も感動しました。山から持ち込まれた木材で作られた大空間に神が祀られているという建物自体が好きで、歴史の重みと昔の人の仕事に尊敬の念が湧き、背筋が伸びます。

大学で建築を学んだのは何かきっかけがあったのでしょうか。

 山育ちと言えるほど自然に親しんでいましたが、家で絵を描いたり読書したり、一人の世界も楽しむ子どもでした。ファンタジー小説に夢中になって『ファイナルファンタジー』などのゲームも好きになり、あの世界観を作る側の人になりたいという気持ちで絵を描いていました。図画工作や美術の成績はいつも「5」。デザイン系の学校で技術を身につけてゲーム会社で働こうと考え、地元の大学の空間造形学科に進学しました。
 ところが、空間造形ってファンタジーもなんでも教えてもらえるだろうと思っていたら、建築を学ぶ学科だったのです。「しまった」と思った時には、コンクリートの中に鉄が入っているのがRCだとも知らないまま、建築の授業に向き合うしかありませんでした。1、2年生の頃の勉強はきつかったです。
 それでも3年生にはゼミも始まり、ものづくりとしての建築の面白さや、まちづくりやランドスケープといった分野の学びが楽しくなりました。同時に、生まれ育った浜松しか知らない自分の世間知らずを痛感。ミスコンにチャレンジし始めたのは大学の友達の勧めでしたが、自分の中に「もっと世界を知りたい」という意志もありました。ただ、それも一旦は封印し、卒業後は二級建築士の試験のための学校に通いながら建築関連企業への就職活動をしました。スカウトされたのはそんな時だったんです。二級建築士に合格したので、親には浜松で就職してくれと言われましたね。

ミスワールド2013日本代表を務めたことが、SDGsに関わる商品開発の仕事などの社会的課題への関心につながっているそうですね。

 覚悟を決めて23歳で上京し、モデル事務所に入った後にミスワールド日本代表に選ばれました。インドネシアで開催される世界大会に1ヶ月滞在しましたが、衝撃の連続でした。私は英語も達者ではなかったので意思の疎通にも苦労しましたし、参加者同士でケンカが起きたりする状況に心細さが募り、正直「早く帰りたい」状態。でも、私よりずっと年下の18歳のアフリカの国の代表は「自分の国は内紛がある。ここは天国」と目を輝かせていたり、美しいだけでなく医師のキャリアがある参加者とも出会いました。彼女たちの強さや視野の広さに圧倒されましたし、日本の素晴らしさ、自分が日本という恵まれた国でいかにぬくぬくと育ってきたかを思い知りました。
 世界を見つめるという意味で、大学で学んだ都市計画の観点やミスワールド世界大会での経験は大事にしています。最近はメディアでもSDGs(持続可能な開発目標)という言葉を耳にしますが、昨年はご縁があって「衣類の大量廃棄の軽減」にフォーカスした期間限定のプロジェクトにも関わりました。タレントやインフルエンサーと協力して日常にエコの意識を広げようと取り組んでいるサステナブルプラットフォームで、環境に配慮したリサイクル素材でアパレル商品を企画しました。今日着ているプリーツブラウスも私がプロデュースしたものの一つです。未来の地球のために目の前の小さなことから始めるというコンセプトに共感しましたし、とても勉強になりました。

芸能界で活動の場を広げていますが、絵を描くのが好きなことや建築を学んでよかったと思うことはありますか。

 2016年から女優の活動をスタートしました。二級建築士の資格を持っているとアピールしたわけではなかったのですが、ズバリ二級建築士の役をいただいたこともあります。設計事務所という設定のドラマでした。今後もあるかわからない役ですから楽しかったですね。大学の友人の日常を演じるような感覚がありました。
 絵を描くのが好きだったことも思いがけず役立っています。バラエティ番組『プレバト!!』の水彩画で、初出演で特待生というランクの評価をいただけた時は自分でもびっくりしました。小さい頃からゲームの世界の背景を描きたいと言っていたくらいなので、一人で絵を描き続けていたのも特技になっていたのですね。高速道路のような無機質なところを魅力的に見せる描き方や光の表現は、ファンタジーの世界に憧れて描いていた時に培った感性だと思います。建築で描く製図とはもちろん違いますが、全体の構成の視点や構図のとり方などは大学で学んだことを生かせています。小さい頃の趣味と大学時代の課題と、合わせ技にできていると感じます。趣味でも絵を描くようになりました。
 二級建築士の資格を知っていただけたせいか、全国の建築物を巡る番組に呼んでいただけるようにもなりました。建築家さんのご自宅を訪ねるシリーズ番組は本当に楽しかったです。プロが自分で自分と家族のためにデザインした家ということで、どの家も印象的でした。感想を一言で言うと、「みんな好き勝手やっているな」です(笑)。忘れられないのは居間に足湯をしつらえたお宅。きっと湿気対策や水の管理も大変なはずですが、作りたいから作ったというのがすごく素敵だと思いました。足湯なら家族も友達も一緒に入れるという発想で、近所の方も集まるような開放的で人を招くのにふさわしい家でした。私はどちらかというと自宅に人を招くのは苦手でしたが、その家に感動して、人に楽しんでもらえる家っていいなと考えが変わったほどです。
※後編は2月25日(金)公開予定です。

たなか・みちこ 1989年8月24日生まれ、静岡県出身。静岡文化芸術大学では建築を学び、二級建築士の資格を持つ。2013年「ミス・ワールド 2013 日本代表」に選出される。2016年『ドクターX~外科医・大門未知子~』の出演で女優デビュー。以降、NHK大河ドラマ『西郷どん』、ABC テレビ『この男は人生最大の過ちです』、日本テレビ『君と世界が終わる日に』などのドラマをはじめ、情報・バラエティ番組で活躍中。MBS『プレバト!!』では水彩画などで芸術的才能を披露。建築士の視点を生かせる、建築物を訪問する番組の出演も増えている。
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