トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.35-2

ワーケーション&ブレジャーで発見!私のワークスタイル

働き方改革や新しい生活様式に対応した、柔軟な働き方として注目される「ワーケーション&ブレジャー」。新たな旅のスタイルとしても、地方創生の一助としても、普及への期待が高まっています。オフィスを離れ、旅先で働くことで得られるものとは。実践者たちの声を通して、働き方や旅との付き合い方のヒントを探ります。

Angle B

後編

ワーケーションは人生観を変える!?

公開日:2022/7/1

株式会社イトーキ

目に入る景色も違えば、まわりの人との関係も違う。休暇や観光の要素も入れながら仕事の時間を過ごす――日常とはひと味違った環境と時間の中に身を置くことで、働く人の意識はどう変わったのでしょうか。体験者が語る言葉を通して、新しい働き方や仕事と人生の過ごし方について考えます。

お話しいただいた方(写真左より)
勝川 陽代(営業本部、愛媛ワーケーション参加)
秋山 恵(DX推進本部、愛媛ワーケーション参加)
阿志賀 由香(企画本部、岡谷ワーケーション参加)
川島 紗恵子(管理本部、岡谷ワーケーション参加)
山村 善仁(人事本部)

ワーケーションを体験してみて、一番印象深かったことは何ですか。また、どんな気づきがありましたか。

勝川:愛媛では、内子、大洲、宇和島の3カ所を移動しながらのワーケーションでしたが、それぞれ素晴らしい地域でした。豊かな自然、歴史と文化を感じる街並み……「日本にこんないいところがあったんだ」と。
 環境が私たちの心身にこれほど大きな影響を与えているんだとはじめて知りました。疲労感が違うんですよ。環境がすばらしいと疲労を感じないし、集中力が高まります。

秋山:たしかに集中力は違いましたね。このあとに楽しみが待っているかと思うと、時間内にきっちりと仕事を終わらせようという意識が働きました。日常では、30分、1時間という単位でミーティングが続いたりして、リフレッシュする時間がありません。とくにウェブ会議では仕事の目的以外の話がやりにくいですから、遊びのないハンドルを握って車を運転しているような気分になります。

川島:細切れのミーティングが続くと疲れますよね。やっぱり、時間にも“遊び”があるからこそ、いろんなことが思い浮かんだりして、「それ、面白いね」というものが出てきたりします。ワーケーションでは、それが生まれやすかったと思います。

秋山:じつは、行く前には一抹の不安があったんです。普段なら接点のないデザイナーや若手の営業社員と、5日間ずっと一緒にいるわけですよ。自分一人だけが浮くんじゃないかと(笑)。
 でも、意外と打ち解けて話せるようになり、デザイナーがどんなことに興味を持っているのか、営業がどんな提案をしたいと思っているのかを知ることができました。
 向こうは向こうで、まったく違う部署の「あの人、何をしている人なの?」というような私のことを、ある程度は理解してくれたのではないかと思います。
 今後、お互いに何か相談事ができた際にも、気軽に話を聞ける関係になったはずです。

阿志賀:私もコミュニケーションの点で大きな意味があったと思いました。同じ部署で働いている者同士でも、お互いのことをそれほど深く知っているわけではありません。ワーケーションの時間を一緒に過ごすことで、相手の人となりをよく知ることができて、さらに理解が深まった気がします。
 同じ部署とか、一緒にプロジェクトを進めるメンバーで行けば、大きなメリットがあると感じます。

みなさまにとって、ワーケーションが貴重な体験だったことが伝わってきました。

勝川:地元の方々とふれあいがあるのも、ワーケーションのよい点です。今回、コワーキングオフィスの方が「今朝採れたものです」といって野菜を持ってきてくださったり、お昼を食べた食堂の方が「これ、持っていきな」とミカンをくださったり、都心のオフィス街ではあり得ないことを何度か経験しました。
人の温かさを感じるふれあいがあったことも、今回のワーケーションの心地よさにつながっていると思います。

阿志賀:地元の方は「何もないでしょ?」とおっしゃるのですが、私たちの受け止め方は全然違います。「山があって、湖があって、自然そのものがすばらしいんです」と。私たちにとっては、美しい自然が広がり、その中に身を置いていられるだけでも十分です。そこが魅力になっていることを地元の人はなかなか気づかないものらしいのです。そういう意味で、お互いに再発見があるのではないでしょうか。

今回の経験を、今後どのように生かしていきたいとお考えですか。

川島:「ワーケーションに興味があるけど、なかなか踏み出せない」という方は、ぜひ一度行ってみてもらいたいですね。今回の体験はオウンドメディアで記事にしていますが、社内に向けてもこれからワーケーションに関する情報発信を積極的に行っていきたいと考えています。
 当社には自主性を尊重する企業風土があって、今回のチャレンジに対しても「やってみれば?」と後押しをしてくれる空気感がありました。これはとても大事な要素です。
 また、はじめに制度ありきではなく、社員のほうから「やってみたい」と声が上がり、トライアルという形で実施したのもよかったと思います。もし制度をつくってから始めようとしていたなら、あらゆるケースを想定し枠組をしっかりつくって……ということになりますから、なかなか前に進まなかったかもしれません。
 今回の経験をベースに、ぜひ次のトライアルにつなげてほしいと思います。そうした蓄積が制度をつくる際の判断材料になるはずです。

山村:今回、当社として「新しい働き方」にチャレンジできたことは大きなメリットがあったと思います。ワーケーションを導入することで、多様な働き方ができる会社だという理解が浸透すれば、従業員満足度の向上につながると考えられます。就職を考える学生にとって魅力的な会社になり、採用活動にも好影響を与えます。
 一方で課題もあります。今回の参加者は、比較的ワーケーションに行きやすい職種や職場環境にありましたが、全社的に見ればなかなかそういうわけにもいきません。部署や立場によって、どうしても違いが生じます。その格差をどう埋めていくのかということも考える必要があります。
 また、今回のトライアルは、当社の社員が体験することがメインでしたが、今後は私たちがメリットを享受するだけではなく、何らかの形で地域に貢献できるような活動もセットで提供する――そんな流れをつくっていければいいなと思いました。

最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

川島:職種によっては、ワーケーションはハードルが高いと感じる人もいると思います。でも、もしできる環境ならば、やってみてほしい。私自身、行く前に想像していたものよりも、もっと豊かなものを得られたと思うからです。
いま、働き方がどんどん多様化しています。都心と地方で二重生活をしている人もいます。デジタル化が進み、どこにいても仕事ができる時代になったことで、いろんな働き方や生き方が可能になってきました。
 ワーケーションを体験することで、自分が求めている働き方とはどんな姿なのかを考えるきっかけになります。これから先の人生を考えるためにも、行ってよかったと私は思いました。

秋山:これまでと違った環境で働くことで、いろんな人と触れ、違った人と交流することになります。それを通して、人は必ず成長すると思います。いま生きづらさを感じている人も、環境を変えてみることで、何かが変わるきっかけになるかもしれません。
 ソフトウェアの会社といえば昔は渋谷にオフィスを置きたがりましたが、最近は地方に拠点を構えるところが増えています。閉塞感を打ち破るには、地方のほうがいいということではないでしょうか。

勝川:将来的に移住を考えている方など、地方に興味を持つ人は、そのトライアルとして短期の滞在をしてみるとよいと思います。親子ワーケーションという方法もあります。まずは休みのたびに何回か行ってみるとか。
 そういうことを続けていると、住む場所、働き方、子どもの学ぶ場所など、将来の選び方が変わってくる可能性がありますし、その先の人生に大きな影響を与えます。限られた視野の中にずっといるよりも、選択の幅が大きく広がりますので、機会があればぜひやってみていただきたいと思います。

阿志賀:私は地方出身ですが、長く東京に住み、自然からはずいぶん遠ざかった暮らし方をしていました。今回、自然に囲まれた場所に滞在して、こんなに素晴らしいものだったのかと改めて実感できました。そして、今の生活の仕方が本当にいいのだろうかと、立ち止まって考え直す機会になったと思います。

川島:人事のみなさまもぜひ行ってください(笑)。

山村:みなさんがおっしゃることはよくわかります。人事でもそんな機会が持てればいいなと思います。
 人生100年時代といわれています。シニアの活力をどう生かしていくかという課題も含め、誰もが自分の働き方を考えていかなければならない時代を迎えています。ワーケーションは、これからの「新しい働き方」の発見につながる可能性が大いにあると感じました。

ワーケーション、ブレジャーという言葉が登場して数年。今回の特集では、それぞれの立場や環境にあわせ、ワーケーションに取り組む実践者に登場いただきました。彼らが声をそろえるのが、ワーケーションにより「自分の働き方を考えるきっかけとなった」ということ。そして参加者同士やワーケーション先の地域との間で、新しいコミュニケーションやつながりが生まれたということ。企業が制度を整え、誰もがワーケーションやブレジャーを実践できるようになるには、まだまだ検討すべき課題が残っていますが、そのハードルは少しずつ下がってきているようです。今回の特集がGrasp読者にとって新しい働き方・旅のスタイルを見つけるきっかけとなれば幸いです。
 次号のテーマは「インフラメンテナンス」。社会を支えるインフラの維持管理の先進事例を交えながら、「メンテンナンス」の大切さやその先にある価値について考えます。(Grasp編集部)

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