トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.28

日本の自然再発見!アウトドアで暮らしを豊かに

近年キャンプブームが再熱している。キャンピングカーの市場は年々成長しており、昨年は一人でキャンプを行う「ソロキャンプ」も新しいアウトドアスタイルとして注目された。また国営ひたち海浜公園のネモフィラがつくる絶景がSNSで知れ渡り、茨城でも有数の観光スポットとなった。新型コロナウイルスの感染拡大にともなう外出自粛も経験したことで、より一層高まる自然に触れ合うことの価値。アウトドアに魅了される人々への取材を通じて、生活者の心境の変化や新たなライフスタイルの可能性を探る。

Angle A

後編

もっと気楽に、ドアの外へ

公開日:2021/4/16

女優

鉢嶺 杏奈

旅番組やクイズ番組のリポーターとしてアウトドアの魅力を発信しながら、プライベートでもスキューバーダイビングや山登りを楽しむ女優の鉢嶺杏奈さん。アウトドアを「前向きにしてくれる力がある。大きなことととらえず、まず一歩、外へ踏み出してみてほしい」と話す。新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛を経験するなかで、自然と触れ合う価値やライフスタイルはどう変化したのか。

コロナ禍で外出を制限された昨年、どのように過ごしましたか?

ずーっと家にいました。去年はたぶん皆さんそうだと思うんですけど、すごい家にいる時間が長くて…。でも、その中でもやっぱりちょっと外へ出たいっていうのがあったからだと思うんですけど、ベランダでご飯を食べたり、夜はお酒を飲んだりっていう「ベランダタイム」を作って旦那さんと一緒に過ごしていましたね。ベランダは、家の中だけど外じゃないですか。あと、「食」も工夫しました。「今日は台湾に行ったことにしよう」って台湾風料理を作って、台湾のビールを買ってきて楽しんだり、「今日は中国だから」と中華料理と紹興酒飲んだり。また別の日には「韓国」って、流行っていた〝韓ドラ〟を見ながらチャミスルを飲む。今できる最大限のことをやろうって感じで結構、楽しんでいましたね。家族時間や夫婦時間が多くなった人もいると思うんですけど、私たちは普段忙しくて全然時間がなかったので、去年はすごい夫婦の時間も多くて、むちゃくちゃ良かったですね。ベランダは「憩いの場」になりました。

ベランダで、アウトドア気分を楽しんだわけですね?

そうですね。アウトドアについて、なんか難しく考えすぎていたなという気づきにもなりましたね。ベランダでいいじゃんって。アウト・ドア(ドアの外)だし。夫と2人でベランダを改造したんですよ。タイルを買ってきて、床に敷き詰めて裸足で出られるようにしたり、ベンチを置いたり。家庭菜園とまではいかないんですけど、ローズマリーとかバジルとか植えて、育てて料理に使っています。自分の負担にならないところまででね、「楽しんだらいいじゃん」って思えるようになりました。
やっぱり、これまでとの変化が大きすぎましたね。去年はあそこであんな景色を見たなとか、あの動物たち元気かなとか、海外の友達はみんな大丈夫かなとか、考え出したらどんどん気持ちも暗くなるし。家の中にいると、考え方が閉ざされるような、世界から切り離された感覚、孤立感をすごく感じました。だからやっぱり外に出たいって思ったし、風に当たったり太陽に当たったりすることが大切だって、すごく思いましたね。ベランダの風に吹かれては、自然の中で自分が刺激を受けた景色を思い出して、もうちょっと冷たかったかな、もっと空気はクリアだったかな、また行きたいな、とか考えていましたね。

【「今できることを最大限楽しむ」と話す鉢嶺さん。SNSでは昨年、ファンとのオンライン交流会も】

※鉢嶺さんのインスタグラムから

日本では空前のキャンプブームが到来しています。どう御覧になっていますか?

そりゃあ、そうなると思いますよ。確かに(夫婦2人の)私ぐらいだったらアウトドアといってベランダで夫と過ごすとか、風に当たって太陽に当たってお花見てという過ごし方はもちろんあると思うんですけど、家族がいる人、例えば子供が家にいると、そりゃあ外で走らせたいなって思う親御さんはいるだろうし、だからこそ家族でちょっとキャンプに行くっていうのは「ごもっとも!」って思う。あとはやっぱり家でパソコン作業をされる方はすごく増えたでしょう。ガチャガチャガチャガチャ…。移動がない分、すごい絶え間なく会議しなきゃいけなかったり、家の作業が多くなったり。「そりゃあソロキャンプ流行るよね」って。デジタルから解放されて、一人で自然の中で過ごすとか、一人でコーヒー飲んで空を眺めるとか、たき火が流行るとか、そういうのってすごくわかるなって思います。

鉢嶺さん自身や周りにも、そういった変化はありましたか?

私の夫は、私と一緒で自転車がすごく好きで、仕事でも自転車を使って移動する、道中で好きなものをテイクアウトで食べたり、公園で食べたりといった生活をしている人なんです。それが、家の中にずっといる姿を見ると、運動不足だなと思うし、なんとなく考え方が、ふさぎ込んでいく感じがしました。外に出ることでインプットしていたんですよね。流行とか、人と触れ合う刺激とか。そういう情報がまったくなくなってしまったことに、私も夫も、すごく恐怖を覚えていました。何か違う形でインプットしたり、リフレッシュしたりする時間ってすごく大事だなって。(パソコンやテレビやスマートフォンなど)こーんな小さな箱だけ毎日見ていて、大丈夫?って。
アウトドアの魅力が非日常だとしたら、今ある日常から簡単に非日常に行けるのが、たぶんアウトドアの力なんですよね。本当に真逆になるから、気持ちを切り替えられる。切り替えて戻ってきたときに絶対マイナスになる人っていないんですよ。「すっきりした、よしやろう」ってなれるから、今すごい必要なのかなって感じますね。遠くまで行くアウトドアじゃなくてもいい。近場に、私みたいにベランダでもいい、なんかちょっと公園でも、アウトドアできる空間があれば。それで十分じゃないかなって思いますね。

【コロナ禍で、自宅で疑似アウトドアを楽しむ鉢嶺さん】

※鉢嶺さんのインスタグラムから

キャンプブームがさらに拡大するために、今後どういったサービスが登場することを期待されますか?

自然の魅力があるのはよくわかっているんですけど、「本当に自然に行かなきゃいけないのか」って思うんですよ。「東京の森」を感じるキャンプスポットがあってもいいんじゃないかって。例えば大都会の建物の屋上って結構、何か山頂に近い感じになるんです。森に行かなくても「都会の建物の屋上でテントを張るようなキャンプ場があってもよくない?」って。最近は危なくない焚き火セットもあるから、自分たちでテントを張って、ちっちゃな焚き火を楽しみながら、星じゃなくてネオンやビルの光を眺める、東京の森、人工物の美しさを楽しむ。その土地のもの、おいしい食べ物屋さんで買ってキャンプする。もちろん自然とはまったく真逆になるけど、人工物の魅力に感動できるキャンプ場があってもいいんじゃないかなって思うんです。都会の中でもグリーンスペースが増えていますよね。そこにキッチンカーを集めてキャンプ企画とか。
都会に住んでいる人たち、車を持ってない人たちも結構いると思うんです。家族でアウトドアをするために車を借りてって、駐車料金も高いし大変じゃないですか。そんなキャンプ場があれば、キャンプがもっと身近になると思います。なんだかアウトドアに対して、みんなが頑張らなきゃいけない感じがまだあるかなと思っていて、「頑張らなくてもいいアウトドア」があってもいいのにって思います。グランピングほどきれいでお金がかかるものではなくて、キャンプとの間みたいな。家族や若者も気楽に楽しめるサービスがあるといいな。

 あとは、量より質に特化したキャンプ場。その土地の野菜や地ビールや食べ物を集めて、とにかく美味しいものしかないキャンプ場とか。ただ食だけを楽しむために人が来るとかってどうなのかな。そういうところで、畑を耕せたり、春夏秋冬が楽しめたりすると、子供の教育にもいいし、サステナブル(持続可能)だなって思いますね。
それと、キャンプをより楽しくするには、やっぱり歌う、踊る、火をおこす!ってことですね。チャッカマンみたいなライターの類は使わないで、アウトドアの着火具を使っての火おこしは結構楽しいんで、ぜひやってほしいですね。私も最近キャンプができていないので、火おこしの腕が錆びちゃいそうなんですけど。

最後に読者へのメッセージをお願いします。

キャンプとかアウトドアって1回足を踏み入れた人にはすごく身近になるんですけど、行ったこともない方にとっては、ちょっと敷居が高いイメージがあるんですよね。物がなきゃだめかなとか、技術がなきゃダメかなとか。どんな服を着ていけばいいのかなみたいな。そうじゃなくて、1回とっぱらって、本当にアウトのドア。ドアを1回出てみよう。みんなそれぐらいすごい気軽なものでいいんじゃないかなと思ってます。
私がやったようなベランダタイムでもいいし、自然に触れることとか、ちょっといつもと違う非日常を過ごしてみることって、考え方や自分の工夫次第でいかようにもできる。だから大きなことと捉えずに、簡単なことって思ってもらいたいですね。一歩出て、風に当たって、太陽浴びて、「今日気持ちいいな」ってなれば、「もうあなたはもうアウトドアラーです」って。家に毎週花を買ってくるでもいいし、窓を毎朝開けるでもいいし。それくらい何か身近なことからトライしてみてほしいですね。ベランダに出て背伸びしたり、体を一瞬でもほぐしてみたりすると、絶対に家にいたときとは気持ちが変わってると思うんです。自然には、必ず前向きにしてくれる力があるから。まずは一歩からね。(了)

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