トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.9

天気予報は「ニッポンの未来予報」!

誰もが気にする天気予報。今、天気予報に熱い視線が注がれている。観測技術の発達や人工知能(AI)、データ分析技術の進化とともに、天気予報をはじめとする気象データの利用が広がる。産業の3分の1が天候に左右されるといわれ、気象データは、幅広い業種に新たな価値を生み出す可能性を持つ。気象データの活用などに向けて気象庁は、気象ビジネス推進コンソーシアムを立ち上げた。気象データからどんな未来が開けるのか。ニッポンの天気の最前線を追う。

Angle A

後編

東京の街の美しさを映画に込めた

公開日:2019/8/9

映画監督

新海 誠

新海誠監督のアニメーション映画『天気の子』は、天気や気象に対する精緻で美しい描写が目を引く。雨が降り続く東京と印象的な形の積乱雲。新海監督に天気や気象への思いと作品とのかかわりを聞いた。

『天気の子』では、雨が降り続いている東京が美しく描かれています。

 東京は、今も変化し生きている街です。東京の道はいつも真っ黒でそれが個性だと思っています。アスファルトで塗り込められているけれども、どのアスファルトも新しく、真っ黒で光沢があります。雨が止み陽が射すと、黒かったはずのアスファルトに光が反射します。そのコントラストは、東京がアスファルトに覆われている街だからこそ美しいなあと。
 そんな瞬間は、『天気の子』の中にもあります。この街ならではの雨が降った時の風景や、晴れ間が出てきた時の風景があります。東京という街ならではの美しさを映画に込めているつもりです。

ご自身が見た印象的な雲や空の景色とは。

 僕が育ったのは、長野県の高原のような場所です。標高もとても高いところで周囲を八ヶ岳などすごく高い山が取り囲んでいます。風が強く気流も複雑で、空を見ていると、目の前で雲の形がどんどん変わっていきます。それが夕方の時間帯であれば、刻一刻と色が変わり、その変化はアニメーションのようです。
青空の青の成分に少しだけ黄色がかってきて、黄色みがどんどん赤みが強くなって真っ赤になる瞬間があります。その後、空は藤色というかアジサイのような色に変わっていって、そのまま、だんだん星が出てくる。その色の変化、雲の形の変化が見える、ものすごくきれいな場所だったと思います。
 『天気の子』では、東京はずっと雨という世界で、夕空を眺めるというシーンはあまりないけれども、六本木のあるビルの屋上から陽菜が祈って空を晴れにしてすごく美しい夕焼けが広がる一瞬があります。子どものころ毎日、ああいう空を眺めていました。

映画『天気の子』から、東京の街に美しい夕焼けが広がる

©2019「天気の子」製作委員会提供

これまでの作品でも日本の四季、天気や雲や雨、空が精緻に描かれています。

国のある場所によって天気というものは違います。僕らが日本に住んでいるから、日本で観測できる雲の形や空の形を描いています。僕たちは、日本で見える空、日本の雨を描こうと思って本当に意図的に意識的に観察して描きます。どういう雨を降らせようかと考えて決めて、雨粒を描きます。僕たちは、雨粒を1粒1粒、描くわけです。雲の形も、どういう雲の形にしようと考えて決めています。そういう空になっているのではないかなあと思います。
 日本はもともと雨が多い場所に位置し、日本で暮らす人々は四季を愛し、和歌にも詠んできました。昔は、観天望気といって、普通の人たちが雲や空などの様子を見て、天気を予測する天気予報のようなことを暮らしの中で自然に行っていました。現在は、普通の生活からは遠いものになってきているように感じますね。

『天気の子』では、印象的な形の積乱雲をはじめ大気現象の描写も注目されています。

 雲研究の専門家で、気象庁の荒木健太郎さんからも話を聞き、気象監修をしてもらいました。積乱雲は限界まで発達するとそれ以上の上空へは進めなくなり、かなとこ雲という雲上部が横に広がるような構造を持つといいます。『天気の子』で描いた、かなとこ雲の上面は、草原のような場所になっているけれども、地上からは見えません。「もしかしたら何かあるかもしれない」と見上げて、見上げても見えないからこそ想像をかきたてられます。
 実際にこうした世界があるかどうかは別として、微生物や細菌のレベルであれば、雲の中でしか発見されないようなものがあるという話もゼロではないと思います。
思います。

映画『天気の子』から、かなとこ雲に思いをめぐらせる

©2019「天気の子」製作委員会提供

気象データにどんな可能性を感じますか。

 気象現象は複雑系です。ちょっとした変化で大きく変わります。カオスの現象を扱うのが気象学です。現在、天気予報の精度は上がっています。ただ、コンピューターの性能が上がれば上がるほど、予報の精度は上がっていくのだけれども、おそらく決して100%にならないのが天気予報ではないかと感じています。
 『天気の子』の制作過程でも最初のころ、陽菜の役にあたる「晴れ女」という民話や神話的な存在の対極として、帆高が東京で頼る須賀の職業を気象AI研究者にしようと考えたことがありました。実際には須賀は編集プロダクションの経営者になりましたが。
 ビッグデータを気象予報に生かす、今、まさにそういう分野の研究が進んでいます。もし、気象AIのようなものが確立できたとしたら、人間のテクノロジーで(気象において)もう一つの地球を再現できることになります。そんな未来があったら人間はすごいなあと思います。(了)

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