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トリ・アングルINTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.26伝統の灯を消すな!無形文化遺産

公開日:2021/2/19

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[ 後編 ]

次の10年で伝統産業の難題に挑む

株式会社和える代表取締役矢島 里佳

日本全国の職人と共につくる“0歳からの伝統ブランドaeru”を立ち上げた株式会社「和える」の矢島里佳代表は、会社が創業20年の“成人”を迎えた時点で、社長業をバトンタッチする予定という。残りの10年は、日本の伝統文化の素材を生み出す「里山」再生など時間のかかる難しい事業に着手し、次の世代に引き継ぐための基盤づくりに取り組む覚悟だ。

買われたモノを修理する「お直し」のサービスを展開する狙いは?

 日本には、「金継ぎ」や「漆の塗り直し」といった「お直し」の文化があります。大切な器がこわれてしまっても、お直ししながら、ずっと使い続けられるようにするためで、日本では、はるか昔から、SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みが行われていたのです。こうした日本の伝統を引き継ぐために、「和える」では、職人さんが作ったホンモノを1日でも長く使っていただけるように、金継ぎや塗り直しのサービスを提供しています。最初は壊れてしまった器を「お直し」できることを知らない人が多かったですが、ここ数年で関心が高まり、今では多くの人が「お直し」サービスを活用しています。海外からも関心が寄せられていて、「Kintsugi」という言葉で通じるほどです。新しいモノを買っていただいた方が利益率は高いです。しかし、「和える」は必ず右肩上がり成長しなければならないという経営姿勢はとらず、利益が循環し事業が継続できれば良いという考え方です。そもそも、お金を稼ぐために起業したのではありません。事業を継続させるための収益は必要ですが、利益率の高い事業だけを行うのではなく、赤字にならないなら、日本の伝統をつなぐ上で、大切な事業はやるべきだという考えです。「お直し」は日本文化の精神性を伝えるためには極めて重要です。

【マグカップ(陶器)の割れ・欠けを金継ぎでお直し】

※和える提供

消費の意識も大きく変わっているのでしょうか?

 今の子育て世代の中には、「ホンモノの器をずっと使い続けることこそが、豊かな暮らし方である」と思う親御さんたちが増えているような気がします。物質的なものではなく、モノを大切に使い続けるという行為自体に価値を感じているのだと思います。物質的なモノよりも、目には見えない精神性に対する関心が高まっているのではないでしょうか。この10年で時代が大きく動いているのを感じます。そもそも「消費」という概念自体が変わっているのを感じます。「和える」は消費者のことを「暮し手」と呼んでいます。私たちも皆さんも、経済を成長させるために、消費をさせる対象ではありません。「人間が豊かに生きる」という原点に立ち戻った行動をするのが「暮し手」です。

起業して10年が経ち、次の10年へ向けた目標は?

 ベンチャー企業の節目と言われる3年、5年、10年を何とか乗り切ることができました。これまで蒔いてきた種が少しずつ育ってきて、伝統を次世代につなぐことに何かしら役に立て始めているような実感を持つことができ、今ようやくスタートラインに立てた感じです。これからは、伝統産業にとって大きな課題である「事業承継」についての取り組みを進めていきたいです。「和える」の活動は、伝統や文化を楽しむ理解者を増やすことで、伝統産業品の需要を高め、職人の方々の仕事が確保することにつながります。これも、ひとつの事業承継への貢献です。しかし、伝統産業の職人さんの平均年齢は70歳前後と言われており、もはや待ったなしの状況です。このほど、国内最大級の成約実績を持つM&A総合支援サービスのBatonz(バトンズ)と、伝統工芸の事業承継を応援するアライアンスを結びました。M&Aを活用すれば、伝統産業を引き継ぎたい側が資金を払うので、今までの事業承継とは異なる、新たな可能性が広がります。「和える」は引き継いだ側のブランディングなどをお手伝いする役割を担います。

【事業承継に関する公開ウェビナーの模様】

※和える提供

日本の文化を海外へ発信するための取り組みについて、教えてください。

 新型コロナウイルスの感染拡大が終息したアフター・コロナには、海外からのお客様を「お出迎えする場」を設けたいと思っています。創業時から、海外の方にも、日本の精神性を感じていただける場所をつくりたいと考えていました。「人・モノ・お金」は動かせますが、テクノロジーが発達しても「場所」を動かすことは難しいはずです。「和える」が海外に出ていくよりも、お出迎えする場をつくって、全世界からお客様にお越しいただける魅力を発信したいと考えます。この事業は“aeru time”と名付け、滞在する中で、日本の伝統工芸品の使い方や心地よさを体感したり、自分で工芸品を生み出す体験の機会も提供したいと考えています。いわば「道場」と「リトリート」を和えたイメージです。

これからの目標や夢は?

 次の10年が、社長としての最期の任期になります。創業者としてやるべきことは、会社の文化的な基盤である「哲学」を育むことです。後継者がスムーズに事業を引き継げるような基盤を整えるため、時間がかかる事業に着手します。今春には “aeru satoyama”事業をスタートし、手始めに漆の苗を植えます。ゆくゆくは、原材料を自社で供給できる仕組みを整える狙いです。日本の自然こそが日本ならではの伝統であり、里山が消えてしまうと、日本の素晴らしい四季や、伝統産業の火も消えかねません。日本全国で山が荒廃しているのは、採算が合わないというのが大きな課題ですが、里山を残せるようなビジネスモデルを生み出していきたいです。50年後に里山が育ち、和えるの2~3代目の社長の時にはそれを使った商品を提供できるようになれば、とてもうれしいです。

あと10年で社長を退任するのですか?

 「和える」が20歳になって成人するまで、私が育てて、その後、後継者に経営をバトンタッチしようと決めて創業しました。「和える」は「先人の智慧を私たちの暮らしの中で活かし、次世代につなぐこと」を目指して、次世代に伝統をつなげる仕組みを生み出すために誕生しました。会社の経営でも、その仕組みづくりを実践したいです。現在の、日本人の中央年齢値である47歳前後を社長の退任年齢にするつもりです。「まだ若い」という指摘もありますが、若いからからこそ譲るべきだと考えています。これまで、経営者がいつまでも自分が若いと思って譲らなかったことが事業承継が上手くいかない理由の一つだと思うのです。若い世代に社長を譲り、「亀の甲より年の功」で、和えるくんのおばあちゃんとして、相談に乗れるような体勢を整えるつもりです。ゆくゆくは、社長であるお母さん(お父さん)のほか、おばあちゃん(おじいちゃん)、そして私が曾おばあちゃん相談役として現役社長を支えます。現役社長に何かあったときでも、経営を担える人材を会社内に複数人確保することで、長く続く企業になっていけると考えています。

同世代の人たちにメッセージをお願いします。

 コロナ禍など不確実性の高い社会に生きているので、不安を抱いている人も多いのではないでしょうか。こんな時こそ、自分の気持ちに素直に生きることを大切にしてみてください。どんな時も、未来に希望を持って前向きに生きる大人の背中を、次世代の子どもたちに見せることができれば、日本は生き生きした国であり続けられると信じています。(了)