トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.13

未来都市が現実に? スマートシティ発進

AIやビッグデータ、次世代送電網(スマートグリッド)技術などを活用し、渋滞解消や省エネなどを目指す先進都市「スマートシティ」。日本では国家戦略特区などの枠組みで導入が進んでおり、今年8月には、約600の自治体や企業、中央省庁、研究機関が参加して先行事例を共有する官民連携協議会も設立された。スマートシティが現実のものとなることで、私たちのくらしはどう変わるのか。

Angle A

後編

「温かくてやわらかい」コミュニティーに

公開日:2019/12/17

建築家

隈 研吾

全国で、未来都市「スマートシティ」を軸とした新たな街づくりに関するプロジェクトが動き出している。スマートシティを目指す日本の都市は今後、どう進化するのか。建築家の隈研吾氏は「日本が得意とする分野で、日本のスマートシティを世界に発信できる」と語る。

国土交通省の「先行モデルプロジェクト」をはじめ、全国の自治体で、「スマートシティ化」に向けた取り組みが行われています。ご自身が市内の中学、高校に通われた縁もあり、鎌倉市の都市政策専門員に選ばれましたが、鎌倉市では、どんなことができそうでしょうか。

 スマートシティの構想がある鎌倉は、とても面白い場所です。街並みは低層だけれども、そこには、いろんな情報と歴史が詰まっています。建築的な密度が高いとは感じないけれども、情報の密度の高い街です。そういう街に人間がうまく住みこなすことができれば、世界のモデルになれるような気がしています。鎌倉と京都は歴史のある街として有名だけれども、鎌倉はまださまざまな可能性が残されていて、京都以上の新しい日本の文化的な核を作っていけるかもしれないと思っています。

スマートシティに取り組む上で、日本にとって参考になる海外の事例はありますか。

 スマートシティという切り口で面白いといえば、例えば、中南米のコスタリカですね。現在、私はコスタリカでも仕事をしていますが、この国は中南米の中でも国内の経済格差が少なく、さらに自然の多様性がとても豊かな国です。古くは北からのマヤ文明的なものと南からのインカ文明的なものが流れてきているなど、いろいろな文化が入ってきているところも、日本と似ています。豊かな自然の多様性を活かせる点も日本と似ていますので、日本のスマートシティを考えるうえで、ヒントを与えてくれると思います。
 アメリカのオレゴン州ポートランドも、多くのヒントを与えてくれる場所です。車社会のアメリカの中で、最も早く、歩く街への転身をはたした場所とも言えます。文化的寛容性も高く、参考になることが多い街です。

日本はどんなスマーシティを目指すべきでしょうか?

 スマートシティに関する考え方は場所によって違うけれども、「日本のスマートシティ」として考えるなら、低層で素材がやわらかいものでできたスマートシティや、温かくてやわらかい感じのスマートシティを世界に発信していけるのではないかと思います。やわらかいとは自然の素材を活かして温かみが感じられる気持ちを伝える言葉ですが、日本はそのようなスマートシティを作ることに向いていると思います。
 日本の路地空間には、世界に類を見ない狭さや密度感があります。そういう路地空間には文化や人と町とのつながりがあります。私自身、江戸時代の路地のような、低層だけれども高密度で快適なものを今の時代の技術でつくってみたいですね。素材としてやわらかい草でできた道路などもイメージできます。

スマートシティが実現した後でも、人と町のつながり、コミュニティーが大切な要素になります。

 コミュニティーという概念自身が、今ではノスタルジック的な意味合いを持たれています。新しい概念として、例えば「スマートコミュニティー」のようなものを目指してほしいですね。それこそ、シェアハウスのようなものがヒントになると思います。従来の地縁、血縁的なコミュニティーが壊れた後のコミュニティーがよく見えなかったけれども、最近、シェアという概念から、新たなコミュニティー、新しいライフスタイルが見えてきた気がします。今後の日本では、外国から訪れる人の役割も大きな意味を持ってくるでしょう。
 「ゆるいけれども強くつながっている」というコミュニティーを目指していくことになります。僕自身シェアハウスを経営していますが、そこに面白い人間を集めて、人間関係を作ることを目的として、一種の教育の場だと考えています。大きなデベロッパーではなく小さな企業単位で、新しい住まい、オフィスのあり方を発信していくことで、都市は変わっていくと思います。今後も外国から訪れる方々が暮らしやすくなるようなシェアを広げていきたいですね。私の事務所では、外国の出身者が多くいます。このうち東京の事務所では40%ほどを占めています。外国から訪れる人がみんなの接着剤になってくれています。異なる要素が入った方が、全体がつながりやすくなり、人間関係がスムーズになりますね。
 先ほど話したコスタリカは、自然を含めていろいろな要素が入ってきて、ゆるい感じでみなつながっていますから、参考となります。
 江戸時代は、閉じられたコミュニティー社会でした。明治時代に入り西洋的なものが入ってきました。これからの時代、日本の中にこれまでと異なるものを取り入れた、新しい日本型のゆるさをコミュニティーに取り入れることができたらいいなあと思います。(了)

【隈研吾氏が設計した明治神宮ミュージアム。柔らかな光が差し込み緑と木が調和している】

撮影:株式会社川澄・小林研二写真事務所

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