トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.41

雪国だけじゃない! 雪の脅威から身を守る

近年、交通障害や物流障害など大雪による災害やその影響は雪国だけにとどまりません。雪害が増えた一因は「地球温暖化」。現状のまま進行した場合、日本の降雪量自体は減少していくものの、1度に1m以上積もる「ドカ雪」は増加すると言われています。今後さらなる雪の脅威から身を守るために、雪が降るメカニズムから雪への備え、災害に対する心構えまで、「雪」に詳しい方々にお話をうかがいました。

Angle C

後編

現場の「見える化」、計画輸送で首都圏の足を守る

公開日:2023/1/31

東日本旅客鉄道株式会社
            

新潟支社 (前編)
大宮支社 (後編)

JR東日本の管内である首都圏には、1日の平均乗車人員が全国1位の新宿駅をはじめ、全国的にも利用者の多い駅が各地に点在。各路線で多くの列車が運行され、私鉄や地下鉄との相互直通運転も行っているため、雪害で運行に支障が出ると多方面に影響が及びます。豪雪地帯とは異なる首都圏ならではの雪害の特徴や対策について、大宮支社 鉄道事業部 設備ユニット(保線) マネージャーの花澤幸治さんに取材しました。

(写真)
東日本旅客鉄道株式会社 大宮支社 鉄道事業部 設備ユニット(保線) マネージャー 花澤 幸治

豪雪地帯と異なる首都圏ならではの雪害の特徴を教えてください。

 豪雪地帯に比べて首都圏の降雪量は少ないのですが、雪質が重く、20cmほど積もっただけで設備などにさまざまな障害が発生し、輸送に大きな支障が出てきます。乗車人員が多い首都圏の鉄道だけに、輸送障害はたくさんの方に影響が及ぶことになります。
 また、多くの歩行者や車が利用する踏切や周囲の路面が凍結することで、普段から雪に慣れていない地域では、歩行者あるいは車が線路内で立ち往生するといった事態も起きやすくなります。
 しかも首都圏のJRは他の鉄道会社との相互直通運転※も多いため、雪で列車が停車すると広い範囲に影響が出て、大きな輸送障害につながることもあります。列車の本数が多く、運行も密に行っていることから、駅間に1編成が停車しただけで後続の列車は長時間駅間に停車をすることになってしまいます。
 豪雪地帯では列車を止めて除雪が行われることもありますが、首都圏は運行する列車の本数が多く、いったん列車を止めて除雪を行うのが困難です。このため雪害対策の基本は、「お客さまの安全を最優先にしながら、列車を止めずに走らせ続ける」ことになります。それには、始めから列車の運行に関わる設備に雪を積もらせない対策も重要です。線路近くに住宅地など建物が密集する地域では、雪を捨てる場所を探すのにも苦慮しますから、その意味でも線路や周辺の積雪は避けなくてはいけません。
 ※複数の鉄道会社間で互いに相手の路線に電車を乗り入れて営業運転すること

雪が降ったときの首都圏での特徴的な対応はありますか?

 プレスリリースや運行情報Twitter等のSNS、JR東日本アプリやデジタルサイネージなど様々な情報媒体を通じて降雪時の運行計画について前広に運行計画をお知らせしますが、その中でも特に、首都圏の主要駅の改札付近に設置してある異常時案内用ディスプレイが活躍します。運行状況を路線図で視覚的に把握でき、JR内の複数区間での直通運転、他社との相互直通運転がある首都圏では、路線図で運行状況や運行計画が一目で見られるのはお客さまにとって分かりやすいと思います。
 こうした事前の案内により、当日の帰宅時刻を早めたり、出社せずにテレワークに切り替えたりといった判断をしていただければと考えています。

運行状態を知らせるデジタルサイネージを主要駅改札付近に設置

間引き運転はどのようなプロセスで決まるのですか?

 首都圏では数日後に雪が降る可能性が高まってきた場合に、東京総合指令室を中心に各支社と合同で情報共有会議を開きます。雪が降る確度が高いと判断した場合、支社ごとに雪害対策本部を立ち上げ、降雪時の間引き運転などの運行計画や雪害への即応体制を決定します。
 首都圏は何日も雪が降り積もるような気候ではなく、雪害対策は雪が降るタイミングを捉えて適切に行います。一般的に首都圏の雪は太平洋沿岸を通過する南岸低気圧の影響といわれますが、気象の専門家でも雪か雨かの予測は難しいとされ、雪に備えるにしても「いつどのような対策をとるか」の判断には各支社とも苦慮していますね。
 降雪に限らず、さまざまな要因でも輸送障害が起きないことが一番ですが、起きた場合にも必要な情報を早めにお客さまに提供するよう考えています。

首都圏の鉄道に運休や大幅な遅れが生じた2014年2月の豪雪での経験はどう生かされていますか?

 首都圏では2014年の2月上旬、14日から16日と2度の豪雪に見舞われ、特に14日からの豪雪で東京都八王子市以西の路線には大きな輸送障害が起きました。当時の天気予報ではそこまでの大雪は想定できず、八王子市以西以外にも各所で列車がストップする事態になり、大変ご迷惑をおかけしました。豪雪地帯では積雪監視に使用できるカメラがすでに設置されていましたが、この反省から、首都圏においても、八王子市以西の路線には、在来線の無人駅と踏切を中心に12カ所の監視用の雪況カメラが新設されました。その後、新幹線やほかの地域でも順次雪況カメラを増設しています。
 それまでは、支社の周辺に降る雪を見て各地の雪を予測し、線路・踏切の除雪や点検頻度、融雪剤散布のタイミングを決めていたのですが、多数の監視カメラで沿線の様子を集中監視できるようにしたことで、より適切なタイミングでの対応が可能になりました。

2014年2月豪雪時の様子(JR中央本線大月駅)

普段雪に慣れていない地域において、鉄道の利用者が降雪時に注意すべき点について教えてください。

 踏切の除雪はしていますが、凍結の恐れもあるため、歩行者の方は慎重に歩いていただきたいと思います。もしも車が踏切で立ち往生した場合には、迷わず踏切近くの非常停止ボタンを押してください。車を押したり人を呼びに出たり、自分たちで何とかしようとされる方が少なくないのですが、乗客の皆さんの安全にも関わりますので、まずは非常停止ボタンで列車に知らせるようお願いします。
 また、列車の運行予定および運行状況・今後の見込みについては、ホームページやSNS、駅または車内のデジタル掲示板でお知らせしていますので、それをもとに余裕を持って行動していただければと思います。

 「雪月花せつげっか」という言葉があるように、自然美の代表のひとつである「雪」。その一方で雪崩などの災害の原因でもあり、特に近年は、一度に大量の雪が降る「ドカ雪」の被害が目立つようになりました。
 「なぜ、ドカ雪が増えたのか?」「そもそも雪が降るメカニズムとは?」など、雪害の基礎知識について教えてくださったのは、防災科学技術研究所 雪氷防災研究センターの中村一樹さん。ドカ雪増加に地球温暖化が関わっているとのお話に、改めて「ストップ温暖化」の必要性を感じました。また、雪で大きな影響を受けるのが鉄道などの交通インフラです。最近は、計画運休することも珍しくなくなりましたが、JR東日本 新潟支社の中澤久雄さん、大宮支社の花澤幸治さんからうかがった電車を少しでもスムースに運行させるための取組みからは、インフラの担い手としての心意気が伝わってきました。アルピニストの野口健さんは、エベレストで遭遇した雪崩など、貴重な雪山のエピソードを教えてくださいました。そうした経験を踏まえて現在、野口さんが進めていらっしゃる「災害に強い人づくり」の活動は、子どもだけでなく、私たち大人にこそ必要なのかもしれません。
 次号のテーマは、昨年末のレベル4飛行(有人地帯(第三者上空)での補助者なし目視外飛行)解禁により、さまざまな業界から注目されている「ドローン」。空の産業革命の担い手とされるドローンの日本における現状と今後について迫ります。
(Grasp編集部)

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