トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.15

狙うは、ナイトタイムエコノミー!

夜の時間帯に観劇、観光などのレジャーを楽しむ「ナイトタイムエコノミー」。訪日外国人客の増加が続く中、「日本の街には、夜間遅くまで楽しめる場所がない」という声が聞かれるようになった。受け入れ側の日本でも、夜を楽しもうとする観光客を受け入れれば、更に消費は拡大するのでは、との狙いから、経済政策としても注目されるようになっている。これまで規制一辺倒だった夜の街に、「楽しんで遊んでもらえるように」という発想が生まれ、新風が吹き始めている。

Angle C

後編

「泊・食・観光」一丸でアピールを

公開日:2020/2/28

観光庁

長官

田端 浩

ナイトタイムエコノミーが成り立つ条件はあるのだろうか。数々の実践例からも夜の時間帯の活用方法と可能性が見えてくる。従来の観光スタイルでは気付かない需要の種が、夜の時間帯にある場合が多い。日本各地の取り組み事例を通じて、見えてきたナイトタイムエコノミーの課題や可能性とは何だろうか。

都会に限らず、地方でも夜の消費への期待が高まっているようです。

 地方部では多くの場合、インバウンド(訪日外国人旅行者)の宿泊が一定数あることが成功への前提条件となります。ポイントは、いかに宿泊客をホテルや旅館から外へと連れ出して、どのように消費へと導くか、ということです。城などの観光資源を抱えていても「宿泊するホテルや旅館から人が流れてこない」という声も聞きます。特に地方の観光地では、宿泊客へ夜に出歩いてもらう工夫が必要です。オーストラリアのシドニーでは、オペラハウスでプロジェクションマッピングをしたり、香港でも湾岸部のビル街で照明の演出をしたりすることで、夜の街に人の流れを作り出しています。国内に目を向けると、日帰り観光地とされている街、例えば広島には、大阪や京都から新幹線を利用して「日帰り」で立ち寄る観光客も多いようですが、周辺の地方部での夜の名物コンテンツができれば、その地域に宿泊しようという需要が増えることが期待されます。

【それぞれの地域が持つ観光資源を活用した仕掛けづくりにより、訪日外国人の滞在者やその消費額の増加が期待される】

※観光庁資料より

施設内で食事をとらせたい宿泊施設と利害がぶつかりませんか。

 最近は、特に多様な日本食を楽しみたいインバウンドは、「泊」と「食」を分離して利用するニーズも強いようです。旅館やホテル内で食事をする場合でも、宿泊者を囲い込むだけでなく、地域全体で観光資源を活かし、育てる考え方が必要です。例えば、神田明神での「江戸東京夜市」では、丸の内エリアのホテル等と連携して、丸の内エリアの宿泊客を神田明神へ送客するためのシャトルバスを運行しています。このように観光客を宿泊施設の「外」と「内」で取り合うのではなく、観光地全体で利益が出て、付加価値が上がっていくようにすることが必要です。

発想の転換が必要ということでしょうか。

 長野県阿智村には、昼神温泉郷があります。かつては、中京圏から中高齢層が訪れる「どこにでもある温泉地」でしたが、観光客の伸び悩み問題に直面し、「温泉地」としてのアピールから転換して、「日本一の星空」を核とするブランド戦略で対外的にPRすることへと、方針を切り替えたそうです。そもそも星空は昔から阿智村にある当たり前の観光資源でしたが、今では首都圏からも若い女性やカップルが、星空を見るために訪れるようになったことで宿泊客層も変わり、人気が高まったそうです。もちろん、地元の工夫も重要です。バスでの宿泊客の送迎、ゴンドラの運営、曇天時でも満足できるプロジェクションマッピングの創出などに取り組んでいて、人気を維持しています。夜のコンテンツは意外なところにあるものだという好事例だと思います。こうしたものを見つけ出し、開拓する努力が必要です。
 また、山梨県の富士吉田市には、レトロなスナック街である西裏地区があるのですが、以前は河口湖周辺を訪れる観光客への認知度が低く、誘客が課題となっていたそうです。そこで、公式インスタグラムを作成し、西裏地区の店舗を訪れた旅行客に、「#nishiura」でインスタグラムに投稿するよう呼びかけたところ、SNSによる拡散を生み出し、一定の成果を出しています。このほか、近くの遊園地「富士急ハイランド」の協力を得て、お化け屋敷のスタッフを動員して、お化けがスナック街に出没する試みをしたところ、ネットやメディアで話題が広がり、来客が増えたそうです。スナック街などのレトロな街並みは、東京・新宿でもそうですが、外国人に響く魅力がある場合があります。

都市部だと夜間帯の移動手段の確保も課題ですね。

 先日、大阪の御堂筋線で、夜間の運行を深夜2時まで延長する実証実験を行いましたが、そこでの効果をもとに、同様の事例が増えてくることが期待されます。こうした試みは、行うことにも意味がありますが、十分な周知も大切です。いくら便利でも人々が「知らなかった」ということでは利用が広がりません。

民間事業者は見えない投資に慎重になりませんか。

 東京・新宿の「ロボットレストラン」が人気を集めていますが、施設整備のために億単位の初期投資をしていると伺っています。それゆえ、特に地方部の観光地にそこまで求めるのは厳しいかもしれません。まずは昼間に営業し、それなりに集客しているのを夜間まで延長するというようなパターンから考えるのもいいと思います。あとは、「ハッシュタグマーケティング」と呼ばれている方法も有効です。つまり訪れた人に、地元のキーワード「#Kawaguchiko」とか「#fuji」のような単語をつけてSNSで画像とともに発信してもらうように促すということです。SNSを見た人が、さらに関心をもって訪れてくれる効果が期待されるのですが、特に地方の事業者には意外とこの必要性を認識している方は多くないように見受けられます。

観光庁では、「早朝」の市場開拓もテーマに掲げていますね。

 午前9時から午後5時までという定番の観光サービスを突き崩そうという趣旨です。ナイトタイムだけでなく、早朝のサービス開拓を試みようと考えています。例えば京都・二条城では「朝がゆ」のサービスを朝6時とか7時に提供する、という具合です。格安航空会社(LCC)を利用する観光客は、早朝や未明に空港に到着することもありますので、到着した後早速街に出ても、楽しめないという状況は解消されるべきだと考えています。時間帯に着目した試みとして、新たな可能性を感じています。(了)

タイムアウト東京代表の伏谷博之氏は、ナイトタイムエコノミーの先進都市であるロンドンの事例を中心に紹介しながら、日本の夜の消費のあり方にも多様性が求められているとの見方を示した。B-biz LINKマネジャーの堀景氏は、大分県別府市で取り組んでいる事業を通じて、今ある資産を活かした等身大の事業こそが長続きする秘訣だと語った。
観光庁長官の田端浩氏は、民間の事業に国が支援することの重要性を強調するとともに、それぞれの地域が持つ観光資源を活かした仕掛けづくりにより、インバウンドの消費額の増加が期待できると提言した。
 次回のテーマは、「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト」です。国土交通省では、近年の気候変動による災害の頻発化、激甚化に対し、その総力を挙げて検討を行い、今夏までにプロジェクトの成果をとりまとめる予定です。省内の4人の幹部にそれぞれの担当分野から意気込みなどを伺います。(Grasp編集部)

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