トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.33

輝け!水の中のスペシャリスト

海に潜り、人命救助や捜査活動を担う海上保安庁の潜水士。彼らをモデルにしたテレビドラマ『DCU』には、水中という過酷な環境でさまざまな試練や困難に立ち向かう潜水士たちの姿があります。潜水士を描くこと、そして潜水士を演じることの裏側にはどんな挑戦があるのか―舞台となる海上保安庁の業務とともに紹介します。

Angle A

後編

人の心を動かすもの、それは熱意

公開日:2022/1/25

株式会社TBSテレビ

ドラマ『DCU』プロデューサー

伊與田 英徳

今や押しも押されぬ名プロデューサーの伊與田英徳さん。しかしドラマづくりにはこれまでも、そして今もさまざまなご苦労をされているそうです。伊與田さんはこれまでにどんな困難を乗り越え、これからどんなことにチャレンジしようとしているのでしょうか。ドラマ制作にかける思いや、制作チームの連帯感などについて聞きました。

『DCU』は海外の制作会社との共同制作ですが、海外チームとはどのようにコミュニケーションをとっているのでしょうか。

 これはもう、最初からうまくいかないものと思って取りかからないといけません!(笑) 「米がうまいのか、パンがうまいのか」って議論をずっとしているような感覚なんですよ。考え方や文化が違う中、日本で制作するんだから米をベースにしてくれと、もしくは最初から「パンでやるんだ」って言ってくれないと、米を食うつもりでパンが出てきたらまずく感じちゃうよ?というようなことを、今ちょうど相手側と話したりしています(苦笑)。
 制作のスタイルも、日本と海外とでは大きく異なります。日本ではプロデューサーが撮影現場にいて、その場でさまざまな判断を下すことが多いのですが、海外の場合はプロデューサーは現場に行かず、あがってきた映像をクラウドにためて、それを見て「ここがダメだから、もう一回撮影するように」と指示を出すことが多いようです。今はこうしたお互いの常識をすり合わせているところです。海外の人たちだって彼らなりの正論をこちらにぶつけてきているので、「なるほどね」って思うこともいっぱいあります。その間をどうとっていくか、ですね。新しいことをやるからには、いろいろな苦労があるのは当たり前のこと。お互いの主張を一つひとつ噛み砕いて納得して、取り入れるところは取り入れるし、ダメなところはダメとする。こうしたトライアンドエラーを積み重ねて、ひとつの方向性が見つかっていくんだと思います。
 もしかしたら「日本ではこうする」というような独自のやり方は、十年後にはなくなっていて、すべてが世界基準のやり方になるのかもしれません。先のことはよくわからないけれど、とにかく今は国内だけで制作するのとは倍くらいのコミュニケーションを海外チームと取って進めています。

ヒット作を数々世に送り出している伊與田さんですが、ドラマのヒットの法則というのはあるんでしょうか?

 「これをしたら当たりますよ」なんて、実は誰にもわかっていなくて、法則があるのなら逆に僕が知りたいぐらいです。「こっちの方がいいんじゃないか」っていう自分のアンテナを信じて、暗中模索の中で突っ込んでいくしかない。ドラマって、前にどこかで見たことがあるようなものは誰も見たいと思わないでしょう? だからこれまで誰もやっていないような新しいことを盛り込まなくちゃいけないんだけれど、新しいことって、やってみなくちゃわからない。料理だってそうですよね。食べたことない料理が一見おいしそうに見えても、まずかったりすることがある。おいしいかどうかは最終的に食べてみなければわからないし、ドラマも放送してみなければわからないけれど、なんとなく「これおいしそうだよな」とか、「こうしたらおいしくなるんじゃないかな」と思ってつくるしかないですかね。ただ、僕は面白いと思っていたけれど、世間には受け入れられないなっていうものもあるし、逆に、これどうだろうと思っていたけれど、世間の皆さんに響いたっていうのもある。どれが絶対っていうのはわからないですね。

そうですよね。でも企画を通す際には、「絶対面白い」と上層部を説得するわけですよね。

 僕らの世界は、まずは企画書勝負ですから。アイデアを企画書にして、それをいかに編成の人たちが面白いと思ってくれるかにかかっています。しかしここにも時代の流れがあって、昔は文字だけで説明していたものが、最近は画や写真を入れてイメージを伝えることが多くなったり、昔はドラマの設計図を提示すればよかったのが、最近は完成図をビジュアルで分かるようにしないと企画が通りにくかったりなんてこともあります。こんなふうに企画書自体は変わってきていますけれど、やっぱり企画書勝負っていうところは変わらないです。
 そしてどうすれば企画書が通るのか。僕は「データ的にこうです」とか客観的な視点はもちろん盛り込みますが、最終的には、「これが絶対面白いんだ」と思う自分の信念をどこまで表現できるかが重要かな、と思っています。最近はありがたいことに、自分の企画が通りやすくなっている状況にありますけれど、それでも全部じゃない。若い頃は、書いても書いてもはねられました。だから量で圧倒して、「ここまで書いてくるんだったらひとつくらいは企画を通してやろう」って上司に思わせたようなこともありました。現場百回じゃないけれど、自分がこのドラマをどれほどやりたいのかという思いを、コツというより熱意ですよね、それを示しました。
 役者さんでも同じですよ。格好いい人とか芝居がうまい人はゴマンといる。じゃあなぜこの人が選ばれるのかっていうと、その人の思いがちゃんとそこにあって努力しているか。そうした姿勢は、やっぱりプロデューサーにも伝わってくるんです。「自分はどうしてもこの役をやりたい」とか「スターになってお金持ちになりたいんだ」とかでもいいんですよ(笑)。熱意がそこにあるかどうか、それが大事なんだと思います。

「人の心を動かすのは、やはり人の心だと思います」

今おっしゃられたようなことは、先輩の背中を見て覚えられたのでしょうか。

 僕ね、恵まれていたんですよ。実はずっとこれまで崖っぷちを歩いてきた感覚なんですけれど、それが逆に良かったな、恵まれていたなと感じているんです。先ほど、若い頃にたくさん企画書を書いたって言いましたけれど、なかなか仕事を任せてもらえない、企画が通らないという状況をなんとか打開しようとしたとき、自分の武器は諦めなかったことくらいしかないですかね。でもそこでたくさんの企画書を書けたことが、実は蓄積となって残っていて、今につながっています。
 連続ドラマって、さまざまな理由で急に企画がとぶ、つまりなくなることがあるんです。僕はそんな時のピンチヒッターを任されることが何回もありました。そんな時に、若い時に蓄積していた企画書や人間関係が生きてくるんです。でもピンチヒッターだから状況は厳しくて…。通常の連続ドラマだったら1年前とか、どんなに遅くても半年前から動き出していなければならないところ、僕がバトンを受けてから2か月後にクランクインしなければ放送に間に合わなかったりなんてこともありました。そういう“苦境のチャンス”は、それを乗り越えるためにチームに仲間意識が芽生えるんですよ。周りからみたらレギュラー選手じゃない、ピンチヒッターの集まりかもしれないけれど、何とかしなきゃいけないというベクトルをひとつにした団結力が生まれて、みんなで頑張ることによってパワーが生まれました。実は、そういうポジションにいさせてもらえたことを、僕はラッキーだったなって思っています。それにね、わりとピンチヒッターの作品ってうまくいくこともあるんですよ。火事場のバカ力ってやつですか。僕だけじゃなくて、他のプロデューサーでもね。
 そしてそんな時に「今は思うようにいかないかもしれないけれど、いつかどこかにチャンスがある」と言ってくれたり、応援してくれる人もいて…。そんな方に励まされていまここまでこれたと、本当に、感謝しかないです。

最後に『DCU』の魅力と、見てもらいたいポイントを教えてください。

 今回世界規模の制作会社とタッグを組んだからこそのアイデアのスケール感が随所に見られると思います。水に特化した警察、手錠を持ったダイバーたちの活躍の面白さはもちろんのこと、水の中で戦う人たちの生き様や、仲間を信じて頑張る人たちの姿、そこに関わる人たちのいろんな思い、組織をつくった人の思いもあるでしょうし、他の隊員の思い、家族の思い、そうしたものを描けたらいいなと思っています。そしてドラマを通じて、海上保安庁という本当に海の上でわれわれのために頑張って活躍されている人たちがいることもちゃんと伝わって欲しいと思っています。

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