シェア経済の発展に行政はいかに向き合うか
国土交通審議官藤田 耕三
俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ
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シェア経済の発展に行政はいかに向き合うか
国土交通審議官藤田 耕三
シェアリングエコノミーは、民間視点からは多様な可能性がある。ただ実際に社会を変えて行くには、行政による後押しや規制の見直しが必要になるのではないか。藤田耕三国土交通審議官に、行政からみたシェアリングの可能性を聞いた。
シェアリングエコノミーの台頭を、どう見ていますか。
「基本的にはポジティブにとらえています。利用者にとっては選択肢が広がります。社会全体では使われていない資源が使われ、新しいビジネスが発生する期待も持てます。たとえば軒先の空いた駐車スペースとか、自家用車の空き時間とか、世の中には存在するけれども使われていないものは、たくさんあります。個人のスキルみたいなものもあるでしょう。それらをうまく使えば、地域の課題解決や社会の効率化に役立つのではないかと思います」
一方で「所有への欲求や満足」がなくなり、消費のあり方が変わってしまうのは懸念材料ではないですか。
「個人的な経験ですが、私は最近、本を電子書籍に切り替えるようにしています。ダウンロードして購入はするけれど、本そのものは持たない。それで何が変わったかといえば、紙を束ねた書籍が欲しいのではなく、必要としているのは情報だということに気づかされるのです。雑誌は定額サービスを契約しているので、もはや『買う』という感覚すらありません。昔のように『読み込んで手垢がつく』とか『装丁がいいな』という思い入れがなくなるのは確かに寂しいのですが、それ以上に役に立つ情報がスムーズに入手できることが大事だと感じるようになってきました。個々人のこだわりはあるでしょうが、モノを持つことより利用することに価値を見出す社会に変わってきたと思います」
「例えば、自動車はかつて最初に小型車を買って、年齢が高くなるにつれて大型でグレードの高い車に移っていくという流れがありました。しかし今は自動車メーカーのラインナップも増えて、用途に応じた多様な車が提案されています。マイカーを持っていることは、逆に多様性を楽しむことの足カセになりかねない面もあるのです。シェアリングは、インターネットを通じて『持っている人』と『必要とする人』が出会うことにより成り立つケースが多いわけですが、これはデジタル時代の『モノ』や『人』との関係の新しい楽しみ方と言うこともできるのではないでしょうか」
それが日本の経済成長の役に立つでしょうか。
「モノの売れる数量が減っていくということも、あるのかもしれません。しかし有限な資源や空間をシェアリングで有効に使えるようになれば、それ自体が新しいビジネスにもなり得るし、国全体としての効率が上がります。影響を受ける一部の製造業も『ユーザーが所有しないこと』を前提にしたビジネスの在り方をいろいろと考えているように思います」
藤田さんは、これまでの行政経験でシェアリングの必要性を感じたことがありますか。
「シェアリングとは少し違うのですが、20年以上前にタクシーのあり方を省内で議論したことがあります。その時は同一地域・同一運賃などの規制をどうするかが大きなテーマでした。タクシー分野では古典的な課題なのですが、東京のような大都市では需要と供給のマッチングが難しい。仮に運賃の安いタクシーが走っていても、いつ来るか分かりません。利用者は事実上、次にやって来たタクシーに乗るしかないんです。もし運行中のタクシーの様子を画面かなにかで利用者が確認できたら、もっと違う制度やビジネスがあるだろうなと感じていました」
「当時は夢物語でしたが、今はスマートフォンのアプリなどを使うことで、それに近いことが可能になったのです。それを使って現在タクシーでも様々な新しいサービスの実験的な取組を行っています。需要と供給をネットでマッチングさせる機能は、シェアリングエコノミーを成立させる大きな要素でもあり、こうした技術が様々な可能性を持っていることを実証します」
国民がシェアリングを利用するには、安全性や快適さ、清潔さが欠かせないと思います。行政として、それをどう確保していくお考えですか。
「モノによる、と思います。たとえば自動車に関係したシェアリングで、ライドシェアをするのと、駐車場の時間貸しでは、求められる安全性がまるで違いますよね。貸し手が企業か個人かでも、借りる側の受け止めは違うでしょう。シェアリングエコノミーにおいては、インターネットを通じて全く知らない個人間で貸し借りをする場合が多いので、仲介業者(プラットフォーマー)もいろいろと信頼性確保の仕組みを工夫していますが、サービスの中身によって、そうした取組で足りる場合もあれば、何らかの公的な規制が必要な場合もあるでしょう」
シェアリングエコノミーの発展に期待していますか。
「シェアリングエコノミーの展開は、まだ始まったばかりではないでしょうか。社会全体として、利用が広がっていくでしょう。行政の基本的な立場は、その広がりを邪魔しないということ、利用者の安全安心の確保など健全な発展のための環境をつくっていくことだと思います。もし不要な規制があるなら、見直していかないといけません。逆に新たな規制が求められるかも知れません。どんなサービスのアイデアが出てくるか分からないので、しっかり見ていくことが必要です」
プロフィール
ふじた・こうぞう 1959年大分県生まれ。82年運輸省入省。国交省大臣官房政策評価審議官(兼)大臣官房秘書室長、総合政策局公共交通政策部長、大臣官房総括審議官、鉄道局長、総合政策局長、官房長などを経て2018年7月より現職。趣味はジャズ鑑賞で中学生時代から。