トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.49

日本を支える豊かな大地!共に北海道の未来を創る!

雄大な自然に絶品グルメと、国内外のツーリストから高い人気を誇る北海道。観光立国・日本を牽引する存在といえますが、北海道の日本での役割はこれだけにとどまりません。たとえば、食料の安定的な供給を確保する食料安全保障、2050年を目標としたカーボンニュートラルなど、実現のカギは北海道にあるのです!北海道の資源や特性を活かして我が国の課題解決を図るため、国は1951年から「北海道総合開発計画」を策定し、さまざまな取組を進めてきました。令和6年度から新たに「第9期北海道総合開発計画」がスタートします。豊かな資源に恵まれた北海道が、私たちの暮らしにどう関わっているのか、この機会にぜひチェックしてみてください。

Angle C

前編

食、観光、脱炭素化。北海道から見えてくる日本の未来

公開日:2024/3/25

国土交通省 北海道局

参事官付

川岸 秀敏、櫻庭 悠輔、早川 弘華

日本の国土の約5分の1を占める北海道は、美しい自然、豊富な資源など、観光からビジネスまで幅広い魅力を備えています。そうした北海道の真価を活かした発展を目指し、国は1951年より「北海道総合開発計画」を策定し、様々な施策を展開しています。この計画は北海道のみならず、日本が直面する様々な課題解決にも欠かせないものです。2024年度からスタートする「第9期北海道総合開発計画」の策定に携わった国土交通省北海道局の川岸秀敏企画専門官、櫻庭悠輔主査、早川弘華さんに「北海道総合開発計画」について話をうかがいました。

<写真向かって左から>
参事官付 企画専門官 川岸 秀敏
参事官付 早川 弘華
参事官付 主査 櫻庭 悠輔

実は、今回のトリ・アングルINTERVIEWで初めて「北海道総合開発計画」というものがあることを知りました。

川岸:私自身も、入省するまでこの計画があること自体知りませんでした(笑)。策定に携わり、「しっかりした内容を盛り込んでいる」という自負があるだけに、まずは読者の皆さんに存在を知っていただくことが大事だと感じています。

川岸:そもそも「北海道総合開発計画」は、「北海道開発法(※)」という法律に基づき、戦後経済の復興及び人口問題の解決に寄与する北海道の産業振興施策について国が策定したものです。北海道開発法が制定されたのが1950年で、翌1951年に第1期となる北海道総合開発計画が策定されました。
 当時の日本は1945年に太平洋戦争が終結したばかりで、著しい混乱状態にありました。戦前に比べて工業や農業の生産が大きく落ち込む一方で、海外から戻った復員兵、引揚者は戦後の2年間で600万人以上。工業製品、農産物の供給能力の極端な低下と戦後の復興需要との巨大なギャップは、1945年から1949年までの4年間で約70倍という激しい物価高を招くなど、日本経済は危機的な状況でした。そうした中、広大な開発適地、石炭や水力といった豊富な資源を持つ北海道の開発は、日本経済の復興、国民生活の安定に欠かせないという考えから、この計画は生まれました。
 ※北海道における資源の総合的な開発に関する基本的事項を規定することを目的とする法律。

当初から、北海道だけでなく、日本の経済発展や課題の解決に寄与することを目的とした計画だったわけですね。

川岸:はい、そうです。札幌市の道立北海道博物館に展示されている北海道総合開発計画第1期の宣伝ポスターには、「(道民)430万人の協力で、日本経済の復興と自立のために豊かな北海道を!」という力強いメッセージとあわせて、「道民の所得を増し 生活や文化の程度を高め 郷土北海道を真に楽しく 住みやすいところにしよう」と書かれています。日本全体の発展と道民の豊かさとが密接に結びついた北海道開発への想いは、当時も今も変わらないと思います。

出典:道立北海道博物館所蔵「北海道総合開発計画第1期第1次5か年の宣伝ポスター」 https://www.hm.pref.hokkaido.lg.jp/post/document/theme-04/detail6946/

当時のポスターには計画のテーマも書かれていますが、食料生産、資源開発、エネルギー、交通の整備と、今の日本が直面している課題と非常にリンクしていますね。

川岸:昔も今も日本の課題解決には北海道が持つ様々な資源・特性の活用が必要不可欠なのだといえます。北海道は日本の国土面積のうち約5分の1を占める広さで、豊富な資源、国内トップクラスの食料供給力、多様な観光資源を兼ね備えています。

早川:例えば、日本の食料自給率は先進国の中で最低水準(カロリーベースで38%(2022年)(※))で、現在の不安定な国際情勢などから、以前にも増して食料安全保障上の大きな課題となっています。北海道は「美味しい食の宝庫」というイメージをお持ちだと思いますが、生産量も非常に多く、小麦、大豆、じゃがいも、玉ねぎ、生乳といった農畜産物、ホタテ、サケ、コンブのような水産物などは、北海道が生産量日本一です。日本の食料の約4分の1を生産(カロリーベース)する食料供給基地として、食料の安定供給に大きく貢献しています。
 ただ、小麦や大豆、トウモロコシなどの穀物や飼料は大部分を輸入に頼っていますから、北海道を中心に国内生産をさらに強化する必要性を感じています。
 ※カロリーベースの食料自給率(国民1人あたりの1日の摂取カロリーのうち、国産品が占める割合を計算したもの)/農林水産省『令和4年度食料自給率について』より

川岸:食料生産では、増産と同時に品質向上とブランディングなどにより付加価値を高め、生産者が豊かになる施策も重要だと考えています。

2024年度からは、新たな「北海道総合開発計画」が始まるそうですね。

川岸:はい。「第9期北海道総合開発計画」が2023年度に策定され、2024年度からスタートいたします。
 実は、第8期計画がもう数年続く予定だったのですが、近年、新型コロナウイルス感染症やロシアのウクライナ侵略など世界中で過去に経験したことがないような出来事が起こり、日本も大きな変化や危機に直面することになりました。これらの課題は、北海道が持つ資源・特性の活用なしには解決できないとの考えから、臨機応変に時期を逃すことなく、新たな計画を策定することが決まりました。

日本が直面している危機や変化について具体的に教えてください。

川岸:まず、2020年から感染が拡大した新型コロナウイルス感染症です。国内総生産の落ち込みのほか、それまで増加傾向にあった海外からの旅行者も激減し、日本経済にとって大きなダメージとなりました。
 さらに2022年2月、世界有数の穀物生産国であるウクライナをロシアが侵略したことで、食料安全保障の問題がクローズアップされました。世界中で小麦など穀物の供給が滞って価格高騰を招き、日本が輸入する穀物価格も急上昇したのは記憶に新しいと思います。穀物・飼料の輸入依存度の高さと、2022年からの円安が相まって国民の生活と経済は大きな影響を受けました。
 加えて、脱炭素社会へと向かう世界的な流れです。2020年、当時の菅内閣総理大臣が所信表明で「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言し、温室効果ガス排出量の削減目標が明示されました。

それらの課題に対して、北海道はどのような役割を果たすのでしょう。

川岸:コロナ禍を経たインバウンド需要の回復に対しては、観光面での魅力の高さ、食料安全保障に対しては高い食料生産能力で貢献できると考え、第9期計画でも一層の強化を目指しています。

櫻庭:2050年のカーボンニュートラルの実現においても、北海道は大きな役割を果たせると考えています。都道府県別の再生可能エネルギー導入ポテンシャル(※1)でみると、陸上風力発電、洋上風力発電(※2)、太陽光発電等で北海道が全国1位となっており、特に、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた切り札と期待される洋上風力発電については、日本海側を中心に適地が数多く存在しており、2040 年の全国導入目標の約3分の1を北海道が担うことが想定されています。
 北海道総合開発計画でも、第8期計画までは「食」と「観光」を大きな柱としていましたが、第9期計画からはそれらに加えた3つ目の柱として「脱炭素化」を掲げています。
 ※1 賦存量ふぞんりょう(ある資源について、面積などから理論的に導き出された存在量)からエネルギーの採取・利用に関する種々の制約要因を考慮した実現可能性の高いエネルギー資源量。
 ※2 風車による発電を海の上で行うこと。

日本にとって非常に重要な計画だということがわかりました。策定にあたり、道民の意見はどのように取り入れられたのでしょうか。

川岸:計画の策定にあたっては、北海道経済連合会の真弓明彦会長、ホクレン農業協同組合連合会の篠原末治代表理事会長、北海道大学の長谷山美紀副学長をはじめ、様々な立場の方々に参画いただきました。
 加えて、現地の声をきめ細かく反映するために、北海道開発局の出先機関である各開発建設部において、道内すべての市町村の首長に話をうかがいました。並行して、各地域の経済団体、NPOなど約80団体とも意見交換を行っています。
 こうしたヒアリングを計画立案の始めと中間期で実施したほか、2023年10月から11月まで一般の方からのパブリックコメントも募集しました。多くの意見が寄せられ、「こういう視点もあったのか」と新たな気づきを得ることができました。このプロセスを通じて、一般の方から私たち北海道局まで、「北海道のこれからの計画を皆で作っていく」という一体感が育まれたと思っています。

皆さんは北海道ご出身だとか。北海道の「これから」や強みについてどのようにお考えですか。

櫻庭:私は札幌市出身です。北海道は広大な土地と地理的優位性を活かした産業施策を打ち出せることが大きな強みだと考えています。例えば、太平洋側にある大樹町たいきちょうは晴天日が多いことに加え、東と南が海に面しているため障害物がなく、ロケット発射の適地として宇宙関連の企業が進出してきています。2021年からは宇宙産業の機運醸成・他分野との繋がりの促進、商談機会の創出等を目的とした「北海道宇宙サミット」も開催され、日本の宇宙政策、宇宙輸送の動向、宇宙港へのニーズ、宇宙利用等幅広いテーマで議論が行われています。2023年のサミットには私も参加させていただきましたが、会場は1,000人を超える参加者が集まり活発な議論・商談が行われ大いに盛り上がっていました。ロケット開発の話や気球で宇宙旅行の実現を目指す企業の話など最新の取組を聞くことができとてもワクワクしましたし、参加者の宇宙に対する情熱を肌で感じました。
 宇宙産業の市場規模は今後急速に伸びていくと予測されており、無限の可能性を秘めています。その適地が北海道にあることは大きな魅力です。道内の大学と企業が協力して衛星を積んだロケットを飛ばし、衛星から得たデータを地域のスマート農業に活用するなど、地域振興につなげられたらと考えています。

川岸:私は、その大樹町に近い幕別町まくべつちょう出身です。北海道の強みといえば「食」と「観光」が有名で、北海道以外の方と話すと、「北海道は食べ物がおいしいよね」「観るところがたくさんあるよね」と言われることが多いです。私は学生時代にアイスホッケーをやっていたのですが、いろいろなウインタースポーツを楽しめるのも魅力です。春・夏・秋・冬と四季の移り変わりをはっきり感じられる気候も、北海道の良さだと思います。

早川:札幌市出身の私も同意見で、やはり「食」は北海道の大きな強みだと思います。ずっと道内で育ったせいか、あまり意識していなかったのですが、大学進学以降、道外出身者と話す機会が増えると、誰もが口をそろえて「北海道の食べ物は何でもおいしい」「お肉もお魚もホントにハズレがない」と言ってくれます。おかげで、改めて北海道の「食」の魅力に気づくことができました。日本の「おいしい」を支える北海道の未来を創るべく、第9期計画に掲げた施策を着実に推進していきたいです。

※北海道総合開発計画 https://www.mlit.go.jp/hkb/hkb_tk7_000059.html
※「北海道局」は国土交通省の内部部局の1つであり、日本の発展に貢献する北海道総合開発計画の企画・立案・推進、北方領土隣接地域の振興等及びアイヌの伝統・文化に関する知識の普及・啓発等を担っている。「北海道開発局」は国土交通省の地方支分部局の1つであり、北海道における河川、道路、港湾、空港、農業基盤、漁港といった国の基幹的な社会資本の整備・管理などを行っている。

※後編は3月29日(金)配信予定

(向かって左から)
かわぎし・ひでとし 1970年生まれ。北海道幕別町出身。1991年に北海道開発局に入局し、河川に関わる事業の計画や維持管理などに従事。2022年から現職。北海道総合開発計画の企画・立案、推進に関する業務を行っている。
はやかわ・ひろか 1995年生まれ。北海道札幌市出身。2018年に北海道開発局に入局し、契約事務や地域振興対策業務などに従事。2021年から現職。北海道総合開発計画に基づく食関連施策に関する事務や北方領土隣接地域の安定振興に関する業務を行っている。
さくらば・ゆうすけ 1982年生まれ。北海道札幌市出身。2004年に北海道開発局に入局し、予算管理等のデスクワークから現場監督等のフィールドワークまで多種多様な業務に従事。2022年から現職。北海道総合開発計画に基づく産業・環境・エネルギー関連施策に関する業務や苫小牧東部地域の開発に関するプロジェクトを行っている。
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