トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.12

進む、港湾革命。日本躍進の切り札となるか

AI、IoT、自働化技術を組み合わせた世界最高水準の生産性と良好な労働環境を有する世界初となる「AIターミナル」の実現に向けた取り組みを進めるなど、日本の港湾は世界の最先端を目指している。また、今後も更なる需要が見込まれる物流の分野においても、国際的な競争が激化しており、港湾が大きく変わりつつある。島国ニッポンにおいて、「港湾革命」が国際競争力強化のための切り札となるのか、今後の展望を探る。

Angle C

前編

ITで引き出す「港のポテンシャル」

公開日:2019/11/26

慶應義塾大学

環境情報学部教授

神成 淳司

前回登場の甲斐督英氏は、船会社としての立場から港湾の手続き効率化を大いに期待していると述べた。日本の港湾では、港湾手続きの電子化を進めるとともに、IT(情報技術)を用いてその長所を伸ばし、生産性向上を進める計画が動き出している。ITを使った港湾のスマート化・強靱(きょうじん)化は、国が打ち出した中長期政策「PORT2030」でも、柱の一つに位置づけられている。内閣官房副政府CIOという要職にあり、本年6月に策定された政府の「AI戦略2019」にも携わった慶應義塾大学の神成淳司教授に話を聞いた。

港湾とITの結びつきを教えてください。

 港湾での業務のさらなる生産性向上や、課題の解決を図るために、ITを積極的に採り入れる必要があると考えています。日本の港湾は高い潜在能力をもっており、さらなる発展を遂げる事が期待されます。日々進歩しているITを、港湾での物流や、港湾の維持管理等に適切に利活用することで、その潜在能力を引き出していくことができると考えています。

国では「サイバーポート構想」を掲げています。

 日本の輸出入貨物の99%以上(重量ベース)が港湾を経由していますが、輸出入業務を進める上では、様々な関係者間での事務手続きが必要です。その手続きの仕方は港によって、少しずつ異なっています。基本的な手続きは同じはずなのですが、地域ごとの特性や積み荷の種類、港湾の構造などの違いにより、それぞれの港が独自の方法を発展させてきました。 
 これは、個々の現場の智慧(ちえ)という意味で非常に重要な取り組みであったわけですが、結果として、手続き書類が港ごと、事業者ごとに異なってしまっています。
 この現場の智慧を活かしつつ、相手ごとに手続きが異なることによる事業者側の書類作成や申請の手間の抑制が出来ないだろうか。このように、今まで培われてきた智慧を如何に活かすかが重要です。各港の特性の違いを無視して、画一的に標準化してしまうと、手続きの誤りや遅延などのトラブルが起きてしまいますし、それぞれの港湾で蓄積されたノウハウが無駄になってしまいます。
 このため、「サイバーポート構想」では、すべての港に画一的な「標準化」を適用することは考えておりません。
 具体的には、現在、新たに構築を進めている「港湾関連データ連携基盤(プラットフォーム)」においては、個々の港湾関係者は、自社システムを変更するのではなく、データ変換のためにこのプラットフォームと自社システムをネットワーク経由で接続します。港湾関係者の作業は、プラットフォーム接続後も基本的には同じです。自社システムで普段慣れ親しんだ項目への情報を入力すると、その入力した情報が、必要な時に、必要な形で、その入力内容が先方のシステムへとデータが渡される形式へと変換します。入力する側が、相手先の書式に合わせる必要はないのです。

【港湾関連データ連携基盤のイメージ】

国土交通省資料

港湾関係者が一つのプラットフォームを介してつながるわけですね。

 そうです。港湾関係者がそれぞれプラットフォームに接続し、情報をプラットフォーム経由で連携させることになります。この連携は、プラットフォーム経由で実施されますので、連携先が増えようとも、接続先を増やす必要はありません。プラットフォームと接続するだけで、関係する多様な組織との連携が実現されるのです。
このように、ゼロベースで新たなシステムを構築する方式ではなく、既存のノウハウや資産を活かしながら付加価値を生むための基盤作りを進めていければと考え、そのために最も有効な手段として、プラットフォームの構築を進めています。
 日本の物流はさらに発展する素地を持っています。繰り返しになりますが、私たちが重視しているのは、既存の仕組みやノウハウを活かすことです。そして、効果的に活かすためには、どんどん現場に入り込んで、その現場の特性を踏まえたシステム設計が不可欠です。IT分野の技術者が現場を知らずに仕様書を見て開発をするのではなく、これからは現場を理解している人が設計から実装まで行う事が必要で、私自身も港湾を訪問し、お話を伺ってきました。
 なお、このようなその分野の基盤となるプラットフォームは、既に農業分野において取り組みが進められ、今年春には、本格稼働が開始されています(※)。この取り組みの経験を活かすことで、港湾プラットフォームの構築を迅速かつ効果的に進めていければと考えています。
(※)農業データ連携基盤(WAGRI)

港湾の競争力はどこで決まるのでしょうか。

 貨物の迅速な積み込み・積み下ろしの重要性に着目しています。これが港の競争力の源泉ではないでしょうか。そしてこの競争力の源泉を生み出すのは、港湾で働く熟練技術者の方々の存在です。諸外国の港では、レールの上を横に移動しながら、岸壁にある大きなコンテナを素早く船の中に積み下ろしする「ガントリークレーン」の自動化に取り組んでいますが、我が国の熟練技術者と比較して圧倒的に非効率です。我々はこれら熟練技術者の可能性に、今以上に着目し、今後の競争力の源泉として位置づけ、持続的な展開に何が必要かを検討すべきなのです。具体的には、このような熟練技術者の知見を、如何に着実かつ迅速に次の世代に受け継ぐ事を最初に考えなければいけないでしょう。また、一連の作業の中には、熟練技術者でなくてもできる業務もあります。その部分をAI(人工知能)が代替することで、熟練技術者は、その卓越した知見を活かす業務に集中して作業するための環境作りも必要です。このような、ヒトとAIとの協調関係を作り出すことで、個々の技術者の作業負荷の軽減と生産性向上の両立が見こまれます。ITやAI導入がヒトを不要にするというのは港湾分野においては全く間違ったやり方です。港湾の競争力を高めるためには、ヒトを中心とした取り組みが重要なのです。
※後編は11月29日(金)に公開予定です。

しんじょう あつし 慶應義塾大学環境情報学部教授。内閣官房 副政府CIO / 情報通信技術(IT)総合戦略室長代理。医療ICT、マイナンバー、情報セキュリティー、地方創生を始めとした政府横断的な様々な情報政策の立案と推進に関与。専門は、情報科学(産業応用、知識情報科学)、農業情報科学、サービスサイエンス、情報政策。著書に「AI農業(日経BP 2017)」、「計算不可能性を設計する(共著、Wayts 2007)」ほか。
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