トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.15

狙うは、ナイトタイムエコノミー!

夜の時間帯に観劇、観光などのレジャーを楽しむ「ナイトタイムエコノミー」。訪日外国人客の増加が続く中、「日本の街には、夜間遅くまで楽しめる場所がない」という声が聞かれるようになった。受け入れ側の日本でも、夜を楽しもうとする観光客を受け入れれば、更に消費は拡大するのでは、との狙いから、経済政策としても注目されるようになっている。これまで規制一辺倒だった夜の街に、「楽しんで遊んでもらえるように」という発想が生まれ、新風が吹き始めている。

Angle B

後編

「今ある資産」フルに活用する発想を

公開日:2020/2/25

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マネジャー

堀 景

大分県別府市は、海も山もあるが農林水産業に従事する就業者の割合は少なく、観光産業などに従事する就業者の割合が高いのが特徴だ。それゆえ、観光業の停滞は地域の停滞に直結する。地方都市におけるナイトタイムエコノミーは地域経済の活性化にとって一つの好機となるのか。また、課題や取り組みの難しさとは何だろうか。

別府市でのナイトタイムエコノミーは、宿泊客向けなのでしょうか。

 もちろん、近隣の日帰り客が楽しんでくれても歓迎です。ただ、別府市内には300の旅館・ホテルがあります。週末は稼働率が9割を超えるんですが、平日の稼働率は相当下がります。そこで平日にインバウンド(外国人旅行客)が訪れてくれることを期待したいところですが、いずれにしても宿泊し、滞在時間を延ばして楽しんでもらうため、ナイトタイムエコノミーは有意義だと考えています。
 別府市は観光地ですので、市民の方々も市外からの来訪者を迎えることに慣れています。他の都市では、旅行客が街中を歩き回り、住民とのトラブルもあるようですが、ここでは寛容です。20年前に、国際留学生の比率が高い立命館大学アジア太平洋大学(APU)も進出してきましたが、今では留学生が街中でアルバイトをしている姿も日常的になっています。

別府に訪れる人を増やすためにどのようなナイトタイムエコノミーを考えていますか。

 今年も日程は未定ですが、夏ごろにライトアップ企画を開催しようと思っています。本来は年中行事としてできたらいいのですが、昨年が初めての試みだったということもあり、2か月余りの開催期間とするのが精いっぱいで、人繰りも大変でした。また、週末に来場者が集中するという問題もありました。
 別府市といえば、温泉の町というイメージがあります。私たちにとっては温泉に入ることに何の違和感がなくても、外国人にとっては裸になって温泉に入るというのは、相当の抵抗があるんです。だから「地獄」のような「見る温泉」というのは、インバウンドを呼び込むために重要なコンテンツなんです。徐々にインバウンドへ認知されていけば良いのですが。
 また、別府市は海岸線に沿ってホテルや旅館が立ち並んでいますが、東に向かって海が開けているんです。海から満月が昇って来ます。晴れていれば、海面に月の明かりがまっすぐ伸びてくる絶景が楽しめます。昔から夜の景色を観光資源につなげようと、宿泊施設も知恵を絞ってきたんです。さらに別府市は扇状地になっており、海岸線から離れた山の手の方でも海が見える地形なので、多少海岸から離れても海の景色が楽しめます。

【夜のライトアップでは、湯煙に鬼の姿が浮き出る映像技術も導入され、温泉地の実験的な取り組みとして評判となった】

一般社団法人B-biz LINK提供

地方都市ならではの取り組みの難しさはありますか。

 やはり、東京のような大都市圏を近くに抱えていないのは大きな違いです。別府市の人口は12万にも満たないので、広域から人を呼び込む必要があります。東京を控える神奈川県箱根町と福岡を控える別府市とでは、おのずと規模も戦略も違うわけです。
 国内で、全国的な人口減少問題に直面している以上、インバウンドという新風は大事にしていかないとなりません。最近では、別府市の価値を再評価していただけるようになり、ANAインターコンチネンタルホテルや、星野リゾート、大江戸温泉物語などが進出してくるなど、新しい資本も入ってきています。その一方で、部分的には昔ながらの温泉地を思わせるような遊興施設もあり、新旧の観光地が混在しているのが現在の別府市です。温泉は市民生活にも根ざしていて、1回100円で入浴できる温泉場も多くあります。ひなびた場所でも観光客が集まり、地域活性化のためになるのであれば、私たちは支援していきたいと思います。何もかも新しく作り替えるという発想ではなく、今ある資産をどうやって生かせるかという考えを基盤にしていきたいと考えています。

当面は期間限定でナイトタイムエコノミーに取り組むのでしょうか。

 「地獄の夜祭」についてはそうですが、各事業者の方では、それぞれ単独で努力されているようです。ロープウェーや水族館、サファリパークなどでは営業時間を夜間にも設定していますが、横同士の連携はありませんので、今後は、来場者に楽しんでもらえるようにそれらを情報ツールとしてまとめて夜の別府市を動き回れるようなコースになっていけばいいなとも思っています。
 ただ、ナイトタイムエコノミーに依存して地元経済を発展させようという過度な期待はしていません。それ以外にもすべきことはたくさんあります。例えば、要所にある観光案内所では、旅行客としっかりコミュニケーションを取るようにしています。つまり来場者に、簡潔に観光情報を提供するのではなく、ソファに座って膝をつき合わせて会話するのです。別の言い方をするなら「おせっかい」をするわけです。「そこに行くなら、ココにも寄った方がいいよ」「地元の人気スポットはここだよ」「このパン屋は今人気が高いよ」と、地元民らしい案内をするわけです。そうするとどうなるか。旅行客も興味を持ってその場所に立ち寄ってくれ、目的地以外にも消費が広がるわけです。その場所で楽しんでいただけるとその案内所に喜びを伝えるために戻ってきてくれることもあります。「あそこ良かったよ」「他にもないの?」という具合です。そういう形で地元が旅行客に深くかかわっていく、プッシュ型の観光案内所「ワンダーコンパス・ベップ」を昨年4月に開所しました。
 また別府市には100円で入れる温泉がありますが、そうした気軽さだけに頼らず、この日本有数の温泉地のブランド価値を高めることも重要です。火山や海底プレートなどの動きから奇跡的に7種類の泉質の温泉がこの狭い地に形成されたということも、プロモーションしていきたいと思っています。 

取り組む課題は多いですね。

 別府市は宿泊施設を数多く抱えていますので、夜の消費を増やしていくためにもナイトタイムエコノミーに取り組むということは必然です。しかし、各地方によって条件は異なります。地方をひとまとめにせずに、与えられた条件や環境を見極め、俯瞰的な視点で何ができるかということを考える必要があると思います。だから、どこかの事例のマネをするということよりも、この地で何ができるかということに気を配って事業に取り組んでいます。多くの資金を投入したイベントでも、長続きしないという事例も少なくないでしょう。目の前にある資産を生かした、等身大の事業こそが、長続きする事業だと考えています。(了)

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