トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.9

天気予報は「ニッポンの未来予報」!

誰もが気にする天気予報。今、天気予報に熱い視線が注がれている。観測技術の発達や人工知能(AI)、データ分析技術の進化とともに、天気予報をはじめとする気象データの利用が広がる。産業の3分の1が天候に左右されるといわれ、気象データは、幅広い業種に新たな価値を生み出す可能性を持つ。気象データの活用などに向けて気象庁は、気象ビジネス推進コンソーシアムを立ち上げた。気象データからどんな未来が開けるのか。ニッポンの天気の最前線を追う。

Angle B

前編

気象+AIは「ビジネス未来予報」

公開日:2019/8/13

株式会社ルグラン

代表取締役共同CEO

泉 浩人

全産業の3分の1が天候の影響を受けるとされ、ここ数年、気象情報をビジネスに生かす取り組みが進む。気象データとAIを活用し、さまざまな業種に対してマーケティングのコンサルティング事業を展開する株式会社ルグラン代表取締役共同CEOの泉浩人氏に、気象データをビジネスに生かす意義を聞く。

気象データはどのようにビジネスに活用できますか。

 小売業界では、「雨が降るとお客さんが来なくなる」という話をよく聞きます。こうした場合、具体的な降水量の推移に着目します。例えば、百貨店でみると、「営業時間中の累積の降水量が一定量を超えるとお客さんが減る」ということが分かってきました。また来店客数の増減の境目となる降水量は、休日の方が多いという特徴がありました。休日の場合は「事前に行くと決めているから行く」という人が多いと考えることができます。
 来店客数の予測モデルを考える際には、平日と休日を分けたり、その前後の天気の影響も考慮したりします。「久しぶりの晴れ間効果」というものです。同じ「晴れ」でも、「3日ぶりの晴れ」と、その前に連続して晴れていた場合では、心理面への影響が違います。こうしてさまざまな事象をデータにきっちりと反映させていくと、より精緻な予測モデルを構築できると思います。

世界に広がる気象データをビジネスに活用する動きとは。

 気象データAIやIoTといった最新技術との親和性が高く、欧米を中心にビジネスと科学的に組み合わせる動きが活発になっています。
 日本は災害が多く、防災の分野では使われているけれども、ビジネスやマーケティングの観点からみると、気象データはまだ十分に使われていないという印象がありました。近年、気象庁気象情報のオープンデータ化を進めていることで、ビジネスチャンスが広がっています。
 数年前、ヨーロッパでは、屋外広告のサイネージをネットワークでつないで天候データを取り込み、その日の天候に合った服装を提案するというアパレル広告の事例がありました。海外の先進事例と比べて、現在の日本は3年から4年ほど、遅れていると感じています。ただ、日本の現在の技術レベルであれば、十分に世界の先進事例の実現は可能です。

気象データのビジネス利用がもたらすものとは。

 食品などについては、気温などその日の天候に合わせた商品をおすすめするサービスが可能になります。書籍では「気温が高くなるとみんながミステリーを読みたくなる」といったデータが分かったとしたら面白くなりますね。日本の場合は湿度が高く、湿度についてのデータも組み合わせると、面白いデータやビジネスが生まれてくるでしょう。「何となく」という気分の変化と湿度の関係を測ることもできるようになります。
 損害保険の分野では、気象条件と過去の事故の発生時の場所や時間などのデータを掛け合わせると新たなビジネスの可能性を見いだすことができます。
 こうしたデータを利用することで、その日の気象予測をもとに、事故が起きた時に対応するロードサービスの出動要請の状況を事前に予測することができます。事故が発生しやすい場所に待機する要員を増やすなど、経営の効率化にもつなげることができるのです。
 また、個々の利用者向けには、その人の過去の運転状況や事故履歴と気象データを掛け合わせることで、事故を起こしやすい場面を詳細に把握できるようになります。こうしたデータを活用して事故が起きやすくなる状況を伝える「ドライブ注意報」のようなシステムを構築できるようになるかもしれません。気象データのビジネス利用は、社会的にもニーズの高いサービスにつながります。

今後、ビジネス分野で期待される気象データとは。

 予測の精度の問題はありますが、ビジネス分野でのニーズとしては、3か月、4か月、6か月、1年単位での気象予報が分かると、新たなビジネスの可能性が生まれてくると考えています。
 より長期間単位での気象予報に関する情報が提供されることで、企業が気象データを中長期的な経営戦略に取り込みやすくなります。予測精度の面でのリスクも踏まえて公開することで、データの利用方法についてより具体的なイメージが持てるようになり、経営に与えるインパクトも大きくなると思います。
※後編は8月15日(木)に公開予定です。

【気象庁が発表する2週間気温予報】

2019年6月19日から「2週間気温予報」の提供を開始。今後もさまざまな気象データの提供が期待されている。
いずみ・ひろと 慶應義塾大学経済学部卒、米国ジョージタウン大学MBA修了。三井銀行(当時)、フォード自動車等を経て、オーバーチュア(現ヤフー)の日本進出に参画。2006年にルグランを設立。デジタルマーケティング戦略に関するコンサルティングサービスを提供する傍ら、アドテック東京やCNET等のイベントでも講演。ビッグデータを活用したAKB48選抜総選挙予測が注目を浴び、2014年日本広告学会クリエイティブフォーラムで最優秀賞を受賞。
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