トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.35-1

ワーケーション&ブレジャーで発見!私のワークスタイル

働き方改革や新しい生活様式に対応した、柔軟な働き方として注目される「ワーケーション&ブレジャー」。新たな旅のスタイルとしても、地方創生の一助としても、普及への期待が高まっています。オフィスを離れ、旅先で働くことで得られるものとは。実践者たちの声を通して、働き方や旅との付き合い方のヒントを探ります。

Angle A

後編

地域で働くことは地域とつながること

公開日:2022/6/14

メディアアーティスト

市原 えつこ

旅先で仕事もしながら余暇も過ごすワーケーションは、地域との交流や社会課題の解決といった効果も期待されています。移動をして未知なるものと出会うことを作品制作の原動力としてきたメディアアーティストの市原えつこさんは、三重県伊勢市や宮城県亘理町でも滞在や創作活動に取り組まれています。現地での活動や地域の人々との交流を通じて、どのような成果が生まれたかについてお聞きしました。

市原さんは現在、東京と宮城を拠点にされているとお聞きしました。

 宮城県亘理町には太平洋に面した荒浜地区という漁師町があるのですが、2011年の東日本大震災による津波で壊滅的な被害を受けました。民家がなくなってしまった広大な土地には大きな公園が作られたのですが、そこに「WATARI TRIPLE(C)PROJECT」という企画で新たに複合的な文化施設をつくる試みが現在行われ、アーティストやサーファー、ミュージシャン、スケーターなど、30人ほどの若い世代のプロが参加して、新たな文化を創っていく活動をしています。私は2021年6月に誘っていただいて、東日本大震災の当時になにもできなかったことや、自分が東京だけに閉じこもっているとインスピレーションが湧かないタイプだという理由もあり、参加してみることを決めました。

亘理町ではどのような活動をしているのですか?

 町のために作品や活動を何かひとつ作ることが参加条件なので、私は今、作品制作に向けたリサーチに取り掛かっています。最近では、町立の郷土資料館の方から誘っていただき、アーティストたちが作品を展示しました。これまでの作品を展示し、このプロジェクトでの作品の構想を発表したのですが、東北のテレビや新聞などメディアで数多く報道され、現地では大きな話題となったのではないかと思います。

伊勢市でのワーケーションにも参加されたようですね。

 2020年の秋に三重県の伊勢市が実施した「伊勢市クリエイターズ・ワーケーション」に参加しました。文化・芸術分野のプロのクリエイター130人が参加し、伊勢市内に宿泊滞在して創作活動に取り組むプロジェクトです。

それはどのような取り組みだったのでしょうか?

 私が特徴的だと感じたのは、参加するクリエイターに「成果を求めない」ということです。もともとアーティストは、新しい視点でまちの魅力を切り取ったり、それを形にして発信することが得意です。成果を求められないと、逆に「こんな好条件で呼んでもらったのだからこそ恩返しをしよう」と性善説的な発想が生まれ、自発的にまちのことを調べて、どんどん発信することにつながっていきました。
 私の場合、伊勢市のプログラムの素晴らしさに気づき、伊勢市役所の担当者の方のインタビューをすることを思いついて、新聞社の編集者に連絡し、取材を決行しました。何かに感動して、その場で発想して、行動する。だからこそ、記事が実現し、伊勢市の取り組みを広める発信ができたのだと思います。
 自治体が招致するワーケーションでは、成果を義務でガチガチに固めるよりも、参加者が自由にできる余地をつくることが大切だと思います。その方が、創造的でさまざまな可能性が生まれると感じました。

ワーケーションを通じて、市原さんご自身が得られることは何でしょうか?

 広くて濃い人のご縁ですね。伊勢市のワーケーションでは、募集されたクリエイターのジャンルが幅広く、能楽師や漫画家、音楽家、演出家、写真家など本当にさまざまでした。普段は絶対に知り合えない人たちが、「伊勢が好き」というモチベーションで集まってきた―それだけで圧倒的な共通項があります。漫画家の今日マチ子さん、イラストレーターの松尾たいこさんなど、自分が学生の頃から大好きだったクリエイターの方々とも、このワーケーションを通じてご縁をいただきました。土地を介することから生まれる濃いご縁があるのだと思いました。

地元の方々とはいかがでしょうか?

 伊勢市に滞在していた間もその後も、とにかく情報発信をしていました。情報発信をすると、伊勢の方々に感謝してもらえてご縁が深まり、それがモチベーションとなり、また情報を発信する。お互いが恩を与え合うような関係が生まれました。まさに恩返しの応酬です。ただ旅で訪れるよりも、地域に対してできることが多いし、感謝されることも多い。普通の旅とは体験の濃さがまったく違いますね

これからも旅をし、地方に滞在して、活動を続けられていきますか?

 2020年は東京を出ませんでしたが、2021年からはその反動で、出かける機会が増えました。移動を制限されたことで、自分にとって移動がいかに重要かを実感しました。これからもきっと移動にドライブをかけていくことでしょう。そして、移動するだけでなく、その土地と関わりを持つということも、今後やっていくと思います。

最後に読者へのメッセージをお願いします。

 自分が普段、仕事で培ってきたスキルを使って、滞在している地域のために何ができるかを考えることはとても刺激になります。自分がいる業界では当たり前だと思っていることも、地域の人々にとっては新鮮に映ることがあり、それがやりがいにつながります。亘理町の郷土資料館での展示では「都市のナマハゲ」を展示したのですが、地元の方々から「こんなものは見たことない!」という嬉しい反応をいただきました。 今、東京にさまざまなリソースが集中しすぎて、もったいないと感じています。地方に行くといろいろな課題があるし、自分が関われる余地もたくさんあります。東京にいる多彩な知識や技術を持った人々が地方に散らばった方が、日本全体の文化力もアップするように感じています。さまざまな分野で活躍するビジネスパーソンが地方の課題に挑戦できたとしたら、本当に良いことだと思います。

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