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トリ・アングルINTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.24温故知新!先人達が作ったレガシー

公開日:2020/12/24

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[ 後編 ]

今こそ渋沢栄一の理念を学ぶべきとき

國學院大學経済学部教授杉山 里枝

渋沢栄一は、生涯で約500の企業、600の社会事業に力を注いだ。「日本資本主義の父」と呼ばれ、近代日本の経済を作ったといっても過言ではない。彼の唱えた公益と利益の両立は、今日の企業の目指すべき姿勢にも繋がっている。「道徳経済合一」に代表される渋沢の理念は現在にどう活かされるべきなのか。

今、渋沢栄一が脚光を浴びている理由はなんでしょうか。

 以前は、大学生の就職先人気ランキングでは、今よりもはるかに三井、三菱などの旧財閥系の企業に人気が集中している状況でした。有名大学を卒業して旧財閥系企業に入社することがよしとされる、そんな風潮があったと思います。しかし、今はあえて初めからベンチャー企業に就職する学生も見受けられるようになりました。このような大企業や有名企業にとらわれない機運が後押しして、渋沢栄一の生き方が現代に合っていると考えられ、より一層スポットが当たっているのではないでしょうか。

渋沢栄一の提唱した「道徳経済合一」について教えてください。

 渋沢は著書『論語と算盤』にも記されていますが、本気で日本を良くしたいという強い思いがありました。経済をまわして、それが日本を良くすることに繋がっていくと考えていたのです。企業も社会事業も、私利私欲でなく公益を追求する道徳と、利益を求める経済活動は両立させるべきものという理念です。江戸時代の士農工商の考え方では、商売は卑しいとされていましたが、渋沢は儲けることは悪いことではない、儲けたらその先を意識することを説いていました。最も身分の高い「士」と一番低いとされていた「商」の両方が大事だとしたのです。渋沢は事業で利益が上がると別の産業を興し、投資していきます。そこには、日本を良くしたいとの強い願いがあり、私益より公益を優先させたのです。

【1916年(大正5年)に刊行された『論語と算盤』は今なお多くの経営者や起業家に読まれている】

※国立国会図書館提供

 たとえば銀行でいうと、当時の財閥も設立に力を入れていましたが、それらは自らのグループ内企業へ資金提供する役割をも当然担っていました。しかし、渋沢の設立した第一国立銀行は、世の中の産業・企業に対して広く資金提供を行うもので、それにより国全体を豊かにすることを視野に入れていました。さらに、全国各地の国立銀行の創設と経営の支援も行いました。財閥系の銀行とは異なる存在だったのです。

【第一国立銀行が設立された日本橋兜町周辺には、その後、日本で最初の株式取引所(現東京証券取引所)が設立されるなど金融の中心地として発展】

※国立国会図書館提供

現代のビジネスパーソンが渋沢から学べることはありますか。

 『論語と算盤』を読んでみてください。渋沢の生き方が凝縮されています。「論語」が道徳、「算盤」が経済合理性を表しています。論語は道徳と公益、算盤は経済と利益であり、そのどちらも重要であることを伝えています。心に刺さる内容です。今の世の中の問題点を当時から指摘していたかのようです。『論語と算盤』を読むと、現代のCSR(企業の社会的責任)やSDGs(持続可能な開発目標)の考え方を理解する上でのヒントが得られるのではないかと思います。渋沢は、外国のやり方をそのまま模倣して取り入れたのではなく、日本的に変容して取り入れています。そのやり方を知ることは、日本の企業やビジネスパーソンにもきっと役に立つと思います。(了)

編集後記

 和食のユネスコ無形文化遺産登録に尽力した服部栄養専門学校の服部幸應氏は、西洋化が進む日本人の食生活について「日本人にあった食事の見直しが必要」と警鐘を鳴らし、日本の歴史・気候・風土などに裏打ちされた伝統的な和食の意義を強調した。近代洋風建築の頂点ともいえる迎賓館赤坂離宮の魅力について、内閣府迎賓館総務課の藤原敦子さんは「宮殿建築でありながら、彫刻などの装飾には我が国独特の主題が採用され意匠的にも高い価値がある」と説明。國學院大學の杉山里枝教授は「日本資本主義の父」とされる渋沢栄一が、道徳と経済の両方が重要と説いていたことに触れ、「今の世の中の問題点を当時から指摘していたかのよう」と、その慧眼ぶりを指摘する。
 次号のテーマは「鉄道デザインの魅力を訪ねて」。新型コロナウイルスの感染拡大により、鉄道需要は減少しているが、近年は内外装に意匠を尽くした観光列車も相次いで登場、また趣向を凝らしたデザインの駅舎も注目されている。そんな鉄道デザインの“いま”を3人の識者に話をうかがいます。(Grasp編集部)