トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.14

「道」が変わる!新たなチャレンジ

私たちが日常的に使用している「道路」。近年、AIやIoT等の技術革新が進み、道路の建設やその維持管理にもこうした技術が活かされている。近い将来、道路整備がこれまで以上に進み、また、自動運転車や空飛ぶクルマが現実のものとなれば、既存の道路の位置づけも大きく変わることになるだろう。その時、道路空間をどのように活用していくのか。単なる交通インフラにとどまらず、オープンカフェなどコミュニケーションの場所としても、道路は大きな可能性を秘めているのではないか。

Angle B

前編

「道路空間の新しい姿」へ時代が動く

公開日:2020/1/21

「ソトノバ」

編集長

泉山 塁威

山形みらい氏は、日本の道路は魅力的であることを世界へもっと発信すべきであると語った。近年、行政や民間は、これまでの自動車やバスで移動するための道路空間から「人間中心のストリート」という発想で、道路空間の新たな活用方法を検討している。車道の一部を活用したPark(ing)dayやパークレットの設置など様々な社会実験を通じて公共空間の活用方法を探っている「ソトノバ」の編集長、泉山塁威氏に話を聞いた。

ご自身が公共空間の利活用に関わるようになったきっかけを教えてください。

 大学では建築学科に所属して、都市計画を学んでいましたが、修士論文のテーマが「エリアマネジメント」だったこともあり、街や都市計画には関心をもっていました。また、設計事務所勤務後、博士課程に進んだ2012年頃は道路占用許可の特例など公共空間の規制緩和が進み始めた時期でもありましたので、エリアマネジメントを研究する立場として、自然と公共空間への関心を強めていきました。

公共空間活用の背景には何があるでしょうか?

 経済成長が続いていた時代は、商店街や町内会が道路空間を歩行者天国にしてイベントやお祭りをしたりするなどの形で公共空間の利活用を行っていましたが、経済成長期が過ぎると、それまでの公共空間の利活用のあり方について見直す動きが出てきました。
 行政側としても人口減少時代を見据えて、公共空間の維持管理コストを削減したいという考えがあったのだと思いますが、当時は新たな公共空間をマネジメントするためのノウハウが十分ではありませんでした。そこで小泉政権(2001年以降)で、民間主導による都市再生や公民連携という考えのもとに、地域の価値向上を目指して「エリアマネジメント」という住民・事業者・地権者が公共空間の利活用を含む新たな街づくりへ主体的に参加するような制度や仕組みができてきました。

何十年も前から歩行者天国はあります。今の「道路活用」は特に新しい発想ではないように思いますが。

 いいえ、そうは思いません。例えば、1950年頃に都内で始まった週末の歩行者天国は、銀座や新宿などで、自動車車両を通行止めにして車道を歩行者用通行道路として開放しましたが、実はその道路ではほとんど何もできないのです。発想としては、あくまで「通行空間」なんですね。人が使うという点では規制が多く、できることが限られていました。
 現在は、国家戦略特区の認定を受けるなどの特例を得た地区では、公共道路上でのオープンカフェや可動椅子を設置することが認められるケースが出てくるなど規制緩和が進みつつあります。

ご自身が所属されているソトノバの活動内容を教えてください。

 2015年11月に「ソトを居場所に、イイバショに!」というコンセプトのもと活動を始めました。主な活動内容はパブリックスペース(公共空間)特化型のウェブマガジンの運営などです。国内外のストリート活用の取り組みや実践についての関連情報を発信したり、トークイベントを開催したりして、仲間を増やしています。今では、ウェブ上に500以上の事例の記事などを掲載していますし、行政と協力した調査業務や社会実験などのプロジェクトも手がけています。一言でいうと、「パブリックスペースに特化したコミュニティメディア」です。
 最近では、昨年9月に渋谷の宮益坂で「 Park(ing)day 」という道路空間活用ムーブメントを開催しました。この言葉は「Park+ing+day」から構成されているのですが、駐車場としての「Parking」、公園としての「Park」を掛け合わせ、「路上駐車場を小さな公園のようにしよう」という試みです。  
 コンセプトとしては、歩行者に道路空間の新しい使い方を提案し、体感してもらおうというものです。このPark(ing)dayは、毎年9月第3金曜日に世界各地で行われるムーブメントなのですが、私たちの取り組みも2019年で3年目となりました。午後の数時間だけ歩道や駐車場の一部を自由空間とし、道行く人に自由にくつろいでもらうものです。実施に当たっては、警察、自治体、商店街との協議を踏まえて行ったのですが、当日は自治体や不動産企業、コンサルタント会社、国の省庁の人などが視察に訪れるなど、関心の強さを感じました。

【開放された車道の一部を利用してピクニックを楽しむ人たち】

※一般社団法人ソトノバ提供

実証実験を行って、気づいた課題はありますか。

 道路空間の新しい利活用のあり方を模索するために、日本各地で様々な実証実験が行われていますが、実験の予定時間が過ぎたら椅子やテーブルなどは片付けなければならず、設置・撤去の手間や人件費もかかってしまいます。
また、こうした試みは、見た目には実験とイベントとの区別が付きづらいため、私たちは、何のための実験だったのか、こうした実験の結果により、どのようなことが分かったのかをウェブサイトなどで公開し、共有していくことで次につなげていく努力を続けています。これは特に自治体案件では行われないことで、ぜひ取り組んでほしいところです。
 次に、道路使用許可に関する警察への申請手続についてです。こうした実証実験を行うためには、事前に警察との協議が必要ですが、許可を得るための基準が分かりにくく、街によって取り扱いも異なるため、ある程度の基準の明文化をしてもらえるとありがたいです。私たちも日々模索しながら警察との関係を構築し、経験を積み重ねて一歩ずつ進んでいる状況ですが、規制緩和が徐々に進んできているので、これまで路上でできなかったことが、少しずつできるようになってきているのは確かです。
※後編は1月24日(金)に公開予定です。

いずみやま・るい 1984年札幌市生まれ。一般社団法人ソトノバ 共同代表理事・編集長。東京大学先端科学技術研究センター助教・博士(工学)。認定准都市プランナー、都市戦術家、プレイスメイカー。エリアマネジメントやパブリックスペース活用、社会実験やアクティビティ調査、タクティカル・アーバニズム、プレイスメイキングの研究及び実践に関わる。主な著書に、「ストリートデザイン・マネジメント: 公共空間を活用する制度・組織・プロセス」(共著、学芸出版社)など
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