トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.49

日本を支える豊かな大地!共に北海道の未来を創る!

雄大な自然に絶品グルメと、国内外のツーリストから高い人気を誇る北海道。観光立国・日本を牽引する存在といえますが、北海道の日本での役割はこれだけにとどまりません。たとえば、食料の安定的な供給を確保する食料安全保障、2050年を目標としたカーボンニュートラルなど、実現のカギは北海道にあるのです!北海道の資源や特性を活かして我が国の課題解決を図るため、国は1951年から「北海道総合開発計画」を策定し、さまざまな取組を進めてきました。令和6年度から新たに「第9期北海道総合開発計画」がスタートします。豊かな資源に恵まれた北海道が、私たちの暮らしにどう関わっているのか、この機会にぜひチェックしてみてください。

Angle A

前編

日本の食を支える北海道農業にエールを送る

公開日:2024/2/28

タレント・俳優

森崎 博之

令和4年、国土交通省北海道開発局と、北海道に根ざした芸能事務所 株式会社クリエイティブオフィスキューとの間で「北海道の魅力発信に向けた包括連携協定」が締結されました。両者は本協定に基づき、互いの強みやネットワークを相乗的に活用し、北海道の魅力発信に向けた取組を推進しています。そこで、同事務所に所属し『農業タレント』としてご活躍中の森崎博之さんに、日本の食を支える北海道農業の魅力や課題についてお話をうかがいました。

ご自身を「農業タレント」と称されている森崎さんですが、農業に関心を持たれるようになったきっかけをお教えください。

 僕が生まれ育ったのは、北海道の東川町ひがしかわちょうというところです。北海道のちょうど真ん中に位置する、大雪山系に囲まれた町です。日々、山を見ながら四季を感じる、そんな幼少時代を過ごしました。
 その東川町で、祖父母が米農家を営んでいたんです。9枚(1枚=1反、1000㎡)の田んぼの他に、自分たちで食べる野菜などを作る畑も持っていて、そこが僕の遊び場でした。学校も遠かったし、近くに公園もなかったので、僕はいつも田んぼや畑で泥だらけになって遊んでいました。

幼少期から、ごく身近に「農業」があったのですね。

 おやつも畑で調達していました。家にお菓子が常備されていなかったので、お腹が空いたらマヨネーズを持って畑にいって、採れたてのキュウリにつけて食べていたんです。幼いながらも当時から「もぎたての野菜ってうまいんだな」「俺の食べているキュウリってうまいやつなんだろうな」と分かっていたように思います。
 ある時、もっとうまい食べ方はないだろうかと考えて、ツルからもぐ前の、なっているままのキュウリにマヨネーズをつけて食べてみました。そうしたらもう、本当にみずみずしくて、おいしくて。ただ、歯形の残ったキュウリをそのままにしてしまったため、おじいちゃんにばれ、「こんなことをするのはタヌキかお前しかいない。食うならちゃんと食え!」と、叱られましたけど(笑)。
 今にして思えば、あのキュウリって無農薬で、しかもブルーム(※)という白い粉がついている、今では貴重とされているキュウリだったんですよね。いわば、キュウリ本来の味がするキュウリ。白っぽい=農薬がついていると勘違いされることがあるため、最近では品種改良された、ブルームを出さないキュウリが市場に出回っていますが、僕の原体験はあの白っぽいキュウリです。本当に贅沢な幼少時代を過ごさせてもらったなと思います。
 ※野菜や果物が、水分の蒸散を防ぐために自ら分泌する天然物質。ブルームが付いているのは新鮮な証。

2008年からは、農業をテーマにした番組『あぐり王国北海道NEXT(HBCテレビ/旧タイトル・森崎博之のあぐり王国北海道)』に出演されています。

 おかげさまで15年間続けております。現時点(2023年12月現在)で730回。毎回毎回、様々な農家さんに出向くため、僕はこれまでに730の田んぼや畑に足を運んでいることになります。道内179市町村、すべて訪ねたことがあるんです。
 すごいなぁと思うのは、730回やっても、まだまだネタが尽きないこと。北海道の農業ってどれだけ引き出しが多いんだろう、その引き出しはどれだけ深いんだろうと、つくづく思います。これだけ長く番組を続けさせていただいていると、数年間隔で同じ土地を訪れることもありますが、そのたびに新しい発見があります。農作物自体が進化していたり、新しい技術が導入されていたり。北海道の農業は常に進化を続けているんです。

「農業の進化」とは、具体的にはどういうものでしょうか。

 品種自体が進化していて「こんなにおいしくなっているのか」「こんなに甘くなっているのか」と驚かされることも多いですし、農業を取り巻く技術面の進歩もめざましいものがあります。中でも代表的なのが、消費者の方に鮮度の高いものをお届けするための技術です。
 例えば、最近だとトウモロコシの出荷の際に使う「フィルム」が印象に残っています。トウモロコシというのは呼吸量が多いため足が速く、収穫した瞬間から鮮度の劣化が始まります。収穫適期のトウモロコシは、夜明け前から収穫し、朝7時頃までに選果場に届けてその日の流通に乗せるのですが、出荷の際には劣化を抑えるフィルムをかけて送り出します。そのフィルムには、野菜の種類に適した目には見えないミクロの穴がたくさん空いていて、食物の呼吸を抑制し、いわば冬眠状態のような感じにして劣化をとどめることができるんです。そういった資材ひとつとっても、どんどん性能の良いものが開発されているんですよ。「最高においしいものを、最高においしい状態で消費者に届けたい」という生産者の方々の気持ちが、大学などの研究機関や農協さんなどを巻き込んで、農業の進化につながっているのだと思います。生産者の方々はこんなにも我々消費者のことを考えてくださっているのかと、取材する度に感謝の気持ちが湧いてきます。

確かに、野菜も果物も年々おいしくなっていると感じます。

 そうでしょう? 最近取材した「冬のほうれん草」も感動しました。冬の寒さの中で育ち、葉が肉厚になり縮んだ状態になるいわゆる「ちぢみほうれん草」ですね。一般的なほうれん草に比べるとアクやえぐみの原因のひとつであるシュウ酸が少なく、鉄分やビタミンCなどの栄養価が高いとされています。しかも、冬だから虫が発生しにくく、農薬の使用量も低減できる。
 でも、このほうれん草を収穫し出荷するのは、一筋縄ではいきません。葉が絡まりやすいため、収穫などの際に茎がポキッと折れてしまうことが多く、そうなると商品価値が落ちてしまうんです。
 ところが、最近になって、このちぢみほうれん草をカットした状態で冷凍して販売するという、新しいノウハウが生まれました。消費者の方々は、おいしい冬のほうれん草をオールシーズン、手軽に食べられるようになる。さらに、生産者さんの利益にもつながる。まさにWin-Winというわけです。僕はこの「生産者さんが儲かる」というのはとても大事なことで、北海道農業の最も大きな課題だと思っています。

現場で感じる「北海道農業の課題」とは、どういうことですか。

 僕たちがニュースなどで見聞きする農業に関することって、「農家が悲鳴を上げている」とか「離農者が増えている」とか、ネガティブな事柄が多すぎると思いませんか? 僕たち大人は、それを見て「大変だな」と感じるわけですが、子どもたちはどう感じるか。「そんなに大変なのか、やりたくないな」と思ってしまうのではないでしょうか。それでは将来、誰が僕たちの食料を作ってくれるんでしょう?
 未来のことを考えたら、やはり子どもたちには、農業というものがどれだけ愉快で楽しくて、どれだけ稼げるものなのかということを伝えていかなければなりませんよね。だから僕はいつも、農業っていうのはこんなに儲かる、ほうれん草栽培というのはすごく稼げる、なんていうことをユーモアを交えて子どもたちに伝えるよう心掛けています。「将来の夢は農業をやること」と言ってくれる子が、1クラスに1割以上はいないと北海道農業は続いていかないと思うんです。
 農業は3Kだなんてよく言われますよね。キツイ、キタナイ、キケンだなんて、非常に心外ですが、いいでしょう、受け入れるとしましょう。でもあと2つ、Kがあるんです。農業は「稼げる」そして「格好いい」! これからの農業は「5K」なんだと、僕はアピールしたいですね。

もりさき・ひろゆき 1971年11月14日生まれ。北海道出身。安田顕、戸次重幸、大泉洋、音尾琢真と結成した演劇ユニット「TEAM NACS」のリーダーを務める。俳優業に加え、農業関連の仕事も多数。2008年、北海道の農業をあらゆる角度から取り上げ、食のあり方を見直す番組、HBC『森崎博之のあぐり王国北海道(現『あぐり王国北海道NEXT』)』がスタート。個人としては、ごはんソムリエの資格を取得し、2016年には自身のエッセイをまとめた書籍『生きることは食べること〜森崎博之の熱血あぐり魂』を発刊。これまで番組などで培った知識や経験を基に、北海道農業の素晴らしさや食育の大切さを伝える講演会を全国各地で行っている。2020年より、ホクレンアンバサダーに就任。
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