トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.14

「道」が変わる!新たなチャレンジ

私たちが日常的に使用している「道路」。近年、AIやIoT等の技術革新が進み、道路の建設やその維持管理にもこうした技術が活かされている。近い将来、道路整備がこれまで以上に進み、また、自動運転車や空飛ぶクルマが現実のものとなれば、既存の道路の位置づけも大きく変わることになるだろう。その時、道路空間をどのように活用していくのか。単なる交通インフラにとどまらず、オープンカフェなどコミュニケーションの場所としても、道路は大きな可能性を秘めているのではないか。

Angle B

後編

「街路」の基準づくりが都市を変える

公開日:2020/1/24

「ソトノバ」

編集長

泉山 塁威

道路空間の利活用のあり方を見直そうという動きは、100年に1度とも言われる自動車産業の「モビリティ革命」も背景にありそうだ。この傾向は、電動化、IT化、移動手段の多様化など、複合的な要素を伴って世界各地で進んでいる。しかし同時に、人が行き交うにぎわいのある道、魅力のある道、高齢者や障害者でも楽しめる道、という「人間中心」の観点も高い関心を集めている。行政側もこうしたニーズに対応しようと動き始めている。

「道路」の範囲は、生活道路から市街地の幹線道路まで様々ですね。

 戦後の一時期まで、「街路」という言葉がありました。英語でいう「ストリート」なのですが、意味合いとしては「道路」と「街路」の両方を指しています。今でも「街路樹」という言葉が残っているのはその名残りです。
 私たちの取り組みも「ストリート」の利活用を中心に考えています。「道路」とは分けて考えています。国土交通省内の「ストリートデザイン懇談会」の場で私も議論させていただきましたが、ここでの主な議論内容も、人が歩いて楽しむことができるこれからの「ストリート」のあり方を議論することでした。
 一般にはあまり知られていませんが、かつての「街路」には「広場」的な概念が含まれていました。現在は、街路の概念が道路に吸収され、道路法において「道路は交通のためにある」と位置づけられ、「広場」の要素は消えました。
 しかし、中心市街地の道路は、クルマがビュンビュン走る「道路」とは違い、「街路」であると考えています。沿道に面した建物の低層階部分やファサード(建物正面)、歩道も含めた部分が街路の機能を果たしています。国土交通省も懇談会などで議論を深めており、新たな考え方が示されることにつながると期待しています。そして自治体が中心市街地の「ストリート」の基準づくりに乗り出せば、街が変わってくると思っています。

道路空間の利活用を考える上で、ご自身が注目している取り組み事例を教えてください。

 道路は、何に重点が置かれているかによって用途が異なってきます。幹線道路では効率性が求められるでしょうが、クルマの交通量が少ない道路もあると思います。サンフランシスコ市のBetter Streets Planのように、「商業系」「住宅系」「ミクスドユース系」といった形で道路の性格を分けて考えてもいいと思います。道路整備の基準もその方向性に従って進めることができれば、道路ごとに個性を出すことができるのではないでしょうか。
 また、オーストラリア・アデレードにある「シェアード・ストリート」は、人とクルマの行き交いが混在する道なのですが、クルマは10キロの速度制限で、車道も歩道も区分がなく、同じ舗装になっています。もちろん先を急ぐクルマは通りません。その道路では人とクルマが譲り合いながら通行しています。日本ではこうしたケースはあまり見受けられませんでしたが、東京・下北沢では狭い道路に、自然発生的にたくさんの歩行者が歩き、車両規制はしていなくても、歩行者中心のストリートになっています。こうした道路の利活用に向けて、マネジメントを展開できればと考えています。

【人々が行き交う丸の内仲通り@PROTOTYPING FESTIVAL】

※一般社団法人ソトノバ提供

国でも道路空間の利活用に関する新たなビジョンの策定に向けて動いています。

 これまで道路を含むパブリックスペースの利活用のあり方については、国土交通省の都市局を中心に検討されてきましたが、今は道路局も主導しています。これは画期的なことです。道路法を所管する道路局が動けば、道路空間の利活用の幅が大きく広がるのではと期待しています。そこに道路交通法を所管する警察も関わればもっと力強いと思います。
 実務的には、私たちが道路で社会実験などをするときに、所轄警察と事前協議をする必要がありますが、警察側は安全とスムーズな交通を確保するという視点で協議に臨んできます。仮に道路法の目的で、道路は「人と交通が共存する場所」と定義したとするなら、警察側の対応も変わってくるのではないかと思います。私はそういう時代が始まりつつあると思っています。
※取材当時は令和元年12月

このビジョンを具現化するためには、どのようなことが必要だと思いますか。

 現行の法令上では、厳密には商店主や一企業が単なる事業目的で道路に椅子やテーブルを設置することはできないんです。これらの物を設置するために道路管理者や警察へ申請するときには、商店街組合やエリアマネジメント組織が申請者となり、設置の理由について公共性があるということを説明しなければなりません。しかし、例えばカフェの店主が、路上に椅子を出すために商店街加盟店の各店を説得し、適切な理由付けをして、申請するという行為は店主にとって相当な手間です。歩道も規制があふれています。交通動線や安全の確保という観点から、駐車場やバス停、ポスト、公衆電話の周囲には、物の設置は認められていません。そもそもカフェの椅子を置けるように設計されていないのです。こうしたことに対処するためには、道路空間だけではなくパブリックスペース全般に係る制度の整備が必要なのですが、制度の整備には時間がかかるので難しいところです。
 根本的な問題としては、「公共性って何だろう」ということですよね。アメリカやヨーロッパでは、道路空間を用いたオープンカフェなどの商売は、パブリックスペースの一つの機能とみなされます。地域経済活性化にも貢献します。一方日本では、道路でビジネスをしてはいけないという考え方をされるため、企業や店舗が単独ではパブリックスペースを使うことはできないようになっているように思います。オープンカフェを展開することは公共性がある、という考え方になればいいのですが。そうした意味で自治体のパブリックスペースの捉え方、公共性の再定義が必要だと思いますし、道路法の考え方にも時代に沿った変化が求められていると思います。

これからの道路空間の利活用の可能性について、どのように考えていますか?

 国も「ウォーカブルなまちなか」「居心地の良い歩きたくなるまちなか」という考え方を掲げています。人が「歩きたいな」と思えるかどうかは大事だと思います。人が歩かない道は、商業も発展しません。結局、必要なのは駐車場や駐輪場だけになりかねませんので、歩きたいという欲求を次の時代にも保つことは大事だと思います。そのためには通行と同時に「滞留空間」のある道を考えることが必要です。ベンチやテ-ブルなどがある道路空間(ストリート)です。休憩したり、本を読んだり、昼寝したりする人がいる。そこに人間らしさが表れ、人が集まる。現在、社会実験が進んでいる「スマートシティ」の実現に向けた取り組みと合わせて、過ごしやすさの設計を考えていくことが求められていると思います。(了)

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