トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.47

誰もが防災の担い手になる!災害大国ニッポンの未来

近年、「何十年に一度」、「生まれて初めて経験する」と言われるような災害が、全国各地で起こっています。しかしながら、何度も被災した経験がある人はそう多くはありません。いざ自らのリスクが高まったときでさえも、自分ごと化されないことにより、避難行動などにつながらず、最悪の場合は大規模な被害や犠牲者が発生しています。自分の命も大切な人の命も守るため、災害を自分ごととして捉え、防災・減災の正しい知識を修得することが現代では必須です。
そこで今回はテーマを「防災教育」とし、学びの内容、効果を上げるためのポイントなどをうかがいました。

Angle A

前編

「万一の備え」のきっかけは富士山噴火のXデー

公開日:2023/11/30

俳優・タレント・歌手

つるの 剛士

 大雨や大雪、台風、火山の噴火、地震など、近年「数十年に一度」レベルの災害が数多く起きています。こうした万一の時の被害を少しでも減らすためには、やはり日頃からの備えが欠かせません。そこで、ご自宅での防災活動をSNSで発信され、防災番組にもよく出演されていらっしゃるつるの剛士さんに、防災に関心を持ったきっかけや意識の持ち方について話をうかがいました。

つるの様は、東日本大震災で大きな被害を受けた福島県とのご縁が深いとうかがっています。

 福島県いわき市は妻の出身地で、僕も子どもたちも頻繁に訪れている「第二の故郷」といえるところです。震災当時は義父母や義弟、親戚が住んでいたので、僕たちも非常に心配しました。被災状況やら原発事故の様子やらさまざまな情報が錯綜し、災害時には「どうやって正しい情報を得るか」が重要だと実感しました。幸い、義父母が住む地域はそこまで深刻な被害はなかったため、今もいわき市で暮らしています。

被災地支援ライブなどにも積極的に参加されていらっしゃいましたね。

 震災直後の福島県や岩手県にもうかがいいました。現地では、家が流された方やご家族を亡くされた方にも多くお会いしましたが、皆さん、前を向いて進もうとされていて、逆にこちらが勇気をもらって帰ることも多かったです。その一方で、それまでの暮らしが一瞬のうちに失われた街の現実に、災害の恐ろしさを思い知らされもしました。
 僕が住んでいる藤沢市でも、震災後には計画停電がありました。夜に照明や扇風機が使えない中で、普段の生活が決して当たり前のものではないことを家族と話し合った記憶があります。東日本大震災は、日本に住む人々の防災に対する意識を大きく変えたと思います。

当時、つるの様やご家族はどんな状況だったのでしょう。

 僕は埼玉県でドラマの撮影をしていました。揺れがおさまった後、現場のテレビで各地の中継を見ていたら、江の島の水が一気に沖へ引いていることに気付いて焦りました。「自宅も危ない!」とすぐ妻に電話し、子どもたちを連れて高台に逃げるように伝えました。
 しばらくすると電話やメールがまったく使えない状態になったので、家族がどうなったのかわからないまま埼玉県のロケ現場から大渋滞の中、車で帰宅しました。当時、SNSは使うことができたので、心配のあまり「家族と連絡がとれなくなった」と書き込んだところ、それを読んだ近所の方がわざわざうちの様子を見に行ってくださったんですよ。「ご家族は大丈夫です」とのご連絡に、ようやく安心することができました。
この時の経験から、家族の緊急連絡用SNSアカウントを作りました。現在は自宅を出て暮らしている子どもたちもいるので、「万一の時はこれで連絡を取り合おう」「ここに集合しよう」といった取り決めが当時以上に重要になっています。

つるの様が防災に関心を持つようになられたのは、東日本大震災がきっかけですか。

 実は、それ以前から関心がありました。きっかけは、僕が住んでいる藤沢市からよく見える富士山です。美しい山ですが、人間で言えば10歳~20歳くらいの非常に若い活火山で、まだまだこれからも噴火する可能性が高いそうです。しかも、最後の噴火は今から約300年前。それ以前はもっと頻繁に噴火していた時期もあったようですから、休んでいる期間が長い分、次の噴火は大きなものになるのではとも言われています。いろいろな情報を知り、普段から富士山を眺めて「噴火したらどうなるだろう」と考えているうちに、「噴火に備えよう」と。僕がアウトドア好きで、富士山を含め山登りの経験が多く、噴火を身近な災害に感じていたことも、行動につながった一因だと思います。

富士山の噴火のための備えというのは、どういうものですか。

 食料や水の備蓄などは富士山噴火に限ったものではありませんが、火山灰が降ることを考えて、家全体を覆えるくらいのブルーシートを常備しています。また、灰やガスを吸い込まないようガスマスクも用意しています。
 「噴火するかどうかわからないものに備えなくても」と、こうした防災活動にピンとこない方も確かにいます。でも、噴火するかどうかわからないからこそ、備えておいた方がいいと僕は思う。そもそも僕は「生きることは備えること」だと昔から思っているので、災害への備えもごく自然なことなんです。
 ちなみにブルーシートは、2019年9月、令和元年房総半島台風で被災した方に提供したことがあります。噴火に備えていたおかげで、ほかの災害で困っていた方の力になることができ、改めて備えておいてよかったと思いました。

つるの様がご自宅に常備されているブルーシート(つるの様のオフィシャルブログより)。

最近は、防災番組にもよく出演されていらっしゃいますね。

 自宅の災害への備えなどをSNSによく投稿していましたから、それを見たテレビ局の方が声をかけてくださったのではないかと思います。
 防災番組は毎回異なるテーマで制作されていて、僕も出るたびに新しい情報を得られて、とても勉強になっています。例えば、大雨などによる水の被害は、堤防の決壊などで川の水があふれることに注意がいきがちですが、昨今は街中で水があふれ出す「内水氾濫」も多いのだとか。これは、大量の雨に排水機能が追いつかず、側溝やマンホールなどから水があふれて起こるものですから、河川がない街でも水害の危険はあると気付かされました。ほかにも、日本に住む外国人の方と災害時に助け合うにはどうしたらいいかなど、番組を通して学んだことは多いです。富士山噴火を取り上げた回は視聴率がよかったそうなので、噴火に備えている仲間は案外多いかもしれませんね。

つるの・たけし 俳優・タレント・歌手。福岡県北九州市出身。1994年にテレビドラマでデビュー後、1997年『ウルトラマンダイナ』のアスカ隊員役に抜擢され、注目を浴びる。2005年からテレビのクイズバラエティ番組に出演して大人気となり、2008年には同番組メンバーによるユニット“羞恥心”でCDデビュー。2009年にソロシンガーとしてカバーアルバム「つるのうた」をリリースしてオリコン1位を記録する。現在まで精力的に音楽活動を続け、被災地支援の音楽イベントなどにも出演。2012年から藤沢市の「ふじさわ観光親善大使」も務める。5児の父であり、保育士資格、幼稚園教諭資格を持つ。 防災教育にも関心が高く、テレビの防災関連番組にも多数出演する。
インタビュー一覧へ

このページの先頭へ