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トリ・アングルINTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.26伝統の灯を消すな!無形文化遺産

公開日:2021/2/12

A

[ 前編 ]

恩返しの繰り返し

歌舞伎俳優尾上 松也

色鮮やかな着物をまとい、隈取(くまどり)を施した俳優が美しい舞踊や力強い演技を舞台で繰り広げ、江戸の風俗から人情の機微までを伝える歌舞伎。日本人の感性を反映した表現や伝統的な演技・演出様式が評価され、2008年に無形文化遺産に登録された。1603年に出雲の巫女(みこ)、阿国らが演じた踊りが起源とされる伝統芸能がいまも受け継がれ、愛される理由はどこにあるのか。若手歌舞伎俳優の花形で、映画やドラマ、ミュージカルなどジャンルの枠を超えて活躍する尾上松也さんに話を聞いた。

いろいろなジャンルの作品に出演する松也さんは、歌舞伎の魅力はどこにあると感じていますか?

 僕はどんなテーマや物語も歌舞伎に昇華できるところに歌舞伎の凄さを感じています。世間では堅苦しいと思われがちな演劇ですが、実は何でもできるんです。歌舞伎に決まり事はありますが、定義や制約はないと思いますので、とても柔軟性が高い。独特の演技・演出様式をもってすれば、作品として成立させられる力強さがあります。
 例えば、セリフには「七五調」がよく用いられますが、使わなくても作品になります。昨年出演したテレビドラマ『半沢直樹』も、(劇中の歌舞伎俳優の熱演が話題になり)”半沢歌舞伎”と呼ばれました。われわれが歌舞伎といえばそうなりますし、歌舞伎ではないといえばそうなってしまいます。つまり何でもありなんです(笑)。
 また、演目はシリアスな人間ドラマや恋愛、コメディーなど多様で演劇の全要素を包含しています。歌舞伎の世界だけでも、いろいろなジャンルの物語を楽しめるのも魅力の一つですね。

伝統として受け継いできたのはどんなことですか?

 古典演目の継承には文化的な価値という意味もあります。歌舞伎俳優は技法も含めて古典を身体で学び、理解していますので、新作演目も歌舞伎に昇華することができます。それは先人から受け継いできた技術や技法が歌舞伎の骨組みにあり、土台になっているからだと思います。
 その伝統を支えるのは恩返しの繰り返しだと思います。われわれ若手が大役を勤める際には、血縁関係に関わらず先輩方が必ずご指導してくださいます。先輩方の芸は同じ役を繰り返し演じ、洗練させて到達された域にあります。ある意味、企業秘密ですよね。ですが、その芸を惜しみなく、誠心誠意教えてくださいます。先輩方も教えを受けられてきたからこそ、その芸や想いを後輩に伝えて歌舞伎の継承や繁栄につなげることが、恩返しになると考えられているのではないでしょうか。

無形文化遺産という形のないものを受け継ぎ、伝える難しさはありますか?

 まだまだ教えをいただく立場ではありますが、教える立場に回る機会も少なからずありますので、感覚的なものを伝えることの難しさを実感しています。自らの演技は公演や稽古を積み重ねることで身に付いていきますが、言葉にして考えることは少ない。ですので、先輩方に教えていただいた際に印象に残ったポイントを心に刻むよう心がけています。最近は稽古の段階から、下の世代にどう伝えるべきかを意識するようにもなりました。それも一つの大事な務めだと思うからです。

2009年から10年間開催した歌舞伎自主公演「挑む」では、初めて観劇する人にも分かりやすい構成にするなど普及にも取り組んでいますね。

 これからは僕より若い世代の方にも歌舞伎に親しみ、支えていただかなくてはなりません。まずはふらっと芝居小屋に立ち寄って、気軽に鑑賞できるということを知っていただきたいですね。もともと歌舞伎は誰もが楽しめるエンターテインメントとして発展してきた演劇ですから。歌舞伎座でお話しますと1、2等席は確かに安くはありませんが、3階席は3000~5000円と比較的手頃です。今は1日3部制(計6幕)で1部ずつ鑑賞できますし、中断していますが、通常は4階席を開放する「一幕見席」が1000円程度で好きな一幕だけを選んで観(み)ることもできます。
 また、日本の伝統芸能といわれるからには、定期的に公演のある東京や大阪、京都などのみならず全国の方になじみのある演劇にしたい。その足がかりになればという思いで、2018年から山梨県北杜市小淵沢町で毎年公演を開催させていただいております。

情報や娯楽があふれる環境で育ってきた若い世代に、どんな楽しみ方を提案しますか?

 歌舞伎にはいろいろなジャンルがありますので、自分の好きなときに好きな演目を選ぶことができます。1日6幕も上演し、月替わりで演目は替わりますので選択肢は豊富です。例えば、1時間半の芝居もあれば、20分程度の舞踊演目もある。じっくりと観ることもできますし、上演時間の短い舞踊だけを観ることもできますので、自分の気分やライフスタイルに合わせて鑑賞できます。
 もちろん、”生”ではのライブ感がありますし、ほかの演劇にはない演出や美術、着物の色使いなど歌舞伎ならではのものもありますね。最初は情景や台詞がわからなくても、何かを感じていただけるはずです。より内容を知りたい方には解説のイヤホンガイドなどもご用意していますので、足を運んでいただければ自分なりの楽しみ方が見つけられるのではないでしょうか。
※後編に続きます。

プロフィール

おのえ・まつや 1985年1月30日生まれ。5歳で『伽羅先代萩』の鶴千代役にて初舞台。近年は立役として注目され、2015年より、次世代の歌舞伎界を担う花形俳優が顔を揃える「新春浅草歌舞伎」に出演し、「仮名手本忠臣蔵」早野勘平、「義経千本桜」狐忠信、「元禄忠臣蔵〜御浜御殿綱豊卿」徳川綱豊卿などの大役を勤める。 歌舞伎以外でも蜷川幸雄演出の騒音歌舞伎(ロックミュージカル)『ボクの四谷怪談』(2012年)お岩役、ミュージカル『エリザベート』ルイジ・ルキーニ役(2015年6~8月)など活動の幅をひろげ、昨年は日曜劇場『半沢直樹』(TBS)でIT企業社長・瀬名洋介役を演じ、更なる注目を集めている。3月12日に初主演映画『すくってごらん』(配給ギグリーボックス)がTOHOシネマズ日比谷ほか全国でロードショー。