トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.50-1

「2024年問題」を契機に、より魅力ある業界へ -物流サービス編-

2019年4月から、会社の規模や業種により順次適用が進められてきた「働き方改革関連法」。時間外労働の上限規制に5年間の猶予期間が設けられていた業種でも2024年4月1日に適用開始となり、誰もが安心して働き続けられるワークライフバランスがとれた社会の実現に、また一歩近づいたといえます。しかし、その一方で新たな課題として浮上してきたのが、いわゆる「2024年問題」です。国民生活や経済活動を支える物流業界、建設業界が、将来にわたってその役割を果たしていけるよう、企業や私たち消費者にはどのような取組、変化が求められているのでしょうか。

Angle C

後編

三位一体となって物流の明るい未来を

公開日:2024/6/12

国土交通省 物流・自動車局 物流政策課

小原 里穂

荷主企業、物流事業者、一般消費者が一体となって物流を支える環境整備に協力するのが「物流革新に向けた政策パッケージ」の基本構想です。後編ではパッケージの施策に基づく荷主企業や物流事業者の先進的な取組事例や、施策の効果を踏まえた達成目標について聞きしました。話題は、小原さんが描く物流やドライバーの未来像、消費者である私たちができることまで広がりました。

お話を聞くと「2024年問題」は、むしろ物流業界がより良く変わるきっかけになるのではと思いました。小原さんはなにか手応えを感じていますか。

 物流革新に向けた政策パッケージを決定できたのは、やはり関係閣僚会議を通じて関係省庁と連携・協力できた点が鍵になったと思っています。例えば小売や製造、食品などの荷主企業は経済産業省と農林水産省の所管なので、国土交通省が単独で荷主の理解と協力を得ることはなかなか難しいのですが、今回は充分に連携することができました。閣議決定された物流総合効率化法と貨物自動車運送事業法の改正案(流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案)も経済産業省、農林水産省と、国土交通省との共管です。
 また「物流の効率化」の中に、高速道路の速度規制の引き上げ案がありますが、速度規制の見直しは警察庁との連携が必要です。この点についても国家公安委員会委員長が閣僚会議に参加されていたため、パッケージの決定後、すぐに警察庁で検討会が立ち上げられ、2024年4月から中大型トラックの最高速度を90kmに緩和する改正道交法施行令が閣議決定されました。スピードが上がればそれだけ運転時間が短縮され、ドライバーの負担も軽減されます。このように施策の実施について、いろいろな関係省庁と連携して進めていくことは重要なことだと思います。

政策パッケージに対する荷主、物流事業者の方の反応はいかがですか。

 2023年6月に決定した際に、併せて荷主および物流事業者が物流革新に向けて早急に取り組むべき事項をまとめたガイドラインを策定しましたが、それに基づいて多くの関連団体が自主行動計画を作成されました。その数はすでに100団体を超え、荷主業界では大手が所属する団体はほぼカバーできています。また、パッケージの打ち出しによって改革機運が醸成されたことにより、これまでになく産業界をはじめ関係団体が一緒に盛り上がっています。特に先進的な荷主企業の取組は、物流事業者からも大変注目されており、何かしらの刺激になっているのではと期待しています。

先進的な取組には、例えばどのようなものがありますか。

 ドライバーの確保という点では、先般、(株)ファミリーマートとコカ・コーラボトラーズジャパン(株)が提携し、コカ・コーラボトラーズジャパン(株)のトラックとドライバーを、非稼働時に(株)ファミリーマートが使用するという共同配送の仕組みが発表されました。日清食品(株)とJA全農(全国農業協同組合連合会)は一定のルート間で共同輸送を行い、積載率の向上に取り組んでいます。国内の積載率は2019年度の平均値で38%と、1台のトラックに半分も積めていない現状なので、これも物流の効率化にあたり改善すべき課題です。物流の効率化に向けた手段としてはパレット(保管や運搬の際に貨物を載せる荷役台のこと)の活用も有効で、大王製紙(株)や(株)日清製粉ウェルナなどの事例がよく報じられています。パレットを用いればフォークリフトでの積荷ができることから荷役の削減、荷待ち時間の減少にもつながっています。またキッコーマン(株)は、主力商品の醤油がある程度リードタイム(納品までにかかる時間や日数)が取れるため、受注から出荷までの時間を長くして配送にゆとりを持たせています。
 物流事業者ではヤマト運輸(株)と佐川急便(株)が、この4月から運賃を引き上げました。また、味の素(株)などエフLINEラインプロジェクトに参加している加工食品メーカー6社が、関西と九州の間で定期船による海上輸送を始めました。このモーダルシフトによって、トラックの使用台数を年間で100台減らせる見込みと聞いています。物流の会合はいま、大半が関係省庁との連携で開いていますので、こうした先進事例をどんどんキャッチアップし、共有しています。企業側も積極的に情報提供や事例発表を行ってくださるなど、物流に対する意識が変わってきたと心強く感じています。

施策の効果として、達成目標は設定されていますか。

 輸送力を測る指標として「荷待ち・荷役の削減」「積載率向上」「モーダルシフト」「再配達削減」「その他(トラック輸送力拡大等)」の5項目を設定しています。そのうち荷待ち・荷役は2024年度に1人あたり年間75時間、2030年度には年間125時間の削減が目標です。積載率は現状の38%から2024年度には40%、2030年度には44%に向上させ、モーダルシフトは現状の輸送量524億トンキロ(※)から2024年度には539億トンキロ、2030年度には667億トンキロを目指しています。これにより2024年度に不足するとされる14%の輸送力をカバーしたうえでなお0.5ポイントアップのプラス14.5%、2030年度には34%のマイナス分をプラス34.6%の効果で埋められる計算です。
 また、運賃改定により標準的な運賃の8%引き上げに加えて、荷役の料金が適正に支払われることにより、初年の賃上げ効果は10%前後になると推計しています。次年度以降も効果は拡大する見込みです。
 今後も、関係省庁や産業界と連携しながら、必ず目標を達成できるよう、ロードマップに従って着実に進めていきます。
 ※輸送した貨物の重量(トン)にそれぞれの貨物の輸送距離(キロ)を乗じたものであり、経済活動としての輸送をトンベースよりも適確に表わす指標

出典:令和6年2月16日「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」(内閣官房)配布資料より

2030年以降は、どのようなビジョンを描いていますか。

 倉庫作業などでは自動化・機械化がますます進むでしょう。すでに「荷姿」を読み取り、AIがどのように貨物を積載すれば効率的かを指示するシステムも市場に出ていると聞いています。ただピッキングロボットなどのDX化にはコストがかかるので、何社か共同して1つの拠点に集約するという運用体制も必要になるかと思います。
 輸送に関しては自動運転の実用化に期待しています。完全輸送には時間がかかるかもしれませんが、高速道路の大半を自動運転トラックが走るのはそう遠い未来ではないでしょう。そうなれば長距離輸送でも、最初と最後のワンマイルだけを人が運転するだけで済みますので、学生のアルバイトやパートといった短時間の雇用でも可能になるかもしれません。人の確保はもとより、新しいタイプのトラックドライバーが増えることで物流業界の活性化も期待できます。

高速道路を走行する自動運転トラック(イメージ)

明るい未来図ですね。なんだかワクワクします。

 政策パッケージの設計思想にあるように、根底には荷主企業、物流事業者、一般消費者の三者がお互いの価値を認め合い、リスペクトすることが「三方良し」の明るい未来につながると思います。物流はモノを運ぶことですが、私は、モノには何かしらの想いが乗っているように感じています。贈り物を届ける宅配便だけでなく、スーパーに並ぶ野菜も生産者の想いを乗せて運ばれてきます。目の前にあるパソコンも、誰かが運んでくれるから使用できます。災害などで物流が遮断された時、私たちはモノが当たり前に届く日常がいかに大切か痛感したはずです。そうしたことに想いを馳せ、感謝の気持ちを持つことが行動変容の第一歩ではないでしょうか。

最後に、消費者の皆さんに取り組んでほしいことや、生活の中ですぐに実践できることを教えてください。

 消費者の皆さんに呼びかけるとすれば、やはり再配達の削減です。配達日を発送の翌日ではなくゆとりを持った日時に指定する、一回で確実に受け取るよう気を付ける、まとめて購入する、など、できることはたくさんあります。配達状況がわかるアプリをダウンロードしたり、コンビニ受け取りでポイントを貯めたりと、スマホなどのデバイスも活用して楽しく取り組んでほしいですね。
 私は海外で暮らした経験から、日本の物流はとてつもなく優れていると実感しました。海外の地域によっては、時間通りにモノが届くことの方がありえないことで、物流事業者も厳選しなければなりません。日本の物流は、社会を豊かにする国民の大切なインフラです。配達の遅れやちょっとしたミスにイライラするよりも、受け取った時の幸せを想像して、ゆったりと待つ方が豊かさを享受できると思います。

出典:国土交通省

 私たちが、食料品や日用品など、必要なものを必要な時に購入し、手にできるのは、当たり前のことだと思ってきましたが、「2024年問題」を通じて、この「当たり前」は、トラックドライバーの長時間労働の下に、何とか維持されてきた、という事実に改めて気付かされました。トラックドライバーの労働環境改善と安定した物流サービスの継続。この2つを両立させるためにはどんな課題があり、どんな変化が必要なのかを知るために、今回のテーマを「物流の2024年問題」にしました。
 物流の最前線からお話を聞かせてくださったのは、SNSでも人気の現役トラックドライバー、トラックめいめいさんです。業界の課題や対応策、仕事のやりがい等、現役ドライバーとしての具体的なご意見をうかがうことができました。F-LINE株式会社は、普段はライバル関係にある複数の食品メーカーが、持続可能な食品物流の構築を目指し、共同出資で設立した物流会社です。ライバル企業同士が「競争は商品で、物流は共同で」という理念のもとに一致団結されていて、素晴らしい取組だと思いました。トラックドライバーの労働環境の実態から課題解決に向けた政策まで、「2024年問題」解決への道筋について教えてくれたのは国土交通省 物流・自動車局 物流政策課の小原里穂さんです。小原さんの「荷主企業、物流事業者、一般消費者の三者がお互いの価値を認め合い、リスペクトすることが「三方良し」の明るい未来につながる」という言葉通り、私たち消費者もこの問題を自分ごととして捉え、再配達を減らすなどの努力をしていきたいです。
 次号のテーマも「2024年問題」。今度は建設業界に注目し、その課題や解決策について意見をうかがいます。(Grasp編集部)

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