トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.50-1

「2024年問題」を契機に、より魅力ある業界へ -物流サービス編-

2019年4月から、会社の規模や業種により順次適用が進められてきた「働き方改革関連法」。時間外労働の上限規制に5年間の猶予期間が設けられていた業種でも2024年4月1日に適用開始となり、誰もが安心して働き続けられるワークライフバランスがとれた社会の実現に、また一歩近づいたといえます。しかし、その一方で新たな課題として浮上してきたのが、いわゆる「2024年問題」です。国民生活や経済活動を支える物流業界、建設業界が、将来にわたってその役割を果たしていけるよう、企業や私たち消費者にはどのような取組、変化が求められているのでしょうか。

Angle A

前編

事故なく荷物を正確に届ける。それがトラックドライバーのやりがい

公開日:2024/5/8

トラックドライバー

トラックめいめい

日本の物流の重要な担い手であるトラックドライバー。一般の人はあまり知らない日々の仕事の実態や仕事後のお楽しみなどをSNSで積極的に発信しているのが、SNSの総フォロワー数が49.9万人のトラックめいめいさんです。高校時代にトラックドライバーを志望するようになった理由や、この仕事の面白さ、大変さなどについてお話をうかがいました。

トラックドライバーを目指すようになったきっかけを教えてください。

 高校3年の就職活動の時期に、周囲の友人が次々と内定をもらう中、「自分はどんな仕事に就けばいいのだろう」と悩んでいました。漠然とファッション業界に興味があったのですが、必要なスキルを修得するための学費、業界の平均給与などを調べた結果、「生活を考えると、私には難しい」と進路を変更。これから自立して生きていくため、仕事を探す際に唯一こだわった条件は「自分1人でできる仕事」でした。高校時代に経験したアルバイトでは人間関係に気を遣ったり悩んだりすることが多く、ほかの人と常に協力しながら働くより、1人で働く方が向いていると思うようになったんです。ネットでいろいろ検索し、運転中は1人になれるトラックドライバーの仕事に興味を持つようになりました。

当時は普通自動車の運転経験もなかったと思います。いきなりトラックを運転する仕事に就くことに不安はなかったのでしょうか。

 仕事はやってみないと分からない、まずは挑戦しないと始まらないと思っていましたし、当時から体力には自信があったので特に不安は感じませんでした。それに、高校の進路指導の先生に相談したときに、「まだ女性が少ない業界だけど、あなたならできると思う」と言ってくれたんですよね。私をそんなふうに評価してもらえたことが嬉しくて、トラックドライバーを目指す後押しになりました。最初の就職先も、その先生が紹介してくれた会社の中から検討して選びました。

その会社を選んだポイントは何だったのでしょう。

 まず、当時としては珍しく日曜日が定休日だったことです。ほかの会社は週休2日制といっても何曜日が休みになるか分からなかったため、決まった曜日に休めるというのは安心感がありました。また、新卒採用に力を入れていて、従業員の約半数は高校卒業後に新卒で入社している点、退職者が少ない点、運転免許は入社後の研修期間に取得できる点なども、未知の世界に飛び込むハードルを下げてくれました。事前の社内見学も了承してくださり、社員の皆さんにとてもフレンドリーに接していただいたことも大きかったです。「こんな温かな雰囲気の会社で働いてみたい」と、入社への思いが強くなりました。

研修期間は4ヵ月もあったとか。どんな内容だったのですか。

 運転免許取得のための座学と実技、トラックドライバーに必要な車両点検などの実務、社会人としての基本的なマナーなどです。当時はとにかく早く免許を取って、現場に出ることばかり考えていました。免許は普通自動車と準中型自動車(※)を同時に取得する課程を選んだのですが、いざ運転してみると、私としては普通自動車よりトラックの方が運転しやすいことに気が付きました。一般的に日本のトラックは運転席の前にボンネットがなく、高い位置から広い範囲が見えるため、車線が確認しやすいなどのメリットがあるんです。1年ほど前からプライベートで乗用車を運転するようになりましたが、トラックと比べて車体の位置を把握しづらくて、最近まで駐車場に停めるときもモタついていました(笑)。
 ※ 2017年の道路交通法改正に伴い新設された自動車の種類。それまでの普通、中型、大型に、車両総重量3.5トン以上7.5トン未満等の準中型が加わり、普通自動車の車両総重量は5トン未満から3.5トン未満に変更された。2トントラックなどの準中型自動車を運転するには準中型免許が必要(改正前に普通免許、中型免許を取得している場合は改正後も以前と同じ範囲の自動車の運転が可能)。

トラックめいめいさんは北海道出身で、高校も道内だとうかがっていますが、トラックドライバーとしてのキャリアは東京でスタートされたのですよね。

 実は、最初の就職先は東京に支店があり、「一度は東京で暮らしてみたい」という私の夢が叶うのも入社理由のひとつでした。入社後は希望どおり東京に配属。社員寮があったので、住む場所の心配をせずに、相場よりかなり安い家賃で暮らせたのもありがたかったです。
 当時は荷主さんからの荷物をお客様に直接お届けする仕事が中心で、毎日60件ほどの届け先を回っていました。給与は歩合給の割合が大きかったのでやる気が出て、同期の中でも多く稼いでいた方だと思います。でも、2020年に新型コロナウイルス感染症の感染が拡大すると仕事は激減。給与が10万円近くダウンしたこと、以前から憧れていた大型自動車免許を取得して収入アップを図りたいと考えるようになったことなどから、別の運送会社への転職を決めました。そこに2年ほど勤めた後、北海道にUターンして現在の会社に就職しました。

普通免許、準中型免許以外に、現在はどんな免許を取得されているのですか。

 最初の会社の研修期間中にフォークリフト免許、仕事を始めてから中型免許、けん引免許(※1)、21歳になって受験資格が得られるとすぐに大型自動車免許を取得しました。さらに、今勤めている会社にはユニック車という小型クレーン付きのトラックがあったので、その運転に必要な小型移動式クレーン運転技能講習、荷物をクレーンに吊る作業を行うための玉掛け技能講習も修了しています。今年の1月には、高圧ガス移動監視者(※2)の資格も取得しました。
 免許取得に向けては、毎回「誰かができるなら自分もできるだろう」という前向きな気持ちで挑んでいます。できない仕事も、乗れない車両も無くしたくて、トラックドライバーの業務に関連する免許・資格をいろいろ取得してきたのですが、おかげで現在は大型トラックを運転し、フォークリフトを使って荷物を積むなど、ひととおりの仕事は自分でできるようになりました。こうしたスキルアップに意欲的な姿勢と実績は、転職の際のアピールポイントにもなったと思います。
 ※1 車両総重量が750kgを超える車をけん引する場合にはけん牽引免許が必要。
 ※2 高圧ガス保安法に基づき、高圧ガスの容器を自動車等により輸送する際の安全輸送に努める者。

現在の1日のスケジュールを教えてください。

 札幌支店で仕事をすることが多く、朝は5時30分に出勤。アルコールチェックや健康状態の確認、点呼、車両の点検などを済ませた後、トラックに乗り込みます。現在の担当は鉄道貨物で、最初は駅に向かい、鉄道で運ばれてきた貨物コンテナを積み込んで届け先の企業へ運ぶ業務がほとんどです。届け先は主に札幌市内のため、移動時間は1時間程度。荷物を降ろしたら、また駅に戻って荷物を積んで……と、これを1日に3~4回繰り返します。仕事が終わるのは大体16時頃です。
 荷物の積み降ろしはドライバーが行うのですが、玉ねぎや人参などの野菜、割り箸、タイヤ、アルコール飲料、液体調味料など実にさまざまな荷物があるため、積み下ろしには毎回違った工夫が必要です。また、荷降ろしは通常1時間ほどで完了するのですが、届け先によっては「決まった向きで積み重ねる」などの指定があり、そうなると2時間くらいかかってしまうことがあります。

意外にも、運転以外の部分で時間がかかる仕事なのですね。ほかにもトラックドライバーとして大変に感じていることはありますか。やりがいについてもお聞きしたいです。

 北海道ならではの苦労としては、滑りやすい雪道。あと、東京と比べて道路のデコボコが多いように感じます。トラックは乗用車よりも路面の影響を受けやすいようで、小さなへこみでも大きく揺れることがあるんです。壊れやすい荷物を運んでいるときは、細心の注意を払って運転しています。
 やりがいは、しっかりと車両を点検し、安全運転を心がけ、荷物を正確に届けて1日を事故なく終わらせることですね。私自身は手作業で荷物を積んだり降ろしたりすることは嫌いではなく、トラックドライバーになってから、かなり筋肉がつきました。体を動かした分だけ働いた実感が増しますし、達成感もありますから、仕事終わりに飲むビールも一層美味しく感じられます(笑)。
 もともとは「一人でできる仕事に就きたい」という気持ちから飛び込んだこの世界。最初に就職した会社の温かな雰囲気のおかげで考え方が変わり、今では同僚や上司とコミュニケーションを取りながら仕事をすることも楽しめるようになりました。北海道に戻ってからは、さらに周囲の人の温かさを感じながら仕事をしています。こうした日々の積み重ねで給与をもらい、自立して生活できていることが本当に嬉しいです。

とらっく・めいめい トラックドライバー。北海道出身。2000年生まれ。現在23歳。高校卒業後に東京で就職した後、2023年にUターンして北海道で就職。SNS(X、Instagram、TikTok)の総フォロワー数は49.4万人。新型コロナウイルス感染症流行後の転職を機にSNSをはじめたところ、「トラック女子」として仕事終わりの食事などを楽しむ姿が話題となり、本人を原案としたドラマや漫画が制作されたほか、多くのメディアにも取り上げられる。現在は、大型免許やけん引免許、フォークリフト、高圧ガス移動監視者の資格などを取得し、トラックドライバーとして日々奮闘中。
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