トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.50-1

「2024年問題」を契機に、より魅力ある業界へ -物流サービス編-

2019年4月から、会社の規模や業種により順次適用が進められてきた「働き方改革関連法」。時間外労働の上限規制に5年間の猶予期間が設けられていた業種でも2024年4月1日に適用開始となり、誰もが安心して働き続けられるワークライフバランスがとれた社会の実現に、また一歩近づいたといえます。しかし、その一方で新たな課題として浮上してきたのが、いわゆる「2024年問題」です。国民生活や経済活動を支える物流業界、建設業界が、将来にわたってその役割を果たしていけるよう、企業や私たち消費者にはどのような取組、変化が求められているのでしょうか。

Angle A

後編

2024年は「問題」でなく業界全体の「チャンス」にしたい

公開日:2024/5/15

トラックドライバー

トラックめいめい

ドライバーの働き方改革を契機に、物流業界の在り方が大きく変わりつつあります。「2024年問題」とも言われる課題の解決に向けて、ドライバーの労働環境改善や生産性向上のために何が必要でしょうか。現役トラックドライバーとして、SNSで自らの日常を楽しく紹介しているトラックめいめいさんにご意見をうかがいました。

トラックめいめいさんといえば、やはりSNSで公開されている飲食シーンが印象的です。SNSはいつ頃から始められたのでしょうか。

 最初の転職で勤務条件が変わり、プライベートに少し余裕が出てきた2021年頃からTwitter(現X)やInstagramなどに投稿するようになりました。ちょうど21歳になり、大型免許取得のための勉強を始めたところだったので、そのプロセスを紹介したら面白いだろうなと思ったのがきっかけです。また、最初に勤めた会社で周囲とコミュニケーションを取る楽しさを知り、それまで人との交流を避けがちだった自分を変えたいという気持ちもありました。投稿は見た人の気持ちが明るく楽しくなる内容を意識し、ネガティブなことは絶対に書かないと決めています。
 フォロワーは最初から割と順調に増えていったのですが、爆発的に増えたのはフォロワーが8000人程度のとき。私が豪快にビールを飲む写真が注目されたことからでした。以前から同じような写真を投稿すると好評だったので、「トラックの話より飲んでいる姿の方がいいのか」と少し複雑ではありましたが(笑)、多くの人に楽しんでもらえるならと、積極的にそうした写真も投稿するようになりました。

SNSが注目されたことで、実生活に変化はありましたか。

 テレビドラマやマンガの題材になったり、ニュース番組の取材を受けたりと、SNSへの投稿のおかげで、今までの人生では考えられない経験ができました。「いつもSNS見ています」と同業の方などから声をかけられることも増えましたね。SNS上での応援ももちろんありがたいですが、相手の顔が見えると、応援してくださる方の存在をリアルに感じられて嬉しいです。
 ただ、トラックドライバーの仕事も忙しくなってきて、このままでは両立が難しいと思い、SNSでの活動に柔軟に対応してくれる現在の運送会社に転職しました。

転職後、今度は「働き方改革」が本格スタートしたわけですが、トラックめいめいさんの働き方にも何か影響はあったのでしょうか。

 今の勤務先は転職時にすでに時間外労働時間の上限規制(※)に対応済みでしたので、私自身の働き方はあまり変わっていません。
 以前の私は「がむしゃらに働いて稼ぎたいマン」だったんですよ。でも3年前、当時の職場の上司から「もうそういう時代ではなくなってくるからね」と言われ、初めて「働き方改革」や「2024年問題」について知りました。労働時間が短くなることによる収入の減少は心配でしたが、トラックドライバーの長時間労働が当たり前になっていることには私も思うところがあったので、労働環境を良くするための大きな一歩なんじゃないかな、と思います。
 トラックドライバーの労働時間が短くなることで物流が滞るという話も聞きますが、これらを一括りに「2024年問題」と表現することに私は違和感があります。トラックドライバーがサービス(無償)で荷物の積み降ろしなどを行っている場面を見ることもあり、「改善してほしいのは時間外労働だけじゃない」と感じているトラックドライバーは多いと思います。そうしたことを少しずつでも解決していくために、「問題」というネガティブな言葉ばかりが先行しないようにしてほしいと思います。
 ※トラックドライバーの時間外労働時間には上限規制がなかったが、2024年4月1日より年960時間の上限規制が設けられた。

必要なのは、トラックドライバーの労働環境を改善した上で、きちんとモノが届く物流システムの構築なのですね。そのためにはどんな方法があると思いますか。

 個人的には、手作業での荷物の積み降ろしにやりがいを感じる部分もあるのですが、やはりこの業務の負担軽減が労働時間の適正化に役立つと思います。
 一般的に、トラックドライバーは荷主さんのところへ行って荷積みの順番待ちをし、自分で荷物を積んで届け先へ向かいます。届け先に着いたら今度は荷降ろしの順番を待ち、自分で荷物を降ろすわけです。この荷物の積み降ろしをトラックドライバー以外の人に任せることで、ドライバーの労働時間を削減できます。荷物を輸送用パレットに積んでもらえれば、フォークリフトで一度に積み降ろしができ、時間の節約と同時にドライバーの体への負担軽減につながります。運送会社だけでなく、取引先の理解や協力が必要で、現場のドライバーからは言い出しづらいことなので、産業界全体の取組として改善を進めてもらえたら嬉しいですね。
 それから、これは北海道の物流の地域性なのかもしれませんが、荷物を遠距離の届け先まで運んだ後、帰りの荷台が空のままということが多いので、もったいなく感じています。荷主さん同士で調整していただく必要がありますが、行きも帰りも積み荷があれば物流の効率化を図れる上に、ドライバーの収入アップにもつながるので、ぜひ検討してほしいと思います。

トラックドライバー不足も現在の物流業界の大きな課題です。

 荷物の積み降ろしは他の人に替わってもらうことが可能ですが、運転は免許を持ったドライバーにしかできません。4月から中型・大型トラックの高速道路における最高速度が引き上げられましたが、だからといって移動時間が飛躍的に短縮されるわけではないんです。そういう意味では、トラックドライバーはこれからもニーズの高い仕事だと思います。
 でも、普通免許では準中型以上のトラックは運転できませんから、新たにトラックドライバーを目指そうとすると、まず免許取得の費用と時間がハードルになるでしょう。仕事内容も、詳細は一般にあまり知られていませんから、「求人情報の条件を鵜呑みにしていいものか」と、不安を覚える人もいるかもしれません。今回の働き方改革を業界全体のチャンスと捉え、人材がもっと入ってきやすいように環境整備を進めてほしいと思います。

「トラックめいめい」として今後、挑戦してみたいことはありますか。

 せっかく出身地に戻ってきたので、北海道の産業や地元企業を応援したい気持ちが強いです。フォロワーには北海道の豊かな自然はもちろん、物流にも興味を持ってもらえたらと考えています。
 正直、トラックドライバーは、就職先や転職先としてなかなか候補に挙がりにくい仕事だと思います。でも、私のように「やってみたら思った以上に合う仕事だった」という人はきっといるはずです。SNSや取材を通して、私がトラックドライバーの仕事や生活を伝えることで、進路に悩んでいる人の選択肢のひとつになれたら嬉しいです。それに、トラックドライバーの世界では、女性はまだ圧倒的少数派です。おかげで、応援してもらえることが多く、女性にとって意外に働きやすい業界だと思います。もし「トラックめいめい」としての活動を終えたとしても、この業界でトラックドライバーとして働き続けようと決めています。

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