トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.13

未来都市が現実に? スマートシティ発進

AIやビッグデータ、次世代送電網(スマートグリッド)技術などを活用し、渋滞解消や省エネなどを目指す先進都市「スマートシティ」。日本では国家戦略特区などの枠組みで導入が進んでおり、今年8月には、約600の自治体や企業、中央省庁、研究機関が参加して先行事例を共有する官民連携協議会も設立された。スマートシティが現実のものとなることで、私たちのくらしはどう変わるのか。

Angle A

前編

「幸せを実感する都市」を目指したい

公開日:2019/12/17

建築家

隈 研吾

ICT(情報通信技術)などのテクノロジーを活用し、さまざまな社会課題の解決を目指す未来都市「スマートシティ」。新しい国立競技場をはじめ、国内外で注目を集める建築の設計に携わる、建築家の隈研吾氏に、未来都市「スマートシティ」を考えるうえで、大切な視点とは何かを聞いた。

東京・神宮外苑に国立競技場が完成しました。もともと1964年の東京オリンピックの会場となった国立代々木競技場に影響を受けて建築家を志望されたそうですね。

 小学4年生の時、コンクリートの塔のような造形の国立代々木競技場の体育館を見て、すごく格好いいと感じ、「建築というものをやってみたい。建築家になりたい」と思いました。当時は、現在の渋谷駅や国立代々木競技場近くに低層の木造住宅がたくさん立っていました。国立代々木競技場を見て、それまでの街との対比のすごさに圧倒され、衝撃を受けたのです。ちょうど、それまでの「木の東京」から、「コンクリートの東京」に入れ替わる時期で、日本全体で見ても、「木の国」から「コンクリートの国」への転換が進んでいました。実際に、1964年以降、日本では高層建築物が増えています。

国立競技場は、木と緑にあふれた「杜(もり)のスタジアム」として、全47都道府県の木材を活用されています。著書でも「木のスピリッツを伝える建築物にしたい」と思いを明かされていますね。

 2020年は、「コンクリートの時代」から、また「木の時代」へ返るといいなあ、「高い建物ばかりの東京」からもう一度、「人間スケールの東京」に返るといいなあ、という思いがあります。20世紀の日本は、人口が増え高度経済成長もあり、そういう時代に生み出されたものの一つが、コンクリートと鉄の建築だと思っています。生き物としての人間は、もっとやさしい建築、地べたに近い建築を必要としているような気がしています。
 これからの時代、「生き物としての人間が必要とする都市」に戻すことが私の使命です。20世紀は、人工的な空間を大きくしていく志向にありました。しかし、今ではそれが必ずしも人間に幸せを感じさせるものではない、と多くの人が気づいています。人間の「幸せの定義」そのものが変わってきているのです。特に東日本大震災が、多くの人にとって「幸せの定義とは何か」といった気づきの大きなきっかけになったと感じています。
 新たな幸せは、「地べたに近く、より自然に近い」ということではないでしょうか。実際、世界中の人がこのことに気づいてきていると感じます。生き物として、人間が自然に地べたに近づきたいと考えているのです。特に若い人は、その方向に向かっていますね。彼らはノスタルジア的に惹かれているのではなく、身体的に惹かれていると思います。

【国立競技場のスタジアム内観。観客席は5色の椅子で「森の木漏れ日」を創出している】

写真提供:独立行政法人日本スポーツ振興センター

こうした変化の中、スマートシティを考える上で必要な視点とは何でしょうか?

 スマートシティというシステムは、20世紀とは違った合理性、効率性を目指さなければいけないと思っています。20世紀の合理性、効率性の考え方は、「大きな箱の中に、人間を規則的に詰め込んで効率的に仕事をさせる」といった形を目指していました。
 しかし、現在は、AIをはじめとする新しいテクノロジーによって、箱に詰め込まなくても、人間は効率的に楽しく仕事ができるようになっています。「ハードとしての効率性」から「ソフトとしての効率性」への転換を図らなければならないと思っています。
 最新のテクノロジーを使うことで、街を歩きながら、楽しく、効率的、合理的に仕事ができる、そういうことを可能にしてくれるのが、スマートシティだと考えています。

未来都市、スマートシティではどんな建築をイメージされますか?

 スマートシティは木との相性もいいと思います。現在はITが進化し、コンクリートの巨大オフィスではなく、木造の一軒家の小さな空間の中でも仕事ができるようになりました。低層の木造の建物が並んでいる路地のような空間の中でも、効率的に楽しく仕事ができるのがスマートシティですね。
人や車の移動に関するさまざまなデータを活用すれば、道路の幅が広くなくてもよかったり、オフィスも大空間でなくてもよい場合もあったりするでしょう。データの力を借りると、一見、不規則に見えても人間にとってすごく気持ちのいい空間ができるでしょう。
 国立競技場も、東京のあの場所に吹く風のデータを使い、自然の力を借りて、自然換気のような形で風を取り込んでいます。東京は地形が面白い都市です。また世界では、運河沿いや水辺の都市が発展していると思いますので、これからは東京も、人間の生活に近いところで水を感じられる街になってほしいですね。
※後編に続きます。

【神宮の杜にとけ込む国立競技場の外観。未来の街づくりに向けてさまざまなメッセージが込められている】

写真提供:独立行政法人日本スポーツ振興センター
くま・けんご 1954年生。東京大学建築学科大学院修了。大学院時代に、アフリカのサハラ砂漠を横断し、集落の調査を行い、集落の美と力にめざめる。コロンビア大学客員研究員を経て、1990年、隈研吾建築都市設計事務所を設立。これまで20か国を超す国々で建築を設計し、国内外で受賞多数。その土地の環境、文化に溶け込む建築を目指し、ヒューマンスケールのやさしく、やわらかなデザインを提案している。また、コンクリートや鉄に代わる新しい素材の探求を通じて、工業化社会の後の建築のあり方を追求している。
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