トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.49

日本を支える豊かな大地!共に北海道の未来を創る!

雄大な自然に絶品グルメと、国内外のツーリストから高い人気を誇る北海道。観光立国・日本を牽引する存在といえますが、北海道の日本での役割はこれだけにとどまりません。たとえば、食料の安定的な供給を確保する食料安全保障、2050年を目標としたカーボンニュートラルなど、実現のカギは北海道にあるのです!北海道の資源や特性を活かして我が国の課題解決を図るため、国は1951年から「北海道総合開発計画」を策定し、さまざまな取組を進めてきました。令和6年度から新たに「第9期北海道総合開発計画」がスタートします。豊かな資源に恵まれた北海道が、私たちの暮らしにどう関わっているのか、この機会にぜひチェックしてみてください。

Angle C

後編

北海道の先進的な取組が日本の課題解決のヒントになる

公開日:2024/3/29

国土交通省 北海道局

参事官付

川岸 秀敏、櫻庭 悠輔、早川 弘華

コロナ禍、ロシアのウクライナ侵略など激変する国際情勢、世界的なカーボンニュートラルへの流れなどを背景に、日本が抱える課題を北海道の資源・特性を活かして解決を目指すのが「第9期北海道総合開発計画」です。具体的な施策の内容や北海道の産業を発展させるための取組などについて、前編に続き国土交通省北海道局の川岸秀敏企画専門官、櫻庭悠輔主査、早川弘華さんにうかがいました。

「第9期北海道総合開発計画」では、どんなことを施策の要としているのでしょう。

川岸:計画では大きく2つの目標を設定しています。1つは北海道の強みである食、観光、脱炭素化への取組を強化し、日本の課題解決に貢献すること。もう1つは、北海道の価値を生み出す「生産空間」を維持・発展させ、安全・安心に住み続けられる国土づくりに貢献することです。

「生産空間」とは何ですか。

川岸:農業、漁業、観光、再生可能エネルギーなど、日本の課題解決に必要な価値を生み出す場を、北海道総合開発計画では「生産空間」と定義しています。
 北海道は都市間距離が離れており、さらに生産空間があるのは主に地方部で、農業や漁業などに関わる集落が広大な北海道の中に散在しています。集落内でも一軒一軒が離れていますから、いわば、2つの意味において「」の環境にあります。第9期計画ではこれを「二重の疎」と呼んでいます。

櫻庭:「疎」と聞くとマイナスのイメージを持つかもしれません。しかし、この「疎」の環境は、食料供給力が高く、観光資源に恵まれ、再生可能エネルギーのポテンシャルが高い北海道の価値を生み出す「恵まれた疎」でもあると考えています。

とはいえ、「疎」の環境には移動に時間がかかるなど、どうしてもデメリットがあると思います。

川岸:食料生産は「その場に住み続ける」、観光は「実際にその場に行く」という「リアル」が前提となりますから、リアルを支えるインフラが不可欠です。人口減少や少子高齢化が進む中でも、生産空間がその役割を果たすためには、こうした「疎」の不利な面を克服していかなくてはなりません。
 すでに、公共交通を確保するために自動運転のバスを走らせたり、人と荷物を同じ車両で運ぶ貨客混載を進めたりと、様々な取組が始まっています。さらに第9期計画では、地方部においても必要なサービスを享受できるようデジタル技術を最大限活用していくことがポイントになっていきます。

櫻庭:北海道は「疎」の地域構造に加え、全域が積雪寒冷特別地域に指定されるほど厳しい生活環境下にあります。人々の移動、食料や工業製品の輸送を円滑に行うためには、交通、物流のネットワークが必要であり、自然災害にも対応できるようその強靱化を急ぐことも第9期計画に盛り込んでいます。

早川:北海道の生産空間を支える産業を「持続的に」発展させていこうという考え方も、第9期計画のポイントとなっています。「食」に関していえば、今後も北海道が食料供給基地としての役割を果たすためには、農業や漁業の生産性を向上させる必要があります。農林水産業の就業者は年々減少し、高齢化が進んでいます。今後は、多様なニーズに応える供給や環境負荷の軽減を意識した生産が重要になってきます。デジタル技術を活用したスマート化等によってこれらの課題を解決することはもちろんのこと、農林水産業を支える農村、漁村のインフラ整備や地域の振興が欠かせないと考えています。

デジタル技術の活用がポイントの1つのようですね。少子高齢化が進む日本のヒントにもなるような気がします。他にはどんな施策があるのか、具体的に教えてください。

櫻庭:北海道の広大な土地と豊富なエネルギー資源を活かした、再生可能エネルギーの導入・利用拡大に取り組んでいます。
 新千歳空港から車で15分ほどの距離に苫小牧とまこまい東部地域、通称「苫東とまとう」と呼ばれている大きな産業地域があります。面積はおよそ10,700haと山手線内側の1.7倍の広さです。緑地も3,200haほどある自然豊かな地域ですが、そこでカーボンニュートラルな産業地域を目指す「苫東GX HUB構想」を提言し、実現に向けて動き出しています。
 この構想では、広大な土地を活かし太陽光等の再生可能エネルギーを導入して電力消費によるCO2排出をゼロにし、化石燃料を使用する工場のボイラーなどから発生するCO2は、燃料を余剰電力で生成した水素に転換することで削減します。それでも削減できない残りのCO2は貯留・利用(CCUS(※))することで、苫東全体でCO2を排出しないクリーンな産業地域を目指します。このような北海道の特性を活かしたスケール感のある施策を今後も打ち出していきたいです。
 ※「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」の略。発電所や化学工場等から排出されたCO2を、ほかの気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧入、また、分離・貯留したCO2を利用する技術。

出典:国土交通省提供「苫東GX HUB構想」

早川:私からは北方領土隣接地域の振興についてご紹介します。北方領土の島々を望む根室市、別海町べつかいちょう中標津町なかしべつちょう標津町しべつちょう羅臼町らうすちょうの1市4町は北方領土返還要求運動の拠点となる重要な地域で、北方領土の元住民も多く住んでいます。
 この地域は雄大な自然、多くの野生動物、酪農や水産業の特産物など、さまざまな魅力にあふれており、北海道局ではインフラの整備や持続可能な観光地づくりの支援などに取り組んでいます。
 私も先日、この地域にうかがったのですが、改めて北方領土までの距離の近さに驚くと同時に、多くの牛が放牧されている広大な牧草地など「ザ・北海道」な風景に感動しました。海鮮や乳製品をはじめ食事も最高なので、ぜひ全国各地からこの1市4町に足を運んでいただきたいと思います。

川岸:北海道総合開発計画を特徴付けている施策の1つに、アイヌ文化の振興があります。北海道の先住民族であるアイヌの人々は、アイヌ語をはじめ独特の文様による刺繍、木彫り工芸など固有の文化を発展させてきました。そうしたアイヌの人々の誇りが尊重される社会の実現に向けて、北海道総合開発計画でも以前からアイヌ文化の振興、知識の普及啓発、アイヌの人々が住む地域の振興、観光振興などに取り組んでいます。
 新千歳空港から車で約40分の白老町しらおいちょうには、アイヌの歴史・文化を学び伝えるナショナルセンターとして「ウポポイ(民族共生象徴空間)」が2020年にオープンしました。アイヌをテーマとした日本初の国立博物館「国立アイヌ民族博物館」が創設され、フィールドミュージアムの「国立民族共生公園」では、アイヌの舞踊鑑賞、工芸技術や楽器演奏が体験できます。また、アイヌ伝統料理やスイーツも食べることができ、季節ごとに多彩なイベントが開催されています。
 ウポポイを訪ねていただくことで、多くの方がアイヌの文化や歴史に親しみ、理解するきっかけになればと思います。私も以前うかがいましたが、2~3時間では足りないほど充実した空間でした。近くには登別温泉もあり、ちょっとした旅行としても楽しんでいただけると思います。

最後に、第9期北海道総合開発計画の策定に携わられた感想や、印象に残っているエピソードなどを教えてください。

川岸:私は第9期計画の根幹となる計画本文の作成に関わる各府省や省内の協議、各関係課との調整を主に担当しました。多種多様な意見のとりまとめ、計画への反映など、大変なことも多かったですが、閣議決定された今は、大きなやりがいと達成感を感じています。何よりも、この計画に関わった人たちは北海道のことが本当に好きなんだなと、改めて実感できたことが嬉しいです。

櫻庭:印象に残っているのは、2023年2月に次世代半導体の国産化を目指す企業の工場の建設地として、千歳市が選定されたことです。次世代半導体は、AIなどを含むさまざまな分野で大きなイノベーションをもたらし、日本の半導体産業の発展はもちろん、デジタル化、カーボンニュートラル、さらには経済安全保障の鍵にもなる極めて重要な中核技術です。千歳市でのプロジェクトは、北海道では過去最大の企業投資案件で、経済波及効果が2036年度までの累計で最大18.8兆円に達すると試算されています。熟考の末、これほどのビッグプロジェクトを計画に盛り込めたことは嬉しく思います。苫東ともほど近いですから、新たな工業の集積地となることが期待できます。

早川:北海道総合開発計画は国が策定した計画ということで堅苦しくて、縁遠いイメージがあるかもしれません。しかし、食料問題やエネルギー問題など、実際には非常に身近な問題を扱っています。北海道の未来を皆さんと共に創っていける計画だと思いますし、北海道の魅力・特性を日本の課題解決に活かそうという計画でもあります。道民の皆さんはもちろん、より多くの方にこの計画を知っていただきたいと思います。

川岸:計画は出来上がって終わりではありません。それぞれの地域の皆さんが、一緒にこの計画の実効性を高めていくことが大事です。道民の皆さんや北海道の事業に関係する方にとって、北海道総合開発計画が「自分たちの暮らしや事業についても書かれていて、国がしっかり応援しているんだ」と感じられる、いわばバイブルのような存在になると嬉しいです。

 2024年3月12日、「第9期北海道総合開発計画」が閣議決定されました。本計画の存在を入省するまで知らなかったという人は、実は『Grasp』編集部にも少なくありません(大きな声では言えませんが)。我が国が直面する諸課題の解決に貢献するという同計画を通じて、北海道が担っている役割の大きさについて、広く読者の皆さんに知ってもらえたらと、今回のトリアングルのテーマとしました。
 農業への造詣が深いタレント・俳優の森崎博之さんには、本計画の柱である「食」「観光」を中心に話をうかがいました。北海道農業を持続させるために北海道民や消費者はどうすべきか、非常に熱く語ってくださいました。北海道知事の鈴木直道さんからは、本計画の新たな柱である「脱炭素化」をはじめ、再生可能エネルギー、次世代半導体など国に先駆けて進められている事業等についてうかがいました。そもそも日本のゼロカーボンは北海道無しには達成できないとのお話に、改めて北海道の取組の重要性を実感しました。本計画の内容については、その策定に携わられた国土交通省 北海道局 参事官付 川岸秀敏さん、櫻庭悠輔さん、早川弘華さんにご説明いただきました。北海道、そして日本全体の豊かな暮らしを支えるため作成されたこの計画は、まさに担当者の方々の北海道へのビッグラブの結晶と言えそうです。
 次号のテーマは「2024年問題」。これまで猶予期間が設けられていたドライバー、建設業、医師などの働き方改革がいよいよスタートする中、今なお多くの課題を抱えているとされる物流業界に焦点を当てて話をうかがいます。(Grasp編集部)

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