トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.34

持続可能な社会へ!建物の木造化がもたらすもの

近年、国産木材を建築物などに活用する動きが広がっています。大気中の二酸化炭素を取り込んだ樹木を木材として固定することで、大気中の二酸化炭素量の削減につながります。また、森林の有効活用は、山や森の機能を回復し、土砂災害防止や洪水の緩和などが期待できます。そして木材がもつあたたかさは、利用する私たちに癒やしや安らぎを与えます。住宅から公共建築物、中高層ビルまで、木造の魅力と可能性について考えます。

Angle B

後編

木造建築の魅力を次世代に

公開日:2022/3/4

栃木県茂木町

副町長

小﨑 正浩

茂木町の町有林は、先人の努力によって守り育てられてきたものです。茂木町では、その精神を継承する活動が続けられています。町内すべての小中学校や公共施設の木造・木質化を通して、木造建築の魅力を発信する茂木町の姿について、小﨑正浩副町長に語っていただきました。

公共施設に木材を利用することには、どんな意味があるでしょうか。

 木材は、循環型社会形成のための持続可能な資源です。
 平成22(2010)年に木材利用促進法ができ、国産材の利用率が20数%から40数%に伸びました。戦後植林された木が今、伐採期を迎えています。この法律によって木材を公共施設が率先して活用できるようになったことは素晴らしいと思います。
 さらに、昨年(2021年)の改正によって民間にも適用することになりました。公共施設の木材利用は、民間に対するサンプルの役割も果たすことになると思います。「ふみの森もてぎ」は、ある程度の規模以上の建物はRC造で建てるしかないのではなく、木造という選択肢もあるのだということを示す一例になるのではないでしょうか。

今後、建物に町有林を活用するなど、木材を利用していく予定はありますか。

 「前編」で触れた茂木中学校をはじめ、茂木町では、町内のすべての小中学校の木造・木質化を完了しました。ほかにも町役場、町民センター、町民ホールなど、ほとんどの公共施設は町有林を活用した木造または木質化の施設となっています。「やれるものは全部やった」……と考えていますが、年間300万人の利用者があり「全国道の駅モデル」にも選定された「道の駅もてぎ」も建て替えの時期が近づいていることから、そのときはぜひ木造・木質化にしたいと考えています。

次世代のための植林など、森林を保全していくことも大切ですよね。

 茂木中学校の改築には、間伐材を使用しました。樹齢60年~90年の成熟した人工林で、山の材積量の3割以内を「上層間伐」という、太くていい木を間伐し、細くて年輪の詰まったいい木を残すというやり方で間伐しました。残した木は成長を重ね、将来有効に利用することができます。
 茂木中学校では「緑の少年団」と称して、生徒たちによる植林も行っています。植林した場所は、毎年保護者と一緒に下草刈りをするなど保全活動も継続しています。この活動は、文部科学大臣賞、国土交通大臣賞、内閣総理大臣賞を受賞、平成28(2016)年には春の叙勲で緑綬褒章を受章しました。
 木造の校舎を建築し、大切に使い続けているだけでなく、自分たちの手で植林をし、毎年手を入れて守り続けている。そんな活動を続けているので、茂木中学校の生徒は、木の種類に詳しい。そういうトータル的な教育実践が評価されたものと思います。

子どもたちによる植林活動

提供:茂木町

茂木町には歴史を大切にする風土があり、さらに森を育てていくという、長いスパンを見据えた活動をされています。

 茂木町の町有林は、先人が植林を続け、下草狩りや枝打ち、間伐作業を行い、大切に管理し守り続けてきた財産です。
 今回「ふみの森もてぎ」のために伐採した山は、大正2(1913)年に現在の茂木町の南部地区(旧逆川村)に当たる村の村長さんが、村を無税にしたいという理念を掲げ、山に木を植えたことに始まります。その結果、村の財政や村民の生活は豊かになり、小中学校5校が建てられたり、郡内で一番早く体育館ができたりするなど、教育環境が整備されました。全国に3000以上の自治体があった当時、全国優良自治体にも選ばれました。
 今回、祖父母世代の方々が木を伐り出した木材を見て、「昔自分たちがお世話をした木かもしれない」と涙を流される姿を目にしました。
 私たち世代で使わせてもらった木材には、そのような背景があります。だから今度は、それを後世に伝えていく役割があるのです。行政とは、学校教育とは、そういうものを担っていくことにほかなりません。

木を守り育てていこうという意識が地域の中に古くから根づいているのですね。木に関する知識や知恵も長年受け継がれてきたのでしょうか。

 そういう知恵を持っている年輩の方を「町有林アドバイザー」に任命して、さまざまなことを教わっています。丸太をストックして自然乾燥させるときも、風向きや丸太の置き方によって、乾燥具合が変わります。茂木町で家を建てるときには、どの山のどのあたりの木を切ればよいということまでアドバイスしてくれる方がいました。
 ただ、そうした知恵の伝承は、もう限界のところまで来ています。これを今後どう継承していけばいいのかは、大きな課題です。

「町にとって林業に携わる人は大切な財産です」

提供:茂木町

最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

 最近、若い方も林業に興味を持つようになりました。栃木県でも木の勉強をしたい、木に関係する仕事に就きたいという人は増えています。栃木県では、令和6(2024)年に「林業大学校」を開設する予定で、林業人材の育成と就労への橋渡しをしていきます。
 SDGsの17の目標のうち、木に関連のあるものは6項目にのぼります。
 木材の利用は循環型経済を推進します。木を使うことで、その分化石燃料の使用を抑制することができ、環境への負荷を軽減できるのです。
 戦前までの日本の建築は木造が中心でした。ところが戦後、建物の耐火基準が厳しくなり、住宅以外の木造建築物が消えていきました。木造は本来、温もりがあり、居心地がよくなる建物です。追究すれば奥が深く、自由度も幅広いためいろいろな表現もできます。
 最近、少しずつではありますが、都市部でも木造の建築を目にするようになってきました。木造の建物こそ、SDGs、カーボンニュートラルの最先端です。
 建築の勉強というと、どうしても鉄骨・鉄筋が中心になるのが現状ですが、木造建築にはさまざまな可能性があるのだということを知ってほしいと思います。興味のある方はぜひ「ふみの森もてぎ」にお越しになり、木造建築のすばらしさを体感していただければ幸いです。

インタビュー一覧へ

このページの先頭へ