トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.29

ロボットの目に映る「物流の未来」

コロナ禍でステイホームの時間が増え、ネットショッピングなどの電子商取引が急激に拡大したことで、物流の需要過多や人手不足に拍車がかかっている。新型コロナウイルスの感染拡大防止や、頻発する自然災害への対応を視野に入れた物流の改善施策としてもデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が急務だ。サプライチェーンの中核を担う物流業界はどう対応し、変化していくのか、ドローン、ロボット配送など消費者にも身近な最新動向を通じて読み解く。

Angle A

後編

愛されるロボットが街を変えていく

公開日:2021/5/14

株式会社ZMP

代表取締役社長

谷口 恒

無人宅配ロボ「DeliRo®(デリロ®)」、歩行速モビリティ「RakuRo®(ラクロ®)」、無人警備・消毒ロボ「PATORO®(パトロ®)」など、ZMPが展開するロボットたちの特徴は目力で意思を伝えるというデザインコンセプトにある。ZMPの谷口恒社長は「ロボットが街に溶け込むには、愛されることが重要です」と語っている。

宅配を支援するデリロの特徴を教えてください。

 「デリロ®」は人が歩く程度の速度で走行する歩行速自動運転のロボットです。最大速度は時速6㌔に抑えています。複数のカメラやレーザーセンサーを利用して周囲の通行人を検出し、自動で回避したり、障害物の手前で安全に停止する機能を持っています。最大の特徴は、声で存在を知らせたり、道を譲ってもらうようお願いをすることができることです。ロボットが人と共生するには、「謙虚に、健気に、愛らしく」することが極めて重要になると考えています。

愛されるためのコツは何ですか?

 ZMPのロボットはすべて私が自分でデザインしていますが、機能性を追求した従来の工業デザインではなく、社会全体をデザインするという考えに基づいています。2016年4月、東京藝術大学の博士課程に入り、宅配ロボットの研究を始めました。ロボットと社会との関わりや、社会に溶け込むためのロボットのデザインが大きなテーマになりました。最初は、機能を中心とした大きめのシンプルな荷物を運搬するロボットを3台作って実験をしていたのですが、狭い道に差し掛かかり、ロボットが向かってくるのを見ると人間のほうが避けてしまいます。ロボットがどうしようとしているかがわからないからです。人間が道を譲っているのに、ロボットが何知らぬ様子で通り過ぎると、良い気はしません。今の世の中は、シンプルでクールなデザインが主流ですが、ロボットが街に溶け込もうとすると、すまし顔ではいけません。そこで、アイコンタクトで意思を表現するために目を付けました。

【慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパスでコンビニ弁当を配送するDeliRo】

※ZMP提供

反応はどうでしたか?

 ぱっちりした目の可愛いデザインですが、藝大の教授会の審査で先生方から「ダサい」と言われてしまいました。「玩具じゃないから、目はいらないのではないか」と。これに対し、ロボットにとっては目が重要だということを論じたのです。ZMPのロボットの目は、ずっと動いています。直進しているときは、瞳がぐんぐん大きくなり、勢いよく進んでいることを示します。左右に曲がるときは、目が曲がる方向へと動き、方向指示器の代わりをします。人間とすれ違う時には愛想良くします。目が合ってウインクすると、道行く人たちは「可愛い」と言ってくれます。道を譲ってほしい時は、目を潤ませて「譲ってほしい」という気持ちを示します。それでも譲ってくれないと涙の量がどんどん増えていくのです。佃・月島の街では、ラクロは人気者です。男の子たちが面白がって道をふさぐと、女の子たちは「ラクロはお仕事中だから邪魔しちゃだめ」と言ってくれます。デザインした者としてはこんなにうれしいことはありませんでした。

無人運転の実現が、運送業者にプラスになりますか?

 自動運転が実現すると、運転手が仕事を失うのではないかといった指摘がありますが、そんなことはありません。共存して、収益性を上げていくことを目指すのが自動運転です。大手タクシー会社数社の代表の方々には、既に自動運転タクシーに試乗していただいているのですが、なかには「無人タクシーを導入することで収益を上げ、その分をドライバーに還元したい」と言う経営者もいました。無人タクシーは、眠っている資産を活かし、人がやるには効率や条件が悪い部分を補うことで、収益性を上げ、労働環境を改善することで事故の発生を防ぐことがタクシーの目標です。すでに実用化している物流支援ロボット「CarriRo®(キャリロ)」は、その効果を発揮しています。倉庫や工場で人が歩いてモノを運ぶ部分をキャリロが担うことで、効率が上がり、生産性が向上します。移動距離が長ければ長いほど、生産性向上の寄与度も高まります。地方の公共交通機関の利用が減少している問題も、「ラクロ®」によって解決が可能です。バス停や鉄道の駅までの道のりが遠いために、人々はマイカーなどに頼ります。例えば、「ラクロ®」がバス停や駅までの道のりをつなぐことができれば、既存の交通機関の利用者も増え、それに対応するために便数も増えていくはずです。日本でMaaS(全ての交通手段による移動を1つのサービスとして捉え、シームレスにつなぐこと)を進めていくカギは「ラクロ®」が握っていると考えています。

【RakuRo®の利用ケース】

※ZMPのHPから引用

ロボットと人間が共存できる社会とは?

 日本の道路事情は、アメリカ・カリフォルニア州の広い道路とはかなり違います。東京のような狭い道でトンネルも多い複雑な道路事情で自動運転を実現するには、技術的にハードルが高いです。人命を預かる責任の重い仕事であり、安全性の確保が第一であり、早期に実現するには専用道路化するべきであり、少なくとも優先道路化することが重要です。急がば回れで、道路環境から変えていくことが、自動運転の技術開発も早く、クルマの開発にかかるコストも抑えることができるはずです。自動運転の専用道やレーンが増えてくると、自分が運転するのが好きな人だけの専用レーンをつくるようになるかもしれません。また、歩行速ロボ®を開発していると、歩行者目線で街を見ます。すると、一番困るのは自転車です。東京は自転車道路を設けている場所もありますが、路上駐車があって、危なくて使う利用者も少ないです。ロボットが増えてくると、自転車と共生するのは難しいので、ヨーロッパのように自転車道路を明確に分離する街づくりが必要です。故郷の兵庫県姫路市では、「歩いて楽しい街づくり」の実証実験が行われています。自宅までのラストワンマイルが歩行者優先になれば、ロボットと人間が共存できる豊かな街になると思います。

読者にメッセージを御願いします。

 新型コロナウイルスの感染拡大で、世界中で行き場のない不安や不満が渦巻いています。しかし、こういう時にこそ、イノベーションが起こるのだと思っています。未来に明るい希望を持ち、楽しい夢を抱いて、実行していけば、平時の時よりも成功するチャンスは大きいのです。メディアの暗いニュースに流されるのではなく、自分の価値観を持って、思い切って世の中と逆の方向に歩いてみるのも良いと思います。(了)

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