トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.11

「空飛ぶクルマ」もう夢じゃない!

次世代モビリティの柱として注目を集めているのが「空飛ぶクルマ」だ。これまで、アニメや書籍等で未来の乗り物として語られてきたが、近年、国内外の企業が実用化に向けた開発を進めている。国内でも政府が2023年の事業開始を目標に掲げ、企業と自治体も連携して産業化に向けた取り組みを推進するなど、活発な動きを見せている。空飛ぶクルマ社会が実現すると、世の中にどのような変化がもたらされるのかを探る。

Angle A

前編

2020年夏、TOKYO上空に注目!

公開日:2019/10/8

株式会社SkyDrive

代表取締役

福澤 知浩

世界各地で開発競争が展開されている「空飛ぶクルマ」。既存の地図にとらわれず、自由に空間を突き抜け、目的地へと向かう未来の移動手段だ。近年の情報技術(IT)の発達や、機体に使用する部品の小型化により、実用化に向けた期待が高まっている。その開発に先進的に取り組んでいる企業の一つが株式会社SkyDrive(スカイドライブ)だ。同社代表取締役の福澤知浩氏に、進展状況などについて聞いた。

御社の開発状況について教えて下さい。

 弊社は、2018年7月に生まれた新興企業(ベンチャー企業)で、空飛ぶクルマの社会の実現を加速すべく、主に機体の開発製造を行っている企業です。空飛ぶクルマが日常生活で使われ、産業としても成長できるような礎を築きたいと考えています。すでに、今年の1月までに現在開発している機体の5分の1の大きさの機体による無人飛行を実現し、1分の1の機体による安定飛行、安定走行の試験を完了しました。今年末までに、有人飛行の実験を始めるべく、目下、開発を進めています。

来年、その姿が見られるのでしょうか。

 東京五輪が開かれる年ですね。夏にデモフライトを東京で披露することを目標にしています。現在、主に愛知県豊田市で機体の製作を進めています。豊田市との協定によって5000坪ほどの土地を借り、そこで開発と試験飛行をしています。開発で最も大事なことの一つは、試験飛行の回数を増やし、機体開発に向けて改良を繰り返していくことです。目下開発のスピードを加速しています。私も多くの時間を豊田市の拠点で過ごしています。現在注力しているのは、確実な安全性能の向上です。これまでの100回以上の無人機による試験で事故が起きたことはありませんが、年内の有人機による試験開始を控え、より一層の安全性能を目指しています。

どんな機体を開発しているのでしょうか。

 2人乗りの小型の機体を目指しています。まずは操縦士が自分で操縦するタイプのものを開発しますが、最終的には自動操縦方式で、操縦士がいなくても自動操縦で目的地に行けるタイプを目指します。その中でも緊急時には人が操縦できるようにしようと思っています。現在の旅客機は離着陸時に操縦士が操縦していますが、それ以外は自動操縦を活用しています。その形に近い方式です。
 なぜ小型のタイプを目指しているかというと、日本、そしてアジアの特性を考慮しているためです。自動車でも日本製はコンパクトカーが、アメリカ製などは大型車が多いですよね。狭い国土に多くの人が住んでいるところでは、小型が受け入れられやすいと考えています。
 例えば、タイやインドネシアでの交通渋滞は世界で最も深刻です。渋滞を回避するために空飛ぶクルマは有効だと考えていますが、機体が大きいと、空港のような広大な離着陸設備が必要になります。わざわざ空港まで行くのであれば、空飛ぶクルマを日常的に使うことができないでしょう。アジアのような条件下では、身近な狭い空間でも離着陸できるような小型の機体が求められるのです。また、空飛ぶクルマで目的地に行くまでには、離着陸ポートの利用が必要です。目的地にダイレクトに移動できるよう、地上を走行できる機能も兼ね備えた移動手段を目指しています。

【SkyDrive「空飛ぶクルマ」の模型】

スカイドライブが構想している空飛ぶクルマの模型。都心の空を舞う日は遠くないという

空を飛ぶことは怖くないですか?

 既存の飛行機でも怖いという人がいるように、空飛ぶクルマが怖いという人もいるかもしれません。ただ、航空機の死亡事故は、自動車事故と比べてもだいぶ少ないです。私たちは、「怖い」と思われないような乗り心地や、外観を追求していこうと思っています。必要以上に恐れることはないと思っています。既にドローンの技術は確立していますので、その機能の半分、もしくは3分の1ぐらいを応用することで、空飛ぶクルマはできると考えています。
 ただ、機体はドローンよりも大きいので、機体の剛性などで難しいところがあります。例えば4か所に八つのプロペラがあり、それぞれの回転する速さを独立して制御しています。ドローンのようにサイズが小さいと、気象条件の変化などに対応して、各プロペラの制御で安定させることは難しくありません。しかし機体の大きさが2倍になると、不安定さは4倍になります。そこを安定させなくてはなりません。フレームの剛性を高め、軽量化と両立していくことが課題です。ドローンと違って、人命に直結するので、航空機レベルの安全性を維持しなくてはなりません。強風や大雨の時など、気象条件によっては、飛行が難しい場合もあるかもしれません。

私たちが購入できるのはいつ頃になりますか?

 2023年の販売開始を目標にしています。最初の価格は3000万~4000万円程度になりそうです。その時は、個人向けに販売するというよりは、サービス事業者向けになると思います。タクシーのように2地点間で人を乗せて運行し、運賃を支払ってもらうという形から、スタートすることになるのではないでしょうか。まずは都市部の沿岸部から飛行開始できればと思っています。比較的高価でも確実かつ迅速な移動をしたいという需要は、都心部に多くあると考えています。
 いずれは東京の空にいくつもの機体が舞うような時代が来ます。その際、多くの機体が安全な形で飛行するために、ある空域全体に飛行する機体を管理する「航空管制」のようなものが必要になってきます。既存の飛行機やドローンの管制分野で日本トップレベルのNECと我々が協力し、数多くの機体が空に飛び、空の道ができる時に、安心で快適に飛行できる環境を作っていきます。
※後編は10月11日(金)に公開予定です。

ふくざわ・ともひろ 東京大学工学部卒業後、2010年4月にトヨタ自動車に入社。自動車部品のグローバル調達に従事。同時に多くの現場でトヨタ生産方式を用いたカイゼンをし、原価改善賞受賞。2017年1月に福澤商店株式会社を設立。数十社にて経営コンサルティング、現場改善コンサルティングプロジェクトを実施。このうち2社は役員として経営参画。 トヨタ在籍時代に有志で始めた『空飛ぶクルマ』の開発活動『CARTIVATOR(カーティベーター)』の共同代表を務める。開発加速と事業化を見据え、2018年7月に株式会社SkyDriveを設立し、代表取締役に就任。
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