トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.39

デジタルは日本の救世主足り得るか?

コロナ禍以降、日本でも急速に進み始めたデジタル化。今やキャッシュレスオンリーの店舗もあり、テレワークが基本の企業も続々と増えています。こうした流れを受け、国土づくりの指針となる新たな国土形成計画の検討を進めており、今年7月に公表した中間とりまとめでは、東京一極集中の是正や地方から全国へのボトムアップの成長に向け、「デジタルの徹底活用」を挙げています。とはいえ、具体的にどう活用すれば良いのか、悩んでいる人も少なくないはず。そこで、一足早くさまざまな課題にデジタルを用いて取り組んでいる方たちにお話をうかがいました。

Angle C

後編

縦割りからの脱却が、人口減少に悩む日本を救う

公開日:2022/11/7

国土審議会計画部会委員 東京大学未来ビジョン研究センター客員教授

西山 圭太

「人口減少という日本の課題を解決するには、デジタル化がひとつのポイント」と西山圭太さんは話します。世界的にも日本のデジタル化は「周回遅れ」と言われる中、どうすればデジタル化を進めることができ、デジタル化が進むことで社会はどう変わっていくのか。さらに、地方の再生を担う「ローカルマネジメント法人」とはどういうものなのか。前編に続きお話を伺いました。

国土形成計画」の「中間とりまとめ」で、すべての課題に共通して取り入れるものに「デジタルの徹底活用」が挙げられた背景を教えてください。

 デジタル化がなぜ日本にとって大きな意味があるかというと、人口減少だからです。
 今、デジタル化が叫ばれ、世の中が変わろうとしているのは、サプライサイドとデマンドサイドそれぞれに要因があり、サプライサイドの要因は、単純に技術ができたということです。では、技術ができたからデジタル化をするのかといったら、それだけではなくて、人口減少の中で多様なニーズに応えることが求められているという、デマンドサイドの要因があるからです。

つまり、人口が減る一方で、サービスには多様化が求められているということですか。

 たとえば医療でも、人によってかなり違うサービスを提供する必要があります。もし、人が受けなくてはならない医療行為が基本的に同じならば、あるいは、人口が減少していないのであれば、必ずしもデジタル技術に頼らなくても良い。人間の手で十分に賄えます。
 しかし、現実はそうではありません。少ない人手でバラバラなデマンドに応えるには、デジタル技術でさまざまなサービスを横割りで兼ねていかないと、とても維持できません。だから、日本はデジタル化を進める必要があるし、進めないといけないわけです。

縦割りの思考が原因で、日本のデジタル化がなかなか進まないというお話でした。

 デジタル化を進めるには、まずは組織が縦割りから横割りへと変わる必要があります。成功事例のひとつに、旭鉄工株式会社というトヨタ自動車の一次下請けの会社があります。ここの工場には30~40ほどの自動車部品のラインがあるのですが、そこに市販のセンサを取り付け、ラインが動いているか止まっているかをリアルタイムでわかるようにしました。データをクラウドに送り、経営ダッシュボード(※)のような感じで表示するようにしたのです。

 ※企業内のビッグデータの中から経営に必要なデータを抽出し、わかりやすく可視化した画面。

それでどんな効果があったのでしょう。

 それまでは、現場でラインが止まると、オペレーター、主任、係長、課長、部長といった順番で、縦割りで報告が行われていました。そのため、社長が知るのはずいぶん時間が経った後。しかも、伝言ゲームになっていますから、情報の正確性も心もとないものになっていました。これでは、迅速で的確な意思決定はできません。そこで、ラインの状況をリアルタイムで可視化できるようにし、何かあった場合は社長がすぐに現場へ行って、指示を出すことができるようにしたわけです。
 さらに旭鉄工では、その情報をすべてのラインで共有できるようにしました。すると、それまでは不具合が起こっても、自分が働いているライン以外は無関係としていた社員が、「同じことが自分たちのラインでも起こるかもしれない」と考え、改善につながるアクションを起こすようになりました。

改善につながるナレッジが共有され始めたわけですね。

 それだけではなく、社員が公平感を感じられるようにもなったと言います。それまでは各ラインが縦割りで分かれていて、お互いの状況がわからないものですから、ひとつのラインが社長から褒められたりすると、「何であいつらばかり。俺たちだってがんばっているのに」と不公平に感じたりしたそうです。それが、横の状況を見える化したことで、「なるほど、だからあっちのラインは評価されるんだ」と納得できるようになったわけです。

縦割りでは気づかなかったことが横割りによって見えてきた、と。

 旭鉄工は特に難しいことは何もしていないんですよ。単に工場のオペレーションを横割りで見える化しただけ。簡単なことですが、そうした横割りの仕組みこそがデジタル化にとって一番大切なことでもある。旭鉄工はそこをまずできるようにしたわけです。

センサもわざわざ固有に開発したとかではなく、市販のものを利用されていますし、他の企業も参考になりそうです。

 ちなみに、これを主導したのは若手社員でした。彼らはデジタルネイティブであり、普段からデジタルデバイスで世の中の事象にアクセスしています。デジタルはもともと横割りの仕組みですから、彼らには自然に横割りの発想が身についているのだと思います。だから、タブレットで工場全体の状況を把握するにはどうしたら良いかを考え、工夫した。それは別に専門的なナレッジがなくてもできるんです。

デジタル化は今後どのように進んでいくと思われますか。

 デジタル化が進めば、将来的にはいろいろなサービスが横割りでつながるようになるでしょう。
 国土形成計画の中間とりまとめでは、「地域生活圏」の構築を方針に掲げています。自治体の垣根にこだわらずに、日常生活の基盤、日常の都市的機能で圏域を考えようというものです。そのマネジメントには官民の中間のような存在が必要になります。横割りが進めば、複数のビジネスを兼ねる企業が出てきて、交通、医療、教育といったエッセンシャルなサービスを提供するようになる。その事業主体は完全な民間ではなく、住民が関与、監視をするある程度の公的なステータスを持っていた方が良いわけです。国では「ローカルマネジメント法人」という新たな枠組みも視野に入れて検討しようとしていますから、今後はそのローカルマネジメント法人のような主体が官民の中間的な役割を担い、地方のデジタル化を推進していくようになるのではないかと思います。

※国土審議会第4回計画部会(2022年1月27日)資料2「西山委員資料」から

これからは、本当に官民が分けられなくなっていくのですね。

 人口減少の影響が大きい地方の課題解決は、優先順位の高いテーマです。そして、デジタル化は地方の課題を解決するのにすごく向いています。なぜなら、地方は業務を横割りにして兼ねるようにしていかないと生活基盤を維持できないし、横割りはデジタルが最も得意とするところだからです。
 大都市にある企業や役所は基本的に大きいところが多く、縦割りの秩序が強固です。しかし、地方の場合はそれが薄い。経営者が決断すれば比較的容易に変えられますから、実は、地方のほうがデジタル化は進みやすいです。地方にこそデジタル化の挑戦の場があると言えるでしょう。

国土形成計画(全国計画)中間とりまとめ(国土交通省HP)
https://www.mlit.go.jp/report/press/kokudoseisaku03_hh_000236.html

 コロナ禍以降、日本のデジタル化の遅れを実感した人は少なくないと思います。先日発表された、スイスの国際経営開発研所(IMD)による「世界デジタル競争力ランキング2022」でも、日本は過去最低の29位(ランキングの対象は63カ国・地域)。ちなみに1位はデンマークで、アジアは4位シンガポール、8位韓国、11位台湾、17位中国という結果でした。
 今回の「トリ・アングルINTERVIEW」でも、こうした日本の厳しい現実を、ベストセラー『シン・二ホン』の著書でもある安宅和人さんが指摘。企業や個人がサバイブするためのアドバイスをくださいました。国土審議会計画部会のメンバーでもある西山圭太さんは「デジタル化」の考え方をわかりやすく解説してくださり、職場のデジタル化に悩む方には大きなヒントになったと思います。今、まさにデジタル化を推進中の自治体としてご登場いただいたのが、高松市役所の皆さんです。企業や市民のニーズとずれないサービスを実現するための取組や考え方は、民間企業にも参考になるのではないでしょうか。
 次号のテーマは、インフラとして人々の生活を支える「橋」。都市計画の鍵を握っていたり、観光名所であったり、伝説や物語の舞台だったり、橋の持つさまざまな顔に迫ります。(Grasp編集部)

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