トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.33

輝け!水の中のスペシャリスト

海に潜り、人命救助や捜査活動を担う海上保安庁の潜水士。彼らをモデルにしたテレビドラマ『DCU』には、水中という過酷な環境でさまざまな試練や困難に立ち向かう潜水士たちの姿があります。潜水士を描くこと、そして潜水士を演じることの裏側にはどんな挑戦があるのか―舞台となる海上保安庁の業務とともに紹介します。

Angle A

前編

国を越えたチームで新ジャンルに挑む

公開日:2022/1/18

株式会社TBSテレビ

ドラマ『DCU』プロデューサー

伊與田 英徳

2022年1月スタートのTBS日曜劇場『DCU』。海上保安庁に新設された水中の捜査に特化した架空の組織「DCU(Deep Crime Unit)」を舞台に、潜水士たちの活躍を描くオリジナルドラマです。『半沢直樹』シリーズや、『ノーサイドゲーム』『グランメゾン東京』など数々のヒットドラマを手がけてきた伊與田英徳プロデューサーに、ドラマ制作の裏側やチームづくりへの思いを聞きました。

「DCU」という架空の組織はどのようにして生まれたのでしょうか。

 大元は、カナダを中心に世界市場に向けたテレビシリーズの開発・制作・配信を手掛けるファセット4メディア社のプロデューサーがNYPD(New York City Police)内にある海に特化した警察組織をモチーフに考えたものだそうです。それを世界的大ヒット作『ホームランド』のオリジナル版などを手掛け、世界でも群を抜いた番組制作・販売実績のあるケシェット・インターナショナル社と共同で企画として育てました。それをどこの国でドラマ化するかという時期に、僕がその情報を知って手を挙げ、TBSと両社との共同制作という形で実現することになりました。
 海外では海に特化した警察は珍しいようですが(海軍はありますが)、日本には海上保安庁というしっかりした組織がある。だから『海上保安庁物語』にしてもよかったのだと後になって気づいたんだけれど(笑)。ドラマというのは常に何か“新しさ”が求められるものでもあるので、このドラマでは海だけでなく、川や湖、ダムなどにも出動する“水に特化”した新しい組織という設定にしました。水に潜って事件を解決するという、これまでにない“ウォーターミステリー”というジャンルとなります。
 撮影にあたっては、海上保安庁に全面的に協力いただき、長年培ったノウハウなどを提供していただいたり、こちらが「こうしたい」という要望にもいくつも応えていただきながら進めているところです。

このドラマの制作に携わる前、伊與田さんは海上保安庁の潜水士に対してどのような印象をお持ちでしたか?

 以前フジテレビが手掛けた『海猿』をとても面白いと思って見させていただいていました。生きるか死ぬかギリギリの、一歩間違えれば死んでしまうような状況の中で、潜水士ならではのバディとの信頼関係や仲間との絆は見ていて憧れるし、とても惹かれる題材だと感じていました。また日本を守るんだという心構えや、事故が起きた時に命を何とかして助けようとする意志などは、僕らが見ていて「すごいな」と思う強さがありますね。

今回実際に水の中を舞台にドラマをつくることになったわけですが、その面白さをどのように感じていますか。

 人間は本来、陸上で空気を吸って生きているわけですから、水の中は普段の感覚が通用しません。だからちょっとしたことでも通常とは異なる新しい発見があって、それが他のドラマにない魅力になってくると思うし、潜水士同士の信頼関係も水中だからこそ生まれるドラマチックなところがあって、それを丁寧に描かせてもらえればいいなと思っています。
 ただ水中が舞台ということで、撮影に入ると構想の段階では思いもよらなかったことがたくさんあって、こんなに撮影が大変になるとは思ってもみませんでした。海上保安庁の潜水士さんのように、実際に鍛えている人でさえ水の中では思うようにいかないことがたくさんあると伺ったんですが、それを役者さんがやるのは本当に大変です。役者さんはもちろん泳げるし、ダイビングの練習もするけれど、やっぱり第一線の人たちのようには動けません。本物に負けないような動きを映像で見せようとすると、それなりの工夫が必要になります。もちろん役者さんも頑張るし、撮る方も頑張るし、海上保安庁さんにもご協力いただいて…と、思った以上に大変だけれど、みんなの努力の甲斐あって、あがってきた映像をみると迫力のある画に仕上がっているな、と思っています。

「このドラマでしか見られない映像を楽しんでください」

ドラマでは「DCU」というチームが描かれます。伊與田さんはチームというものにどのような思いを持っていらっしゃいますか。

 一人ではできることに限りがあるので、事件や課題をチームでどう解いていくか、というところは大きな見所の一つです。海上保安庁では6人編成でチームを組んでいるそうで、ドラマもその設定にしたんですけれど、家族よりも長い時間を共にしないと、命を預け合う信頼関係はなかなか生まれないんだろうな、って思っています。僕が以前携わった『ノーサイドゲーム』はラグビーチームの話でしたが、取材をすると、やはり合宿することが大切なんだそうです。ラグビーはアメフトみたいに全部のプレーでフォーメーション通りに動くわけじゃなくて、1次アタックの時は決まったプレーだけれど、2次アタック、3次アタックってなってくると、その場で判断して動かねばならない部分が出てくるんですよ。次にどこにパスが出るのかをチームのみんなが予測するわけです。例えば、左側に仲間が来ると思ってパスを出したとき、仲間がいなければ相手のボールになりかねない。でも投げる方は「あいつは絶対くる」って確信を持って投げる。それができるのは、合宿して一緒に生活するからできるようになるんだ、っていうことを聞いたわけです。海上保安庁の方と話した時に、それと同じような絆のようなものがバディの中にあると感じました。そうしたチームの強さや大切さをドラマでうまく表現できたらいいな、と思っています。

ドラマの制作側もチームと呼べると思います。伊與田さんのチームづくりへのお考えをお聞かせください。

 チームづくりだけでなく映像づくりにしても、普段できるだけコミュニケーションをとることが大切なんだろうと感じています。どんなにデジタルでいろいろなことができたとしても、最終的には人と人とのコミュニケーションがうまくいかなければ良いものはできません。そのことを改めて、この歳になって痛感しているところです。
 昔は朝6時から夜中の2時3時まで撮影し、同じところで雑魚寝して、また朝6時から撮影に行ったりしていたので、意識的にコミュニケーションをとろうとしなくても自然と連帯感が生まれ、何をすべきかもお互いによくわかっていたものです。しかし働き方改革があり、コロナ禍もあり、一緒に雑魚寝なんてすることはなく、毎日必ず帰って、朝も普通の時間に始まって、となると、これまで通りのコミュニケーションでは意思の疎通ができない。「こまかく説明しなくても伝わるだろう」「メールでやりとりできているから大丈夫だろう」と思っていると、ギクシャクしたり、あとでえらい目にあったりする。様々なトラブルは、大体コミュニケーションのとり方に起因することが多い気がしています。ちゃんと足を運んで顔を合わせて、実物を見て話をすることが大切ですね。
 今僕らは新しい働き方への過渡期にあるので、より時代に適した伝え方を見つけ出さなければいけません。僕らの世代は「上司の背中見て勝手に勉強しろ」って言われて育ったけれど、今は上司がちゃんと教えなければいけないですしね。しかもメディアの世界は、ネットのおかげで国境がなくなってしまったので、これまでは日本国内だけを見てヒットすればそれで良かったのが、世界を相手にしなければならなくなった。これから日本のエンタメ業界はどうするのか、という課題をいろいろつきつけられていますね。僕はもう引退の文字が見える歳になってきたので、今後を担う若い人たちに、僕がこれまでの経験で得たものをきちんと伝えていかないとな、と思っています。「こんな苦労がありましたよ」なんてレポートに書いて残したりすることしができないかもしれませんが(笑)。
※後編は1月25日(火)公開予定です。

いよだ・ひでのり 1967年5月6日生まれ。愛知県出身。TBSテレビコンテンツ制作局ドラマ制作部担当部長。制作会社を経てTBSテレビに入社。『池袋ウエストゲートパーク』などのADを経て、数々のテレビドラマの演出・プロデュースに携わり、ヒット作品を生み出す。『半沢直樹』『下町ロケット』『陸王』など池井戸潤原作ドラマを多く手がけたことでも知られる。
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