トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.16-1

総力戦で挑む防災・減災プロジェクト~いのちとくらしを守る防災減災~

 激甚災害が頻発している状況の中、災害から国民の命と暮らしを守るべく、今年1月に国土交通省はその総力を挙げて、抜本的かつ総合的な防災・減災対策を目指す「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト~いのちとくらしをまもる防災減災~」を立ち上げた。国土交通大臣を本部長とする「国土交通省防災・減災対策本部」を設置し、防災意識社会の実現に向けた検討を進めるなどプロジェクトを強力かつ総合的に推進していく考えだ。今回は特集として、基本テーマの取りまとめ役を担う4名の幹部に話を聞く。

Angle B

前編

治水対策とまちづくりの更なる連携へ

公開日:2020/3/26

国土交通省

国土交通審議官

由木 文彦

地震や台風、大雨などによる土砂災害、水害などの被害を防ぐにはどのようなまちづくりが必要だろうか。被害が起きてもそれを最小限に抑えるための方策は何か。防災・減災のための住まい方や土地利用のあり方などについて、由木文彦国土交通審議官に話を聞いた。

これからの防災・減災のための住まい方、土地利用にはどういうことが求められるのでしょうか。

 日本はもともと自然災害が多く、防災は昔からある重要な課題ですが、特に近年、地球温暖化などの影響で気候変動が激しくなり、災害が頻発化、激甚化しています。これまで災害を経験した場所だけでなく、災害がなかったような場所でも、土砂災害や水害などが発生し、大きな被害に発展するケースが増えています。
 かつては社会が右肩上がりに発展し、ダムや堤防を整備して人が住む場所を広げてきました。それでも治水対策は時間がかかるため、その過程で災害が起き、水があふれることもありました。ところが今は、少子高齢化、人口減でまちの拡大・再生の力も落ちています。また、災害の程度も激しくなっており、施設の整備だけで防災・減災を実現することは限界に来ています。治水とまちづくりの関係者が手を取り合って協力し、被害が少なくなるように取り組むというのが今回のプロジェクトの狙いです。
 以前は、土砂災害の危険度を示すハザードマップも、地価の影響等を懸念し、公表できなかった場合もあったと聞いています。しかし、最近は、「危険なところはきちんと伝えていこう」ということで、世間一般の意識や受け止め方も変わり始めていると思います。

まず、これからの治水対策に期待することは何でしょうか。

 大きく3つあります。まず、治水対策の本来の役割、すなわち、水位を下げる、あふれにくくする、リスクを下げ安全性を高めることについては、引き続き果たしていく必要があると考えています。川の上流にダムを造ったり、下流に堤防を整備したり、川幅を広げたり、放水路を整備したり、これまで様々な治水対策を行ってきましたが、これらはこれからもやっていかなくてはいけません。遊水地やスーパー堤防の整備など、まちづくりと協力して進めることができる部分もあると思います。
 次にリスクの情報提供です。どこにどんなリスクがあるのか、できるだけ分かりやすく伝えることが大切です。どこにどれくらい雨が降ると、どの程度水に浸かって、どれくらい被害が発生するのか。分かりやすい情報がないとまちづくりには活かせません。内水氾濫についても、中小河川の増水の問題は本川との水位のバランスが重要であり、トータルでリスクを考えることが必要ですが、まちづくりの側では分かりません。また、治水対策の進捗(しんちょく)に応じてリスクがどのような場所でどのように変化するかについても、まちづくり部局に分かりやすく伝えていただく必要があると思います。
 最後に、川の上流に大量の雨が降ると、下流では晴れていても増水します。下流の市町村には上流の状況は分かりません。流域ごとに災害リスク情報を伝えることができるのは治水部局だけなので、上・下流の状況については、各々の市町村と対話することが重要です。

そうした情報を活かして、これからのまちづくりとしてはどのような取り組みが重要とお考えでしょうか。

 まず、命の危険があるエリアにできるだけ住まないようにすることが重要です。現在、土砂災害などで命の危険がある「レッドゾーン」において、店舗、病院、社会福祉施設、旅館・ホテル、工場等の自己業務用施設が新たに開発されないよう、法律を改正する準備をしています。また、既に住んでいる人には、移転する際に補助金を出すなどの助成措置も充実する考えです。
次に、災害リスク情報を、どんな被害が起こり得るのかという具体的な想定に落とし込み、現実の被害を減らすための対策を即地的に講じることが必要だと考えています。例えば、地区や施設の役割、重要度に応じて、遊水地の機能強化や下水道整備等の内水対策、病院等の重要な施設の土地のかさ上げ、マンションの電源施設の非浸水化、民間ビル等の活用による避難計画など、様々な選択肢を検討することが重要です。また、人口減少・高齢化が進む中で、災害が起きたら早く逃げるということも大切であり、そのための警戒避難体制を整えていくことが必要です。
 さらに、まちづくり部局から治水部局へ「ここだけは守りたい」と考える施設などを伝えることも必要です。まちづくりは時間がかかるものであり、当面の対策と、中長期的なまちづくりの方向性を分けて、まちづくり部局としてどうしたいのかを治水部局とキャッチボールしていくべきだと思います。
※後編に続きます。
【国土交通省では「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト~いのちとくらしをまもる防災減災~」を立ち上げ、全部局が連携し、国民の視点に立った対策を夏ごろまでにまとめ、防災・減災が主流となる安全・安心な社会の実現に全力で取り組みます。】

【頻発・激甚化する自然災害に対応した「安全なまちづくり」】

ゆき・ふみひこ 1960年島根県出身。83年建設省入省。国土交通省都市・地域整備局都市計画課長、京都市副市長、内閣官房行政改革推進室参事官、内閣官房審議官、国土交通省大臣官房総括審議官、住宅局長、総合政策局長を経て、2018年より現職。
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