トリ・アングル INTERVIEW
俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ
vol.1
テクノロジーは過疎を救うのか?
東京一極集中と過疎問題。地方都市が消滅するとも言われる。他方、自動運転車が過疎地域の人々を運ぶ足となり、ECで何でも注文でき、無人ドローンが荷物を運ぶ。5G普及で遠隔地勤務も容易になり、様々な働き方が生まれる。再生エネルギーにとって代わり、大量生産の優位性が薄れ、非中央集約型の分散型経済に。Society5.0において本当に地方は消滅するのか、逆に地方へ人口が回帰する、そんな可能性はないか。テクノロジーの可能性から、「過疎」を再定義していく。
前編
過疎の定義を変えていく行政イノベーション
公開日:2018/12/11
国土交通事務次官
森 昌文
前編
少子高齢化に伴う人手不足や疲弊が進む地域経済―。日本が直面するこれら構造的な問題を「テクノロジーは過疎を救うのか」をテーマに、さまざまな視点で掘り下げてきたシリーズ。最終章は、国土交通省の森昌文事務次官が語る技術革新が地域社会にもたらす可能性。そこから見えてくる未来社会の姿とは。
まず東京一極集中と地方の過疎化の問題をどう捉えていますか。
「東京一極集中は、個人や社会に過剰な負担を強いることで成り立っている事実をもっと多くの人に知ってもらいたい―。これが私の持論です。負担というと、生活コストの高さや長時間通勤といった側面ばかりに目を奪われがちですが、極端な人口過密や都市機能の集中は、インフラの整備や維持に多大なコストを要します。社会コストを増大させ財政を圧迫、国民負担として跳ね返ってくる。こうした視点からの議論があっていい。ですので、私は『東京が日本の成長をけん引するべきだ』といった論調に対してはかなり辛辣ですよ」
地方移住に関わる施策にも携わっていたと伺っています。
「課長補佐時代、90年代半ばでした。バブル経済がはじけて、東京暮らしに疲れた人も少なくなかったことから、私としては地方への人口流入のチャンスと意気込んでいたんですが、ブームは長続きしませんでした。移住しても職がない、安心して子育てできる環境が整っていないことが大きな理由です。しかし、あれから30年余り。状況は変わりつつあります」
技術の進展ですか。
世に出るのが少し早かったと思わせる惜しいプロジェクトもあったそうですね。
「これは独白のようなものなのですが(笑)。15年ほど前、愛知県豊田市で住民参加型のプロジェクトとして、トヨタ自動車にも協力頂いて、未来の車社会を具現化する事業に取り組みました。カーシェアリングやデマンドバスを活用することで、新たなライフスタイルや持続可能な地域社会を模索する試みでした。ただ、カーシェアリングを実践しようにも、現在のようにスマートフォンが普及していませんから担当者が手書きのリストを作成し電話で予約を受け付けるといった具合でした。しかし当時の発想は、いま実用化されているサービスにつながるものです。現在の技術を持ってすれば実現できたのにとの思いはあります」
【地域の声に応える技術を】
これまでのさまざまな経験から、今後、地方の問題にアプローチする上で重要な視点は何だと思いますか。
「地域住民のニーズに耳を傾け、それに応える技術をいかに早く社会に普及させるかにあると思います。国交省は自ら技術開発を担い、しかもそれらを世界に売り込んでいくことができる省庁です。技術に対する感度を高めることはもちろんですが、開発された技術が実際に社会で広く利用されるようになるまでの橋渡しも私たちの重要な役割と考えています」
「技術開発にはいくつかの障壁がありますが、いわゆる『死の谷』(開発ステージと事業化の間に存在する障壁)を超えるだけでなく、競争優位性を発揮してビジネスとして軌道に乗る、つまり『ダーウィンの海』を渡りきるまで行政として後押しする必要があると感じています。いかに革新的な技術やアイデアであっても、広く社会に普及させなければ、生かされません。昨今のビッグデータをめぐる議論もそうですが、一企業が独占するのではなく『新たな価値』を広く社会で有効活用するためのルールづくりに国は積極的に関わるべきです」
こうして生み出された製品やサービスが地方の過疎化に対する「解」のひとつになると。
「そうです。ただ、これらは技術開発に限った話です。交通システムのイノベーションにおいては、全く異なる視点でアプローチする必要があると考えています」
前編