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トリ・アングルINTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.19離島は日本のサテライト拠点?

公開日:2020/7/21

B

[ 後編 ]

島民が主役になる振興策を

KDDI株式会社サステナビリティ推進室長鳥光健太郎

 KDDI株式会社が通信業の知見を生かし、離島の特産品の販売支援や事業者育成に取り組む「しまものプロジェクト」。これまでネット販売を支援する「しまものマルシェ」は22島36商品を扱い、離島事業者がブランディングや商品PRを学ぶ講座「しまものラボ」は7島まで拡大してきた。このプロジェクトを通じて発見した離島の魅力や可能性とは何だろうか。

テレワークが普及したことで、離島を含む地方への移住に関心が高まっていますね。

 現時点では、しまものプロジェクトで直接的な取り組みを行っていませんが、人口流出や雇用減少など離島の課題解決策として、移住・定住の促進が根本にあると思います。これまで都心部から距離が離れていると移動が不便で住みづらいと思われてきましたが、今後、仕事のオンライン化が進めば、離島を含む地方部でも働ける環境になる可能性は高いので、通信事業者としてより貢献できるのではないかと考えています。
 また、移住・定住を促進する前段階として人口流出を抑止することも重要です。一時的な補助金などに頼るのではなく、地元企業や地域住民が自ら地域資源を生かして事業を拡大、創出しなければ人口流出は止まりません。しまものラボでの事業者育成のように、島民が主役になる振興策が必要だと考えています。

【離島でのしまものラボの開催風景】

※KDDIサステナビリティ推進室提供

離島の産業もICT(情報通信技術)を活用することで発展させられるでしょうか。

 農林水産業などは従来、プロの勘と経験に頼っており、ノウハウや技術は口頭で継承されてきましたが、ICTで定量的かつ効率的に管理することで後継者の引継ぎに役立ち、事業の継続性も確保でき、次世代の担い手を確保することにもつながると思います。例えば、弊社が参画する福井県小浜市の「鯖、復活」養殖効率化プロジェクトでは、センサーの設置やアプリケーション開発などIoTの実装サポートを通じて、養殖生けすの水温、酸素濃度、塩分を1時間おきに測定、モバイル回線で自動的にデータをサーバへ送信。漁師が手元のタブレットで鯖の成育環境をリアルタイムに把握でき、餌やりの計画・記録をクラウド上で管理する仕組みで、漁師さんの作業効率化とデータの蓄積を実現しました。こうしたノウハウを活用して、日本全国でそれぞれの地域が抱える課題や特色に合った解決を進めています。

また、5G(第5世代移動通信システム)の普及や、その他の技術革新は離島の環境を変えるでしょうか。

 飛躍的に変化する可能性があると思います。例えば、5Gが持つ大容量・低遅延・多接続という特長を活かした車の自動運転が広まれば、離島のみならず、高齢化が進み、交通手段が限られる地方などでもニーズが高いと予想されます。また、ドローンを活用した新たな物流システムなどといった技術革新は地域の課題解決に大きく貢献できると考えています。

読者へのメッセージをお願いします。

 私もプロジェクトを立ち上げる以前は、離島を訪れたことがほとんどありませんでしたが、今ではしまものラボを通じて、1島につき3回程度は打ち合わせや実際の講座実施で訪れます。実際に足を運ぶ機会が増えると、東京で手に入らない特産品を家族から「また買ってきてほしい」と頼まれます。また、島ごとに素晴らしい自然や特産品、そして地元の人々がいることが本当に実感できます。この魅力は訪れてみないと気付けません。皆さんには興味を持っていただくきっかけとして、離島の特産品を試してみてほしいと思います。
 そこから気に入った特産品を継続して購入したり、産地である離島に興味を持つことが離島の発展にもつながるのではないでしょうか。是非、お気に入りの特産品を探し、産地を訪問してみることをお勧めしたいと思います。(了)