トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.47

誰もが防災の担い手になる!災害大国ニッポンの未来

近年、「何十年に一度」、「生まれて初めて経験する」と言われるような災害が、全国各地で起こっています。しかしながら、何度も被災した経験がある人はそう多くはありません。いざ自らのリスクが高まったときでさえも、自分ごと化されないことにより、避難行動などにつながらず、最悪の場合は大規模な被害や犠牲者が発生しています。自分の命も大切な人の命も守るため、災害を自分ごととして捉え、防災・減災の正しい知識を修得することが現代では必須です。
そこで今回はテーマを「防災教育」とし、学びの内容、効果を上げるためのポイントなどをうかがいました。

Angle A

後編

自分のために、家族のために、生きることは備えること

公開日:2023/12/5

俳優・タレント・歌手

つるの 剛士

 自分自身が防災について考え、備えるだけでなく、家族や地域と協力して防災の取組を進めることで、より多くの命が救われる可能性が高まります。つるの剛士さんはお子様への防災教育にも力を入れ、アウトドアやキャンピングカーを活用した試みを続けているのだそう。「楽しみながら防災対策を」と話すつるのさんに、具体的な方法やコツなどについてうかがいました。

つるの様は、お子様の防災教育にも力を入れていらっしゃるそうですね。

 「防災教育」なんて堅苦しくは考えていませんが、非常時に慌てることなくサバイバルできるようになるための経験をしておいてほしいと思って、親子で登山をしたりキャンプに行ったりしています。登山は長男が小学校2年生の時から始めたのですが、当時は海沿いから高台に引っ越しして、屋上から藤沢市周辺の山々がよく見えたんです。それで長男と「屋上から見える山に全部登ろう」と話したのがきっかけでした。
 その後一緒に丹沢や奥多摩の山に登り、富士山だけは息子が違うグループと登ったので別々になりましたが、屋上から見える山はすべて親子で制覇しました。そうやって泊まりがけの登山を楽しむうちに、「この経験は、非常時の生活にも役立つ」と考えるようになりました。自宅に備蓄している食料も、カップラーメンなどからアウトドア用の保存食料に少しずつ切り替え、古いものからキャンプなどで使うようにしています。

登山での体験が非常時に役立つというのはどういうことでしょう。

 山の上でのキャンプ体験は非常時に必要なスキルを高めるのに効果的なので、子どもに限らず、どなたにでもおすすめしたいです。まず、テント、水、食料などを自分で背負って登るわけですから、あまり重くもできず、結果として自分が1日暮らすために最低限何が必要なのかを把握できると思います。よく備蓄の説明などで「水は1人1日3リットル必要」と言われますが、実際に水道なしで暮らしてみないと、何にどれくらい水を使うのかなんてピンとこないですよね。服装も、どういったものをどう着込めば寒さをしのげるのかなど、少し寒い時期に登ることで経験からわかるようになります。僕は何の知識もなく登山を始めたため、最初に用意した装備の重さはなんと約25kgにもなってしまいました。登山経験者の方には「エベレストにでも登るの?」と言われてしまいました(笑)。
 子どもと一緒の場合は、万一のことがあったらと、自分1人の時よりあれもこれもと持っていきたくなります。しかし、何度か登るうちに「これは要らない」「これはあった方がいい」と判断できるようになり、緊急時に本当に必要なものがわかるようになってきました。

ブログでは「#防災訓練」というハッシュタグを付けて、キャンピングカーで生活する様子も紹介されていましたね。

 うちにあるキャンピングカーは震災後に購入したもので、ソーラーパネルで発電もできるタイプです。遊びに使うだけでなく、災害時にはここを生活のベースにしようと考えて購入しました。
 ただ、実際に車内で長期間暮らしたことはなかったので、新型コロナウイルスで仕事に行けなくなった時期に次男と一緒に1ヵ月ほど暮らしてみることにしました。狭いスペースのなか、限られた装備で生活するコンパクトライフを子どもたちに経験させておきたかったんですね。もっとも、息子はパパと一緒にいられるわ、電気が使えるからゲームもできるわで大喜びでしたが(笑)。だけど、そうやって楽しみながら、万一を想定した時の生活を経験しておくことは大切だと思います。本当に被災した場合も、この時のことを思い出して前向きに対処していけるのではないでしょうか。

確かに、楽しいことの方が子どもたちも一生懸命やるし、記憶にも残る気がします。

 防災や減災をあまり堅苦しく考えず、「子どもと一緒にサバイバル訓練するぞ!」と、ノリで楽しむ要素を入れることは大切だと思います。防災に役立つ行動を遊び感覚で生活の中に取り入れて、防災活動を暮らしの当たり前にしていけるといいですよね。
 また、キャンピングカーでの生活については「どれくらい続けられるだろう」という興味がありましたので、水や食料を節約しつつ、子どもとゲームをしたりプラネタリウムを持ち込んで投影したりと、楽しく過ごすための工夫もしていました。本当の避難生活でも、大人が常に気を張りつめていたのでは子どもたちにも伝わって、皆が余裕のない状態になってしまいます。どんな時でも、エンターテインメントは必要だと改めて感じました。

子どもとのアウトドア体験もキャンピングカーも、「やってみたいけど難しい」という方も少なくないと思います。

 そうした場合は、例えばテントを庭先に張って、お子さんと寝泊まりしてみるなど、身近なところから始めてみてはどうでしょうか。部屋の中にコンパクトなテントを張って、そこに一緒に寝泊まりしてもいいですし、「今日の食事はこれだけしかない」といった決まりを作って、普段とは少し違う不自由な生活を経験してみるのもいいでしょう。「万一の時」をシミュレーションしてみることが防災を意識するきっかけになると思います。我が家の場合は自宅の屋上を「つるの山」と呼んでいて、そこで子どもたちと一緒にテント生活を送ったこともあります。
 また、アウトドアツールに慣れるために、普段から使用するようにもしたいところです。僕の場合は、どのガスバーナー、どの素材の調理器具が早く沸騰するか、といった実験をしてみたり、アウトドア用のウインドブレーカーを着て雨の屋上に出てみたりしています。いざという時に使いこなせなかったら意味がないですからね。

防災活動において、今後大切にしていきたいことはありますか。

 防災は地域とのつながりが大事なので、何かあった時に近所の方とうまく連携できたらと考えています。僕の周りでは、海沿いに住んでいる友人に津波の時はうちに避難するよう伝え、彼らのために食料の備蓄を多めに用意しておくなど、友人同士の連携は取れていると思います。
 しかし、ご近所の方となると世代も違いますし、僕自身も地元にいないことが多いので、なかなか難しい。昔からお住まいの方同士の連携はできていますから、その輪の中に入れていただけるように草むしりなど地域の活動には積極的に参加するようにしています。そうやって、少しずつコミュニケーションを深めていくつもりです。

阪神・淡路大震災では多くの人がご近所の方や友人に救助されたとか。ご近所とのつながりは本当に大切なのですね。

 そういう意味では、僕より妻の方が地域の防災活動のことをよく知っています。先日も、帰宅したら玄関先にタオルが巻いてあったので、「誰かの落とし物?」と尋ねたら、災害時の安否確認訓練で「うちの家族は無事です」とご近所に知らせるものだと教えてくれました。
 あとは、地域の歴史についてもっと詳しく知りたいと思っています。東日本大震災の時、津波への警告が刻まれた石碑(※)が話題になりましたが、鎌倉の大仏も室町時代に津波の被害にあったとも言われています。そうした過去の出来事に興味を持っていれば、「こんな場所まで津波が来る可能性があるのか」と現代の僕たちにも凄まじさが伝わり、防災意識が高まると思います。

自然災害伝承碑

防災の必要性を理解しながらも、実際の行動に移せない人は少なくありません。

 僕は以前から「生きることは備えること」と考えていて、その流れで防災もごく当たり前のことだったのですが、東日本大震災をきっかけにこの思いがさらに強くなりました。
 そもそも「生きるために備える」というのは防災に限った話ではなく、次に起きることに備えながら生きるのは当然だと思います。とはいえ、自分だけが生き残っても仕方がないですから、大切な家族をどう守っていくか、一緒に生き残るにはどうすればいいかを考える。そうすると、やはり備えが重要になってくるのです。僕の子どもたちもいつか「あの時、パパはこんなことを言っていたな」とか「防災のためにこういう経験をしたな」とかを思い出して、今度は自分の家族を守るためにどうすべきかを考えるようになってくれたら嬉しいですね。

※国土交通省「防災ポータル」

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