トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.42

ドローンで変わる!? 日本社会の未来像

2022年12月5日、ドローンの国家資格制度がスタートするとともに「レベル4」飛行が解禁となりました。これは、人がいる場所でも操縦者の目視外での飛行が可能ということ。今まで認められていなかった市街地上空を通るルートでの長距離飛行もできるようになり、運送業界をはじめ、さまざまな業界からの注目度が高まっています。そんなドローンの開発・活用の最前線にいらっしゃる方々に、日本におけるドローンの現状、今後の課題などについてお話をうかがいました。
無人航空機(ドローン)の新制度についての詳細はこちらをご参照ください。
(国土交通省無人航空機総合窓口サイト https://www.mlit.go.jp/koku/info/index.html)

Angle A

前編

ドローン映像がラグビー日本代表を強くする

公開日:2023/2/7

公益財団法人 日本ラグビーフットボール協会

アナリスト

浜野 俊平

練習や試合においてさまざまなデータを収集、解析し、選手やチームの成長を科学的にサポートする「スポーツアナリスト」。ラグビーやサッカーのような広いフィールドを駆け回る競技のアナリストにとって、今や欠かせないアイテムとなっているのが「ドローン」です。大学時代からラグビー日本代表チームでドローンを活用した分析を経験し、2019年のラグビーワールドカップ(RWC)日本大会で日本初の8強入りに貢献した浜野俊平さんにラグビー、そしてアナリストという仕事との出会いについてお話をうかがいました。

浜野さんがラグビーを始めたきっかけを教えてください。

 中学までずっと野球部だったので、高校では新しいスポーツを始めたいと考えていました。それまで「大学生のスポーツ」というイメージがあったラグビー部が入学した高校にあったことで挑戦してみたくなり、入部を決めました。
 ラグビーは「相手にどうぶつかるか」という個々人のフィジカルな技術はもちろん、チームスポーツなだけに「いつ、誰が、どこに動くか」とい戦術眼も必要です。高校時代、私はチームの司令塔である「スタンドオフ」というポジションで、自分なりに「チームとしてどう動くか」を意識して指揮してきました。次第にチームプレーの難しさだけでなく、うまくいったときの面白さが分かるようになり、それが大学でもラグビーを続け、仕事にするモチベーションになりました。ラグビーと出会っていなければ、私はチームスポーツの本当の醍醐味を知らなかったかもしれません。

「アナリスト」を務めるようになったのは大学時代からですか。

 大学のラグビー部では、選手だけでなく学生コーチとしても活動していました。新しく来られた社会人コーチが、コンピュータの分析ソフトを使って試合や練習のやり方を見直す手法を取り入れ、私もそれを使って分析を始めたのがアナリスト経験の始まりです。ケガの手術などで練習や試合に出られない時にアナリスト業務に力を入れていたら、プレーの分析がどんどん面白くなっていきました。大学の専攻が社会学科で、社会調査などを通してデータの扱いに慣れていたのも良かったのでしょう。
 それが2015年頃で、当時はアナリストが活躍しているラグビーチームはまだ少なく、プロのチームでようやく定着し始めたばかりでした。現在「リーグワン」と呼ばれる社会人リーグに参加しているチームでも、アナリストがいないチームが多かったと記憶しています。そんな時期に、コーチのおかげで、ラグビーをパソコンで分析する機会を得られたことは、本当に運が良かったと思います。今まで自分たちが関わってきたラグビーをまったく別の角度、切り口で見ることができ、非常に勉強になりました。

ラグビー日本代表に参加されたのも大学時代だとか。

 大学3年生だった2015年に、男子7人制の日本代表チームにインターンとして参加しました。大学の社会人コーチが日本代表チームの関係者をご存じで、私が「もっと分析ソフトの使い方を勉強したいので、日本代表チームで何か手伝わせていただくことはできませんか」と相談したところ、インターンを募集していた7人制のチームに紹介してくださったんです。日本代表に加わることの責任の重さと喜びを噛みしめつつ、覚悟を持って飛び込みました。
 日本代表チームは設備が非常に充実しており、常に複数のカメラを使って試合などを撮影していました。分析においても、選手のプレーを回数だけでなく、どんな結果を生んだかという質、スピードなど複数の観点から評価しており、その深さに驚きました。加えて、選手たちはそのデータを見て、自分たちで何をしなくてはいけないかを考えてプレーを変えていく。こうした自己成長のプロセスが、大学とはまったく違いました。

当時はまだドローンは使われていなかったのですか。

 男子の15人制チームで使われ始めていましたが、7人制チームはカメラでした。カメラの台数自体はあったのですが、撮影する人員が常に複数名いるとは限らず、ドローンを使った撮影の必要性を感じていました。

2016年のオリンピックリオデジャネイロ大会で、男子7人制チームは初めて決勝トーナメントに進出し、4位という好成績を残されました。

 チームがいい結果を出すプロセスにささやかでも関与できたことは、とても貴重な経験になりました。オリンピック終了と同時に7人制チームでのインターンも終了しましたが、私はこのままアナリストの道を進みたいと考えていました。そのため、すぐに男子15人制チームから声をかけてもらえたのは幸運でした。大学4年生の9月からそちらに異動し、新人ながらドローンの担当になったことが、私とドローンとの最初の出会いです。使う前は操作法に不安があったのですが、実際に触ってみるとそこまで難しくはなかったです。

分析にドローンを使用する利点について教えてください。

 カメラでは、練習や試合をする場所によって撮影できるアングルが限られることが難点でした。スタジアムなら、観客席の高い位置にカメラを置くことで、フィールド全体を見渡すような撮影も可能ですが、大学のグラウンドではカメラは選手と同じ高さで、一方向からしか撮影できない場合がほとんどでした。そうなると、選手同士が重なってカメラに写っていないプレー、カメラから遠い場所で起きたプレーに対する「今、画面の外から入ってきた選手は、その前はどこにいたのか」「ゴール前に空きスペースができるほど、別の場所に選手が集まったのはなぜか」といった疑問は推測で解決するしかなくなります。
 その点、ドローンがあれば上からの視点で位置を変えつつ撮影できるので、死角がなくなり、各選手の位置関係も分かりやすく、戦術を考えるのに役立ってくれます。私が大学で分析ソフトに触れてラグビーの新たな魅力を知ったように、今の大学生がドローンを利用する機会が増えれば、ラグビーの戦術面での底上げが期待できるのではないでしょうか。

 ※2022年12月5日から無人航空機(ドローン)の新制度が開始されました。これにより機体認証、操縦ライセンス、運航に係るルールが整備され、これまで行われていたレベル1~レベル3飛行(*)に加え、新たにレベル4飛行(有人地帯(第三者上空)での補助者なし目視外飛行)が可能となりました。
 *レベル1飛行:目視内で操縦飛行
  レベル2飛行:目視内で自律飛行
  レベル3飛行:無人地帯での目視外飛行
 (ドローンを目視内で操縦飛行してラグビーの練習を撮影する行為は、基本的に「レベル1飛行」にあたります。)

 無人航空機(ドローン)の新制度についての詳細はこちらをご参照ください。
 国土交通省無人航空機総合窓口サイト<https://www.mlit.go.jp/koku/info/index.html

はまの・しゅんぺい 公益財団法人 日本ラグビーフットボール協会 アナリスト。高校時代にラグビーを始め、上智大学在学中はラグビー部で選手として活躍するほか、アナリスト業務も手掛けるようになる。大学在学中に男子7人制ラグビーの日本代表チームでアナリストインターンを務め、オリンピックリオデジャネイロ大会(2016年)で日本初の決勝トーナメント出場に貢献する。2016年9月からラグビー日本代表(15人制)のアナリストを務める。
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