トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.7

どうする? 通勤ラッシュ

都市圏の「痛勤」ラッシュは、ビジネスパーソンたちを悩ませ続けてきた。充実した鉄道網、複雑なダイヤのもと効率的に運用されている都市鉄道だが、通勤時間帯の混み具合は依然として大きな社会問題であり続けている。人口減少が見込まれる中、輸送力増強に向けた大幅投資も簡単ではない。最近は、訪日客の増加や、「働き方改革」による通勤時間帯の多様化などの変化もみられる。また東京の一極集中はさらに進んでおり、解決の道筋は見えてこない。鉄道側の対応に加え、個人の生活スタイルの見直し、都心部での住宅立地など、各方面の幅広い取り組みが求められそうだ。「ラッシュ」の今を識者に聞く。

Angle A

後編

「働き方」を 自分でデザインする時代

公開日:2019/6/14

事業構想大学院大学

学長

田中 里沙

事業構想大学院大学学長の田中里沙氏は、「将来、働き方がどんどん進化し、住まい方、暮らし方も変わってくる」と語る。長期的には、それが究極の通勤ラッシュの緩和につながるという。見えてきたのは、自分で自分の働き方や生き方をデザインする時代だ。

2020年東京五輪・パラリンピックは、都市部の通勤ラッシュの緩和を進めるうえで、転機となりますか?

 2020年に向けて、懸念される課題解決のため、具体的なアイデアが出されています。五輪・パラリンピック期間中、都心の通勤ラッシュをはじめとする混雑の緩和につなげるため、特に協賛企業の中には、東京本社の社員は在宅勤務にする予定が決まっている企業があると聞きました。対象者は千人単位の数になりますし、2020年以降、企業では、在宅勤務が広く浸透してスタンダードになっていくかもしれません。
 東京五輪開会式の日に、別の企業などでも同様の取り組みがあるようです。期間中は、多くの企業が混雑緩和に協力して、「家で仕事をしよう」という動きが広がるといいですね。実際、職場外で働く「テレワーク」の中身は、どんどん進化しています。2020年東京五輪・パラリンピックのレガシーとして、「新しい働き方」をはじめ、「通勤スタイル」や「ワークスタイル」を残すことができると思います。

時差ビズによってピークの分散が見られた駅(4日間平均)の出場者割合の分布

                                 東京都提供資料

企業内部で、働き方に対する意識の変化はありますか?

 ビジネス環境の変化のスピードが加速する中、大手メーカーなどは、さまざまなベンチャー企業と組んですでに新事業や新ビジネスを展開しています。起業家は、既存の枠組みを超えた発想を持っています。そういった人たちとの対話、会話を通し、刺激を受けて、大手企業も働き方などが少しずつでも変わっていくといいですね。
 こうした動きから、「面白く、楽しく仕事ができる」といった流れや世の中のトレンド感が生まれてくればいいなと思います。
 これからの若い世代が、親世代の働き方を継承する必要はありません。企業にも柔軟性が問われています。働き方を変えていくことで、事業や企業全体がうまく回るようになるでしょう。働く姿勢は「とにかくがむしゃらに」というものではなく、目標があってそこに到達するまでに工夫ができるかどうかなど、成果をきちんと評価できるような仕組みづくりが求められています。テレワークについても、よりアクティブに自己実現のためのツールとしてとらえ、一人ひとりがパフォーマンスを生かして成長するためにどうするかを考えることが大切だと思います。そうすることで個人の価値も上がり、会社全体の魅力や価値向上につながります。

今後、働き方はどんな方向に進化すると考えていますか?

 新しい価値を創出する経営者たちは、最初から、自社社員の働き方の部分にもビジネスと同様に創造性をのせて、それ自体を会社の魅力にしています。みんなが力を発揮するためにはどうすればいいか。職場環境や働き方についても、どんどん新しいものを自分たちで作っていこうという考えです。周囲の多様な人たちを巻き込んで、自分の会社とともに、地域を良くしていこうという流れも顕著になってきています。
 また、VR(仮想現実)をはじめ、テクノロジーの進化は、働き方はもとより、生活にさまざまな変化をもたらします。インターネット上に誕生したVR空間を使ったオフィスなど、新技術の利用は働き方を大きく変えるでしょう。VRオフィスを利用すれば、出社の必要がなくなります。育児休業中の方や介護などを理由に出社できないといった人も働く機会を得て、新たなワークスタイルが生まれてくると思います。

働き方や生き方に対する価値観も変化しています。

 都心で育った息子は、小学生時代に畑で収穫したばかりのトマトを食べたらおいしかった、川に飛び込んだときのワクワク感が忘れられない、などの記憶から、将来の夢について「田舎に住む」と書いたことがありました。
 実際、自然の中にいると、いろんなアイデアが湧いてきます。そうした自然やアイデアを求め自然の中で暮らすことと働くことの両立もあると思います。テレワークの先にあるものとして、いろいろな地域に人が住むような社会の傾向も出てくると思います。
 全国各地の空き家問題でも、若い世代が地方の空き家をリノベーションして暮らす事例が出てきています。数のうえでは、インパクトが足りないかもしれませんが、こうした動きは確実に広がってきています。そういう意味で、価値観の変化から、働き方や生き方が変わり、長期的には通勤ラッシュをはじめとする都市部の混雑緩和が進むかもしれません。

今の時代に必要な視点とは?

 長期的にみると、人口が減少する時代の世の中の設計そのものを考えていく必要があります。例えば、みなさん、故郷ではないけれども、よく訪れる、お気に入りの地域はありませんか。人口が減る時代は、一人が二役以上を務めるような形で、一人が都市部と地方、地方と地方などいろんな地域を行ったり来たりするようになればいいと思います。人が動いて、交流して、都市部と地域、地域と地域をつなげていくのです。
 また、今は一人だけ勝ってもいけない。周囲、前後左右に目を向けながら、持続可能な成長を可能にするために、今あるものが当たり前にあると思わずに、少しずつ変えていけるような新しい開発や創造を続けていくことが大事です。(了)
 ちょうど今、誰もが自分の役割を果たして、何を享受するかを考える時期にきています。自分の生活や働き方を自分自身でデザインする、デザインできる時代です。未来をデザインする時には自分に持っている要素は何か、強みや好きなことは何か、制約や条件は何か、その中で工夫することが必要で、クリエイティビティそのものです。

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