トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.38

地図から読み解く時代の流れ

スマートフォンの普及などにより、地図の在り方が大きく変わりつつあります。目的地へのナビゲーションも一昔前は紙の地図帳頼りだったのに、今では目的地周辺のお店の情報までわかったり、バリアフリーのルートを探せたり。人流、気象など、さまざまな情報と掛け合わせられるサービスもあれば、アートとして地図を捉えてまったくの架空の街の地図を描くなど、地図の活用方法も楽しみ方もどんどん拡がっています。ここで紹介する地図に関わる方たちの話から、あなたも新しいビジネスのヒントが見つかるかもしれません。

Angle C

後編

データの組み合わせ次第で可能性は無限に広がる

公開日:2022/10/14

Symmetry Dimensions Inc.

CEO

沼倉 正吾

無償で二次利用できる3D都市モデルのオープンデータ「PLATEAU」。人流や路面状況などさまざまなデータやシミュレーションと組み合わせることで、幅広い活用の仕方が可能になるとSymmetry Dimensions Inc.の代表・沼倉正吾さんは話します。都市のデジタルツインは具体的にどのような使い方があるのか、実際の活用事例も含めてお話をうかがいました。

都市のデジタルツインはどのように活用されているのでしょうか。

 具体的な活用方法は各企業が模索しているところですが、1つには災害時の活用があります。2021年7月に静岡県の熱海市で土砂災害が発生しましたが、その際に当社で取得していた市の点群データを用いて対策を協議しました。このデータは静岡県が独自に作っていた「VIRTUAL SHIZUOKA(バーチャル静岡)」という3D都市モデルのために取得していたものなのですが、その中に被災地域のデータが含まれているのではないかということでご連絡をいただきました。

データを使ってどのような協議が行われたのですか。

 関係者が点群データを見られるように、当社のサーバーにリモートデスクトップで接続できる環境を整えて有識者のリモート会議を行いました。現場の3Dデータを見ながら、土砂がどこから発生したのか、どういう経路で流れたのか、規模はどれくらいなのかなどについて検討しました。災害が発生したのが午前10時半で、午後から協議をスタートし、20時前には災害対策の陣頭指揮を執っていた副知事に第一報を報告、23時にはテレビの会見で副知事が被害状況について説明され、この一連の流れが非常に早かったです。

その日のうちに被害状況がある程度把握できたわけですね。

 はい。従来だと、調査委員会が被災地に行って写真や動画を撮り、それを元に報告書を作成するという流れのため、報告までに1~2ヵ月かかっていました。それが数時間でできたわけです。
 翌日にはドローンで現地の被災後の点群データを取得し、それを被災前のデータと重ね合わせることで、さらに詳細な分析を行いました。被災前後の3Dデータを重ねて見ると、土砂が谷に沿って流れていった様子や、どういうかたちで建物を倒壊していったのかがよくわかりました。テレビカメラの映像と見比べながら協議を行っていたのですが、現場がどうなっているのかがすごく把握しやすかったです。

Symmetry Dimensions Inc.は、参画されているPLATEAU のユースケース開発でも災害対策を扱っていらっしゃるとか。

 静岡県の掛川市で、災害が起こった際に現場で救助を行う人たちが被災地の状況を把握できるようにするための実証実験を行っています。熱海市の土砂災害のときには有識者がPCで現場の点群データなどを見ながら協議しましたが、迅速な救助のためには救助を行う人たちが見られるようなものも必要であると感じました。そこで、現場でも3Dデータを閲覧できるような技術開発を進めています。

他には、どんなユースケース開発を行っていらっしゃるのですか。

 渋谷区でAR広告に関するプロジェクトを進行中です。AR広告はスマートグラスやスマートフォンといったデバイスを通し、デジタル映像などの情報を現実世界に重ねて映し出すものです。ARを使った広告が今後増えていくといわれていますが、実際に街の中に広告を出すときにどういうシステムが必要なのか、どんな課題があるのかをPLATEAUを使って検討しています。
 具体的には、PLATEAUの3D都市モデル上で選択した場所に広告を出せるような仕組みを作っています。また、人流データと組み合わせて、「この場所に広告を出したらどれくらいの人が見るのか」を調べたり、より多くの人に見てもらえる場所をレコメンドしてくれたりする機能も考えています。

Symmetry Dimensions Inc.がユースケース実証を行っている「3D都市モデルを基盤とした、災害時の即時的な現状把握及び救援活動支援」(上)と「屋外広告の可視範囲と人流データを用いた広告効果シミュレーション」(下)。

本当にさまざまな活用方法があるのですね。

 とはいえ、まだ公開されたばかりで、課題もあります。2021年に56都市、2022年にも60都市以上の3D都市モデルのオープンデータが新たに公開される予定ですが、公開したデータはどんどん古くなっていきます。それをどうやって新しくしていくのかといったことも考えていかなければなりません。
 PLATEAUをどう使うのか、維持管理はどのように行うのかは、国と民間が力を合わせて取り組んでいかなければならないところでしょう。特にリアルタイム性のあるデータを取り込むには民間企業の力が必要です。

リアルタイムのデータが反映されると何が違うのでしょうか。

 リアルタイムデータを使ったサービスは、まさに今、いろんな企業が挑戦しているところです。例えば、コロナ禍ではなるべく密になる状況を避けたいですよね。今現在、どこにどれだけの人流があるのかをリアルタイムで把握できていれば、密を避けるために人をどこへ誘導したら良いのかがわかります。

災害時の避難にも役立ちそうですね。

 そうですね。洪水の際には「これくらいの雨量だとこの道は水没する」といったことが予測できるので、安全な避難経路を見つけるのに役立ちます。
 現在のデジタルツインはアーカイブ的な使い方で過去のデータを見ていますが、IoTセンサなどが普及してリアルタイムのデータがどんどん取れるようになると、今現在の状況がわかり、さらに「1時間後はどうなる」みたいな感じで予測ができるようになる。アーカイブからリアルタイムへ、リアルタイムからプレディクションへ、というのが今後のデジタルツインの進み方になると思います。

データの進化がPLATEAUの進化を促すということですか。

 PLATEAUが提供する3D都市モデルは、デジタルツインにおいてはあくまで多種多様なデータのひとつなのです。ほかにも設計事務所や施工会社が持っているような3Dデータもあるし、自治体が持っているような台帳のデータや人流データ、各企業が持っている多様なデータがある。そういったデータを組み合わせることで、ソリューションを生みだすことができるわけです。今後は各種のデータを組み合わせ、用途に応じた使い方が簡単にできるようなサービスが増えてくると考えています。

Symmetry Dimensions Inc.でも、各種データを組み合わせて使えるデジタルツインプラットフォームのサービスがあるとか。

 2021年6月に「SYMMETRY Digital Twin Cloud」というサービスをローンチしました。これはインターネット上のオープンデータや各企業が提供しているAPIを活用し、都市の3Dモデル上でさまざまなシミュレーションや分析が簡単に行えるプラットフォームです。PLATEAUや各自治体の持っている3Dデータをはじめ、GISデータ、点群データ、各種IoTセンサから得られる温度・湿度・人流などのデータ、エクセルやCSVのデータが扱えるほか、APIで取得できる天気情報なども組み合わせることができます。
 イメージとしてはBI(business intelligence)ツール(※)に近いものといえます。BIツールは数字のデータから自動的にグラフを生成して直感的にわかりやすくするといったものですが、それをデジタルツインでやっているわけです。組み合わせるデータによって、できることも変わってきますので、今後は「建設業界に特化したデジタルツイン」や「マーケティングに使いやすいデジタルツイン」といった感じで、いろいろな個性を持った都市のデジタルツインサービスが生まれてくるのではないかと考えています。
※企業に蓄積されている大量のデータを収集、分析、可視化するツール。

デジタルが苦手な人でも使えるようになりますか。

 我々がビジョンとして掲げているのは「データの民主化」で、高価だったり、専門的だったりするデータを誰もが利用できるようにしようとしています。データというのは公開しただけではダメで、使わないと意味がない。今回、国がPLATEAUで都市の3Dデータを用意してくれた。じゃあ、それをどうやって使いやすくしていくのかというところは、我々のような民間企業が考えていくべきだと思います。そもそもPLATEAUは税金で作られているデータなので、我々としては使い倒す義務がある(笑)。そのためにも、PLATEAUの活用法を世の中に広める一助となればと考えています。

 一口に「地図」といっても、日常生活でおなじみの都市地図や日本地図だけでなく、マニアックな古地図、赤色立体地図など、実にさまざまな種類があります。媒体も昔は紙一択だったのに、今や主流はデジタル。そんな地図の変化から人々や社会の変化もまた見えてくるのではないかと、今回の「トリ・アングルINTERVIEW」のテーマを「地図」としました。
 架空の街の地図を描き続けている今和泉隆行さんは、道路の太さや官庁街、商業地域の位置など、地図情報から街の歴史を読み解くコツを教えてくださいました。人々が地図に求める役割や、地図の進化の方向性についてお話しくださったのは、地図アプリの開発に携わる水谷真樹さん。いち早くデジタルツインに取り組んできた沼倉正吾さんのお話からは、国土交通省が主導する日本全国の3D都市モデル「PLATEAU」をはじめ、地図情報が秘めた可能性の大きさを感じました。
 次号のテーマは、国の方向性を策定する「国土形成計画」。中でも、特に強く必要性が訴求されている「デジタル」に焦点を当てます。周回遅れとさえいわれる日本のデジタル化は世界に追いつくことができるのか、インタビューを通じて探っていきます。(Grasp編集部)

インタビュー一覧へ

このページの先頭へ