トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.50-1

「2024年問題」を契機に、より魅力ある業界へ -物流サービス編-

2019年4月から、会社の規模や業種により順次適用が進められてきた「働き方改革関連法」。時間外労働の上限規制に5年間の猶予期間が設けられていた業種でも2024年4月1日に適用開始となり、誰もが安心して働き続けられるワークライフバランスがとれた社会の実現に、また一歩近づいたといえます。しかし、その一方で新たな課題として浮上してきたのが、いわゆる「2024年問題」です。国民生活や経済活動を支える物流業界、建設業界が、将来にわたってその役割を果たしていけるよう、企業や私たち消費者にはどのような取組、変化が求められているのでしょうか。

Angle B

前編

ライバル6社が手を取り合う「呉越同舟」のプロジェクト

公開日:2024/5/22

F-LINE株式会社

物流未来研究所

競合同士の食品メーカーが、同じトラックに製品を積み込み、配送を行う。各社が培ってきた物流ノウハウを共有し、インフラを活用し合って、加工食品の物流における課題を解決に導いていく――。そんな画期的な「F-LINEプロジェクト」がスタートを切ったのは2015年のこと。6社のライバル企業は、どのように協業し、どのような成果を生み出していったのか。F-LINE株式会社 物流未来研究所の平智章さん、坂本卓哉さんにお話をうかがいました。

<写真向かって右から>
F-LINE株式会社 物流未来研究所 所長 平 智章
F-LINE株式会社 物流未来研究所 次長 坂本 卓哉

そもそも「F-LINEプロジェクト」は、どのような目的で誕生したのでしょうか。

平:2015年2月に発足した「F-LINEプロジェクト」は、普段はライバル関係にある食品メーカー同士が「競争は商品で、物流は共同で」という理念のもとに一致団結し、ともに物流環境の改善に取り組むことを目的としたプロジェクトです。プロジェクト名の由来は「Future Logistics Intelligent Network」。参加企業は、味の素株式会社、ハウス食品グループ本社株式会社、カゴメ株式会社、株式会社日清製粉ウェルナ、日清オイリオグループ株式会社、株式会社Mizkanの計6社です。各社の物流部門担当者が手を取り合い、それぞれが持つインフラやノウハウを活かして加工食品物流における新たなプラットフォームを構築し、同じトラックに荷を積んで共同配送などを行う。そんな「呉越同舟」のプロジェクトとして、スタートを切りました。

「F-LINEプロジェクト」は、働き方改革関連法(2019年4月施行)で物流における課題が浮き彫りになるより前に発足しています。

平:確かに、働き方改革関連法の施行をきっかけに物流の「2024年問題」がクローズアップされるようになりましたが、加工食品を扱うメーカーはかなり前から物流に関する危機感を抱いていました。2008年9月に国土交通省がまとめた『輸送の安全向上のための優良な労働力(トラックドライバー)確保対策の検討報告書』では「2015年にはトラックドライバーの需要は88万人超となるが、供給は74万2000人にとどまる=14.1万人のドライバーが不足する」という予測が立てられています。これは「2015年問題」と言われ、物流業界のみならず世の中に衝撃を与えました。
 2011年には東日本大震災が起こり、物流が麻痺。当時、メーカーの工場では、原料が届かないため製品を生産できず、また燃料不足などで製品の配送もできないという事態に直面しました。さらに、消費税増税を目前に控えた2013年末~2014年3月には、駆け込み需要により必要な台数のトラックを手配できない「欠車」が発生しました。私たちが物流に対して抱いていた危機感が、具体的な「危機」として顕在化し始めたわけです。

加工食品の物流には、業界独自の課題もあったとか。

平:もともと加工食品の輸送には、トラックドライバーから敬遠されがちないくつかの要素がありました。例えば、納品時における「待機時間」。全産業平均の荷待ち1回あたりの平均時間が1時間13分(『トラック輸送状況の実態調査結果』(2021年度) 国土交通省)であるのに対し、加工食品の荷待ち時間は非常に長く、過去には「30分の荷降ろしのために9時間以上待った」というケースもあったほどです。
 また、荷物の積み替えや仕分け、フォークリフト作業といった附帯作業が多いことも敬遠される理由のひとつです。しかも、加工食品は賞味期限のチェックが必要ですから検品作業にも時間がかかりますし、翌日配送のような短いリードタイム(発注から納品までにかかる時間や日数)に対応するために夜間作業が必要になることもあります。他業界に比べ運転以外の業務の割合が大きく、残念ながら近年では加工食品の取扱をやめる配送業者さんも増えているのが現状です。

そういった課題を解決に導くために『F-LINEプロジェクト』が誕生したのですね。発足以来、どのような取組を実施されてきたのでしょうか。

坂本:まず、3つのワーキングチームを置き、各チームがそれぞれのテーマに基づいて持続可能な物流体制の構築に挑戦してきました。チームの内訳は、中長距離幹線輸送(※1)の効率向上を図る「幹線輸送ワーキングチーム」、6社協同配送で配送効率の向上を図る「共同配送ワーキングチーム」、製造・配送・販売というそれぞれの過程で発生する各種課題への対応や、標準化の推進などを担う「製・配・販ワーキングチーム」です。
 具体的な取組の例としては、2016年3月にスタートした味の素株式会社と株式会社Mizkanの長距離の共同幹線輸送があります。これは、関東から関西への往路で味の素製品を運び、関西から関東への復路でMizkan製品を運ぶというものです。関東・関西の移動にトラックではなく鉄道を利用することで、モーダルシフト(※2)も実現。この取組により、同区間の輸送においてのモーダルシフト率は両社合計で約40%となり、CO2排出量も約20%削減することができました。
 ※1 「幹線輸送」とは、周辺エリアの大量の荷物を1つの拠点に集めてから、他のエリアの集積拠点までまとめて輸送すること。
 ※2 「モーダルシフト」とは、輸送手段を自動車から環境負荷が小さい鉄道や船舶などに転換すること。モーダルシフト率が上がるとトラックの必要台数が減るため、CO2削減も実現することができる。

■共同幹線輸送の取組例

※BCは「物流センター」の略
※センターの名称・スキームは当時のもの
出典:F-LINE株式会社

それは大きな成果ですね。他にはどのような取組をされたのでしょうか。

坂本:2016年4月に、プロジェクト参加企業6社による共同配送を北海道エリアで開始しました。それまで6社で合計4カ所あった配送拠点を2カ所に集約し、6社の製品を共同保管、共同配送するようにしたのです。従来は6社がそれぞれトラックで配送していましたが、共同配送にすることでトラック1台あたりの積載率が向上。その結果、1日に必要なトラック台数が75台から60台に減少し、CO2排出量も約15%削減できました。
 共同配送をスタートさせるにあたっては、各社の情報システムを連結し、物流情報を一元化しました。おかげで、6社の製品の在庫管理や配送車両の手配といった倉庫内での業務も効率化が図られました。

共同配送は九州でも実現されましたね。

坂本:はい。北海道では各社が以前から保有していた物流拠点を活用する形で始まりましたが、九州では物流拠点を新設するところから始まりました。それが2018年10月に誕生した「福岡第一物流センター」です。加工食品120万ケースを保管できるキャパシティを備えたこのセンターが完成したことで、全国で初めて、ひとつの拠点に6社の在庫を集約して保管することが可能になりました。さらに、センター開設にあわせて納品伝票の書式なども統一し、附帯作業の効率化も実現。2019年1月に、九州エリアの共同配送が本格スタートを切りました。

その後、2019年4月に全国規模の物流会社「F-LINE株式会社」が設立されました。

平:「F-LINEプロジェクト」で様々な取組を行ってきましたが、物流環境の改善は非常に対応が急がれる課題です。そこで、味の素株式会社、ハウス食品グループ本社株式会社、カゴメ株式会社、株式会社日清製粉ウェルナ、日清オイリオグループ株式会社の5社が出資して物流会社「F-LINE株式会社」を発足させました。F-LINEプロジェクトと同じ「競争は商品で、物流は共同で」という基本理念のもと、持続可能な食品物流の基盤構築を目指して、さらなる挑戦を始めています。

(向かって左から)
たいら・ともふみ F-LINE株式会社 物流未来研究所 所長。1966年生まれ。1989年、味の素株式会社に入社。家庭用商品の営業等を経て、2016年に物流企画部へ異動、F-LINEプロジェクトの担当になる。2022年からF-LINE株式会社へ出向。2023年、F-LINE株式会社 物流未来研究所の設立とともに所長に就任。
さかもと・たくや F-LINE株式会社 物流未来研究所 次長。1971年生まれ。1994年、カゴメ株式会社に入社。家庭用商品の営業、飲料の企画、SCM(サプライチェーンマネジメント)本部、営業推進マネージャー等を経て、2018年SCM本部 物流システム部(現・物流企画部)配属となり、F-LINEプロジェクトに参画。2023年、F-LINE株式会社へ出向、同社の物流未来研究所 次長に就任。
インタビュー一覧へ

このページの先頭へ